平成13年韓国大学物語:ヘイ・テクシー

新聞で読む世の中は白黒でした。

大学生というレンズはそこにあらゆる色を付け加えてくれました。

誰かと話す時、少しずつ対等に意見を言い合えるようになっていく事に気づく。


平成13年、日本で生まれた韓国人の僕はソウルへの大学進学を決意します。

絶えず喧嘩がやまない両国、いったい韓国ってどんな国なんだろう。

そこでの大学生活は決してニュースやメディアでは紹介してくれない、熱い、おかしい、変な人たちとの真面目な、カラフルな、時にハレンチな生活でした。


だからこれは日韓の話ではありません。
偏見といやな感じの韓国に飛び込んではディープな大人になった、

僕の冒険の話です。


遡る事約20年前、韓国で初めてカルチャーショックを受けたのはタクシーでした。とにかく安い!とにかく多い!日韓の初乗り価格は倍の違いがあるそうです。必然的に大学生のタクシー利用率も多く、私もなんどもお世話になりました。そしてそれだけたくさんの「出会い」がありました。


ある日の事です。僕と同じ大阪出身のヨンピルくんと夜中まで飲んだ日の事です。
ネオン街の明かりが消え始め、タクシーも減ってきました。

あちらこちらタクシー争奪戦です。

「ヘイ・テクシー!ヘイ・テクシー!」(へい・タクシー!)

僕とヨンピルくんはせっかくの酔いが覚めるのも惜しく「テクシー」を叫び続けました。 すると僕と距離をとった場所でタクシーを捕まえようとしていたヨンピルが走ってきます。


ヨンピル「なんなんやあれは!」

僕  「なんや、どないしたんや!」

ヨンピル 「今、間違いなくテクシーの運ちゃんとアイコンタクトしたのに、後ろのねぇちゃん乗せて行ったでぇ!」

僕 「ヨンピル!」


ヨンピル 「なんやぁ!」


僕 「お前がテクシーの運ちゃんやったら、言葉が通じるかわからん、いかにも日本人ですってやつと、若いねぇちゃんやったらどっちを乗せるん?」


ヨンピル 「若いねぇちゃんに決まってるやろ!」


僕 「せや!めげたらあかんで!ポジティブ思考や!海外生活は勇気と根性とラブや! 次のみつけるでぇ!ヘイ・テクシー!」


あきらかに乗車拒否なんですが、なんでもありなんです。酒に溺れましたと言わんばかりの「ザ・大学生」を乗せるか否かはドライバー次第です。それもそのはず、ちょっと前まで高校生だった大学生です。お金が足りない、口からかめはめ波(ゲロ)を出したり、寝てしまう場合もあり、ドライバー達にとっては災害になりかねないからです。

ある日は、こんな事もありました。


タクシードライバー 「どこまでですか?」


僕 「ソウル駅まで願いします」


タクシードライバー 「ソウル駅ってお客さん、どっか遠い所でも行くんですか?」


僕 「インチョン空港まで行こうと思ってるんです」


タクシードライバー 「えええ!!インチョン空港いくの?」


僕 「はい。。。。」


タクシードライバー 「俺さぁ、行ったことないんだよねぇ~! 一緒に行こうよ!ソウル駅と言わず、インチョンまで行こうよ!安くするよ。なんなら途中でメーター止めていいよ!」


僕 「いえ、あの。。いや。結構です。駅で友達も待ってるし。」


タクシードライバー 「携帯電話持ってる?友達に聞いてみなよぉ~行こうよインチョン空港~」


そうなんです。なんでもありなんです。割引、遠まわり、途中下車の要望などドライバーのキャラで決まります。結局駅に到着するまで駄々こねるドライバーさんでした。 もちろん、一般的には皆さま普通の誠実な方がほとんどです。 ただ、私は何故か個性豊かなタクシーに良くめぐり合っていました。 とにかく乗った瞬間から到着まで大統領の悪口を言うドライバー、武勇伝を語るドライバー、大学生への説教を始めるドライバー、身の上話を話し出すドライバー、人相を占うといって顔をジロジロ見るドライバー、夏にはヤクルトをくれる方もいました。おもしろくないですか?

ある夏休み、日本のバラエティー番組の撮影隊が韓国にやってきました。映像制作会社でバイトしていた僕でしたので通訳兼番組コーディネーターで「変わったタクシー」を探すことになりました。そして見つけたのが「ギタータクシー」


助手席にギターを置いているタクシーです。

なんと、赤信号のたびにドライバーがギターを弾きながら歌を歌ってくれるそうなんです。

今回は特別に韓国版リメークされた尾崎豊の「I LOVE YOU」を歌ってくれる事になりました。パチパチパチパチ!


早速日本から来たタレントさんを乗せてタクシー出発進行(撮影開始)!
順調にドライバーとタレントさんとのトークやり取り。
キターーー!赤信号◍!

ドライバーさんは早速ギターを引き出します。 タクシー内に広がる生演奏の音色。なかなかのもんです。 タレントさんも「おぉ~!」とリアクション。

そして歌いだします「アイ・ラービュ~♬ い。。。◍青信号◍

演奏ストップ。ギターを助手席に戻すドライバーさん。 「もっと聞きたいですねぇ~」とタレントさんもリアクション。

キターーー!赤信号◍!

ドライバーは早速ギターを引き出します。

そして歌いだします「アイ・ラービュ~♬ い。。。◍青信号◍

演奏ストップ。ギターを助手席に戻すドライバーさん。 「イントロまでしか聞けないんかい!!」とタレントさんがツッコミを入れて番組的には悪くないオチになりました。


大学生活の終盤、僕とタクシーとの出会いもクライマックスを迎えます。


いつものようにテクシーにのった私です。乗って驚きました。
タクシー内部が改造車だったのです。いわゆる車内アップグレードの世界じゃなくて、ドライバーの世界です。ヨーロピアンなクッションと高級絨毯で見そうな配色です。車の天井に至るまで手が加えられておりました。雑誌っぽいのもおいてあります。ドライバーさんは60代くらいのポッチャリ・ジェントルマンです。


僕 「ドライバーさん、素敵なタクシーですねぇ~。僕色んなタクシーを乗りましたが、こんなタクシー初めてです。ドライバーさんの趣味ですか?」


タクシードライバー 「はは、いや~まあ~そうですねぇ~」


僕は博物館の美術作品をみるように感心し続けました。何せ、クセのあるドライバーに出会い続けた私ですがクセのあるタクシーは初めてです。そしてタクシーの改造について聞いたり、どれくらいの金額をつぎ込んだのとか好奇心丸出しです。


タクシードライバー 「いやぁ~あまり言っちゃいけないんだけど。特に昼には言わないようにしているんだけど。このタクシーは特殊仕様なんですよぉ~」


僕 「いや、見ればわかりますよ。特殊すぎですよ。すごい高級感ですよ」


タクシードライバー 「そのぉ~そ見た目も特殊だけど、実はこの仕様のタクシーは大韓民国に4台くらいしかありません。まあ、1台は故障しているらしいから事実上これを含めて後3台しか動いてません。」


昼には言わないようにしている? 韓国に4台くらいしかないタクシー?

なかなか種を明かさないドライバーさん。僕は根強く聞きました。

いったいどういうタクシーなのか。


タクシードライバー 「お客さんみたいな若い人に喜んでもらえたのは初めてですよ。嬉しくなってしまう。特別に教えますが、絶対に内緒にしてください。」


僕 「はい!」


タクシードライバー 「実はこのタクシー。タクシーなんです」


僕 「タクシー?」


聞くと、このタクシー。センターコンソール(運転席と助手席の間)にモニターなどを装着でき、文字通りタクシー内でカラオケができるらしい。マイクもあり、照明も調整できる。よく見ると雑誌と思っていたのはカラオケ本だったり、色々仕掛けが見えてきたんです。

なんともすごいタクシー!


僕 「こんなのあったら、お客さん目的地についても下りないんじゃないですか?」


ドライバーさん漫勉な笑顔で答えます。


タクシードライバー 「それがですねぇ、下りないんですよ。実際は遠回りしてほしいとか、景色が綺麗な場所を通って欲しいとか、乗車時間が長くなるんです。」


僕 「な、なるほど!!!!歌を歌いたくて帰れなくなるんですね!いや、実際は歌を歌いながらソウル市内をドライブできちゃうんですね!!」 なんともすごいタクシー! 僕はまた色々感心し質問攻めですが、何故昼にはやっていないのか気になり聞きました。 タクシードライバー 「そうですねぇ。カラオケについては誰にでもお勧めしているわけではありません。私なりに選別してお声かけしております。主には酔っぱらったお客様になるんですが、何か辛い事があったり、落ち込んでいたりタクシードライバーでもいいから打ち明けたいって話出すお客さんっているんですよ。家に帰らないといけないけど、帰りたくない事もあるもんです。 だからパぁ~っと歌ってもらう。歌を歌うとみなさんの表情がスッキリされている事がわかります。乗る時の重い心が少しでも軽くなって帰宅してもらう。お酒が入っているんです。きっと自宅では歌を歌うカラオケタクシーが夢だったんじゃないかって思うんじゃないでしょうか。そんな事を想像すると楽しいんです。そんな不思議体験で次の日もまたちょっと頑張れるんじゃないかって。だから、昼の素面の人には言わないようにしているんです。なので誰にも言わないでくださいね。」


このタイミングで僕は到着。

なんなんだ、この国のタクシーは。ドラマしかないんかい! 無論、リアルな話をすれば違法改造扱いになり罰金の対象になるそうです。 それでもドライバーさんはお客様に歌を歌ってもらいたいと思ったんだと思います。

どうしてそんなに熱くなれるんだろう?

当時の僕には不思議でしたが、韓国で暮らした数年間、そんな熱く、時に温かく、さらに突っ込みどころ満載なタクシードライバーにたくさん会いました。無論、繰り返しますが普通に誠実に運転される方がほとんどです。でもやっぱり気になりました。 どうしてそんなに熱くなれるんだろう? 現在のタクシーは全然違います。乗って目的地を聞くとナビの操作テキパキ、到着する頃には近辺のお客様情報がスマホで表示、支払いはキャッシュレス端末にカードなどを乗せるだけ。一言もしゃべらない事も珍しく無いです。インバウンド対策もしっかりしてます。 さらに未来には自動運転になってくるのではないでしょうか。少し寂しい気もしますが、そんな時代にもロマン溢れるドライバーさんがいてもおかしくないんじゃないかと想像してしまいます。ドライバーのわがままに付き合って、聞いたこともないような非日常感あふれる場所でリモートワークできるかもしれません。ギタータクシードライバーは信号気にせず最後まで歌えます。カラオケ・タクシーのドライバーさんはきっと一緒に歌ってくれるんじゃないでしょうか。なんかそんな未来を思うと熱くなりました。 今後も急速に変わっていく世の中で、過去に出会った彼らから未来のタクシーを想像してしまいます。



このストーリーのBGM: ECHOES / ZOO 1989年、2000年

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