平成13年韓国大学物語:反米学生運動

新聞で読む世の中は白黒でした。

大学生というレンズはそこにあらゆる色を付け加えてくれました。

理不尽な社会に向けた興奮、怒り、不安、そして叫び。

かつては日本にも大学生たちが反発する時代がありました。韓国にもそういう時代があり、大学生徒会の幹部となれば時に指名手配、公安にマークされたり、拉致、拷問、失踪者もいたそうです。いったい何が起こっていたのでしょうか。奇しくも僕は消えていく韓国学生運動の中に紛れていました。


平成13年、日本で生まれた韓国人の僕はソウルへの大学進学を決意します。

絶えず喧嘩がやまない両国、いったい韓国ってどんな国なんだろう。

 

偏見といやな感じの韓国に飛び込んだ僕はディープな大人になりました。

だからこれは日韓の話ではありません。

僕の冒険の話です。


大学入学式で全新入生の前に現れた各学科の生徒会という組織。 まるで漫画に出てきそうな海賊団達です。個性豊かで魅力的な集団。 僕はすぐに憧れてしまいました。新入生がその輪に入るためには学年代表になるしかなく、僕は選挙に出ては当選し生徒会の活動に晴れて加わる事になりました。 そしてなんとなく手探りで韓国での大学生活を開始します。

ある日の事です。生徒会長からの電話です。


会長 「ねぇねぇ、明日暇?」


僕 「特に用事はないですが、何か?」


会長 「じゃあ、明日 パレード行こうよ。パレード。XX時にチョンノ駅のX番出口ね。」


僕 「わかりました」


翌日、僕は派手な黄色いジャンパーを着て待ち合わせ場所に向かいました。そこに会長はおらず、副会長的のドサン先輩がいました。いつもは車であふれる8車線道路が、この日はパレードで賑わっていました。しかし、なんだか華やかな雰囲気ではありません。頭にハチマキをしている人がいたり、チラシ的な物を配っている人がいたり、なんかゴヤゴヤ人がいたりしました。


ドサン先輩 「派手なジャンパーをきておるな」


僕 「いやぁ~目立ちますかねぇ?」


先輩はじっと僕をみた後、何も言わず自校の列に入っていき、僕も後を追いました。


みんなでスローガンを叫んだり、歌を歌ったりとなかなか楽しいと思いました。そして、パレードの行進が止まったり、走らされたり、歩いたり、また止まったりと感覚的には1時間から2時間ほどそうやって行進は続きました。結構長い時間です。なんとなく最初から違和感を感じつつもパレードという物が初めてであった事や、難しい韓国語も多く、深く考えず参加しておりました。 そして気が付くと、道路には石ころが落ちていたり、さらにはガラスの欠片など・・・・。するとドサン先輩が呟きます。


ドサン先輩 「万事休すか。」


僕 「はい?」


ガヤガヤとまた人が動き出し、気が付けば交差点に立ち止まっておりました。

何やら黒い服装の集団が交差点の三方を塞いでおりました。 そして僕は自分の目を疑いました。

道路を封鎖していたのは数百人単位の戦闘警察でした。


最悪にも僕は前から4列目くらいに位置しており、戦闘警官が棍棒を握りしめている事くらいは十分に見えておりました。周りのピリピリとした空気感が伝わります。


これ。。。。パレードじゃないっすよねぇ。。。


ドサン先輩 「生きてまた会おう」


僕 「はい?」


ドサン先輩 「逃げろ~~~~!!!!!」


その瞬間、三方にいた戦闘警官が一斉にこちら側に向かって走ってきます。 周りは踏みにじられた蟻の行率のように八方に逃げ出します。
状況も飲み込めていない僕は固まります。


「何突っ立ってるんだ!馬鹿野郎!しっかりしろ!」


そう怒鳴ってきたのは同じ大学の先輩でした。腕を掴まれ走り出します。

その場を逃げ出す学生達とそれを追う戦闘警察。

どうやら交差点だけではなく、多方面で戦闘警察が待機していたようです。僕はとにかく先方を走る先輩を追って走りました。そして、走っている最中に見えたのは地獄絵図でした。


棍棒で叩かれる学生。「助けてください!」と叫ぶ学生。頭を道路に押さえつけられる学生。警官に引きずられ泣き叫ぶ女子大生。公衆電話ボックスに逃げ込む学生。学生をかばおうと警官にしがみつく通行人だろうばあちゃん。あちこちから悲鳴が聞こえます。 さっきまでお祭り気分だった自分には信じられない光景でした。


先輩と僕を含め後二名ほど一緒に走り続けましたが行き止まりとなります。運悪く、それに気づいた警官がこっちに目掛けてきているのが見えました。万事休すとドサン先輩の言葉が何故か頭に思い浮かび、その場にいた先輩が僕にいいます。


大学の先輩 「いいか、お前、無条件日本語で叫べ、あいつ(警官)が着たら、とにかく日本語で叫びまくれ」


僕 「え?なんで?」


大学の先輩 「いいから言うとおりにしろ!」


警官が追いついてきました、棍棒を振り上げ、僕は叫びました。


僕 「お前なんだよコノヤロー!ふざんけじゃねぇぞ!俺はパレードだってきいたんだ! コノヤロー!ふざけんなコノヤロー!」


僕の頭はパニックで、とにかく猛烈に「コノヤロー」を言い続けていた記憶があります。警官は、日本語を叫ぶ派手なジャンパーを来た僕をみて少し固まっては急いで去って行きました。恐らく集会参加者ではなく、観光客と思ってくれたようです。


先輩の機転で乗り切ることができました。
何やら先輩が携帯で誰かと話します。

大学の先輩 「逃げ切れた人達で今、XX駅に集まっているらしい。このまま合流しよう。」


そう言ってはみんな彼を付いていきました。
韓国の地下鉄は日本と同じく、多数の出入り口があります。当然切符も買うし、改札口に切符を通して入るシステムです。駅に入ると、あちらこちらから集会に参加しただろう大学生たちがゾロゾロ姿を現します。切符を買おうとキョロキョロすると、大学の先輩がいいます。


大学の先輩 「いくぞ!」


僕 「いや、切符を・・・」


すると先輩は改札口目掛けて走りだしており、なにやら周りも走りだしています。

なんと、集団でどんどん改札口を飛び越えていくではありませんか。


ええ?ええ?いいの?いいの?


僕の心拍数は尋常ないレベルで動き出しますが、これはやるしかないんだと僕も改札口を飛び越えます。まるで映画のワンシーンに入り込んだ主人公にでもなった気分でした。とはいえ、コケると危ないし、後ろの人にも迷惑かけると思いつつ結構慎重に飛び越えました。 そして階段をおり、駅のプラットフォームです。そこには数十人単位で学生が座り込んでおり、全員頭にハチマキをしてスローガンを叫んでおりました。


大学の先輩 「ここまで来れば大丈夫だ。万が一警官が来ても、ハチマキをした連中を連行する。僕達は通行人のふりをすればいい」


僕 「あの。。ありがとうございました」


僕は正直、まだ何が起こっているのか、起こったのかも整理できない状況でした。 何もかもが物凄い速度で起こりました。

大学の先輩 「君の派手なジャンパーで助かったよ。普通集会でそんな服は着ないからね。君が日本から来ている事を聞いていたから良かった。じゃなきゃ、あのまま誰か一人は捕まっていたんだろうね」


僕 「いやぁ。。。僕。。。パレードって聞いてたから。。。。」


大学の先輩 「君、この集会の意味をしらないのかい?」


何も知らず参加した僕がかわいそうに見えたのか、先輩はその場を離れようといいました。

そして近くの定食屋でご飯を食べる事になりました。それから色々と説明してくれました。


パレードと聞かされていたイベントは学生運動でした。あのまま集団行進を続け、在韓アメリカ大使館まで進める予定だったそうです。さらに、止まったり、走ったりしていたのは途中から警官によって道がふさがれ、進路を変える過程でそういった事になるそうです。ただ、実際はそうした動きも警官による罠であり、集会参加者は誘導され、結果的には交差点で袋のネズミとなったという状況でした。


大学の先輩 「君は韓米自由貿易についてしっているかい?」


僕 「韓国は主力産業の車をアメリカに輸出し、その際の関税に置けるメリットを設ける。アメリカは米産牛肉を輸出し同じく関税メリットを設けるという協定と理解しています。

大学の先輩 「そう。新聞はそういう。韓国経済の成長がする。国民は安い価格で牛肉を食べれる。とかね。しかし、本当にそうだろうか?」


僕 「といいますと?」


大学の先輩 「韓国車が売れてお金を儲けるのは財閥だ。韓国車が売られるからと言って国民の暮らしが良くなるわけではない。財閥がより多くの利益を得られるよう国が外交を行っているんだ。もちろん、その利益は政府の仕掛け人にも巡ってくる。対してアメリカはどうだと思う?米産牛肉の輸出に関わる畜産業から始まり食品に関わるあらゆる業種を含め多方面で利益が生まれる。」


僕 「・・・・・・」


大学の先輩 「社会とはそういう物であろうとでも考えているんだろうと思う。ならばこれはどうだ。アメリカから輸入されてくる牛肉はすべて人が食べてはならない物だとしたら。」


僕 「どういう事ですか?」


大学の先輩 「つまり、アメリカの食品基準ではNGとなる牛肉が韓国の食品基準だと合格となり輸入されるという事だ。ちなみに不合格の経緯は主に牛が罹る病気に関連しているらしい。簡単に言えば病気になった牛を自国では食品として販売できず、ごみ処理に等しい形で韓国に輸出するという事だ。何もしらない国民は食卓に牛肉が並ぶ日が増えると喜んでいる。そのうち、国民が狂牛病にかかってもおかしくない状況だ。車を売って儲かった財閥は官僚と高い韓国牛でも食べるんだろうな。」


僕 「そんな理不尽な事があっていいんですか?なんで誰も。。。」


大学の先輩 「誰も?何故誰も声を上げないのか?上げることすらできなくなったんだ。中高生が声を上げればいいのか? 大抵の大人は家族を養うことでいっぱいだ。この国は上手くいっていると思いたい人がほとんどだ。じゃなきゃ、自分が毎日頑張って働いている事が報われない。だから政府に声を上げてケンカ売れるのは大学生しかないんだ。政府がやっている事はこれだけじゃない、アメリカとの理不尽な取引は数えきれない。ほとんどの国民は財閥とその財を必要とする政府によっていいように利用されているだけだ。」


僕は言葉を失いました。ちょっと前まで三食母親が作ってくれる温かい飯を食っていた高校生です。SMAPのライオンハートをカラオケで上手く歌えるようになりたいとか、ファイナルファンタジーXが楽しみだとか、ワンピースって何巻まで続くんだろうとか、もっと女の子と遊びたいとか。そんな事しか考えず生きてきました。


なんとなく世界は平和で平凡で、なんとなく、それなりに生きていく。
大学を卒業すれば就職し、結婚したりして、子供もできたり、そんな感じで生きていく。
その日、自分がものすごい分厚い壁の中で生きてきた気がしました。


神様なんてあったもんじゃねぇ。

世の中悪党だらけやん!


そして先輩にまた電話を取り何やら話しています。


大学の先輩 「それでは新入生くん。後は自分で考えるんだ。それと君の先輩のソンギンくんが逮捕されている警察署が分かった。場所を教えるから迎えに行ってあげるといいよ。豆腐買っていくの忘れるのよ。」


僕 「豆腐ですか?」


大学の先輩 「そう、豆腐を買うんだ。」


何故、豆腐を買うのかはさておき。僕はソンギン先輩が逮捕されている事に驚きました。いつも笑顔で虫一匹殺しそうにない、いや、実際殺さないし、平和の象徴と思えるほどの「いい人」だからです。聞けば、彼はわが大学を代表する特攻隊の一人だそうです。集会最前線で警官とぶつかりあう役の人です。勉強大好きの優しい青年が政府の理不尽な悪事の数々を許せず学生運動の世界に足を踏み入れたとの事です。 勉強もしないで国が決めたことに立てつくと言われていた学生運動。 実際は誰よりも正義感丸出しで後先考えず集会をしているようにも見えました。


夕方になっていました。教えられた警察署に到着。生徒会の先輩たちが集まっていました。僕は先ほどの先輩に聞かされた話をみんな知っているか聞いてみました。みんな、クスクスとそんな事も知らなかったのかと笑っていました。

「だから僕達大学生達が声をあげるしかないんだ」


そして、戦闘警察が走り出した時、固まったいた僕を、そして今回色々と教えてくれた人の正体もわかりました。


生徒会の先輩 「彼は大学全体を仕切る総生徒会の役員だ。君が姿を見たことが無いと文句を並べていた人達の一人だよ」


僕 「えええ???なんであんな群衆にまぎれていたんですか?普通、生徒会っていったら前に出て・・・」


生徒会の先輩 「総生徒会の人達は公安にマークされる場合がある。だから隠れて行動する場合が多いんだ。僕らなんて逮捕されても、今後集会に参加しませんと一筆反省文書いたり、何も知らずパレードだと思って参加しましたとか言えば即釈放される。彼らは逮捕されたらこじれる場合がある。反政府的思想を持ち、それらを広げているとし犯罪と解釈させられる場合もある。」


別の生徒会先輩 「韓国は終戦国家ではなく、休戦国家なんだよ。反政府思想は敵国の疑いがかかり、それに相当する容疑をもって解釈をあてられる。無論、敵国がそういった反政府的思想を広げようという活動を大学内でしていないとも言い切れない。しかし、君は今日聞いた話が敵国の為になる話だと思うかい?寧ろ誰が敵なのか分からなくなる事がある。」


生徒会の先輩 「ソンギンが出てきたぞ!おい、豆腐を持っていけ~~!」


そうやってソンギン先輩は何故か罰ゲームみたいに豆腐を食べさせられ続けては皆で笑顔で近所の韓国風居酒屋で打ち上げをしました。


居酒屋のテレビのニュースでは学生達がデモを開き警官と衝突されたと報道されます。

勉強する為に大学までいって全く困った物だとコメンテーターは言います。 この国の未来が心配だと番組司会者も追い打ちをかけます。 生徒会の先輩 「この国の心配をしているのは誰だよ。理不尽な真実を知って黙って勉強なんかしてられない。この国は権力者と財閥の支配により国民は利用され騙されている。 このまま好き勝手をさせてはいけないんだ。

その日家に帰って、僕は一日あった事を振り返りました。

衝撃的な事ばかりでした。それで考えました。

これからどうする? そもそも聞いた話が全て事実なのかさえ分からない。

僕はもう少し、この学生運動について、この国についても知ろうと思いました。 後少し、この海賊団(生徒会)達と行動を共にしようと思いました。



このストーリーのBGM: とんねるず / 一番偉い人へ 1992年



追伸:僕が大学を卒業する頃には大学生徒会は二団体による選挙となりました。これまで通りの社会的問題などを取り扱う団体と、学生運動を反対し大学生活の福祉や改善を訴える団体。時代は変わり後者一色になっていきます。そして、あれから20年、米産牛を食す事で病気になった被害者がいるというニュースは聞いたことありません。今思えば当時は頻繁に反米やアメリカに関連するニュースが注目されてました。どういう事でしょう?そうやって国民の嫌悪感がアメリカに向けられて間もなく日韓ワールドカップ開催、韓流ブーム到来、韓国の歌姫のBOAは日本レコード大賞に輝きます。そして、大阪出身の韓国人が韓国の大統領になります。


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