タイの時計屋でサリーちゃんに出会った。
【これは自分探しのために、タイに渡航した当時大学2年の私が、サリーちゃんという、何ともまあ女優・長澤まさみそっくりな時計屋の娘に出会い、淡い恋心を抱いてしまった話です。
…ああ、元気かなあ、サリーちゃん...。】
2009年、大学2年の夏。
私は、大学の授業に全く興味を持てずにいた。勉強が手につかない。
”大学で身につけた知識やスキルを活かして、会社で働きお金を稼いで家族を養う。”
そんな社会の流れは十分に分かっているつもりだったし、”将来のためにちゃんと学べよおれ!”などと言い聞かせてはいたけれど、頭が覚えることを嫌がってしまうほど興味のないことを、無理に見つけるなんて私にはできなかった。
授業中、マイクで拡張された教授の声を聞くと、いつも憂鬱になった。周りの机では、その声を追いかけるシャーペン、窓の向こうでは蝉がうるさい。(今思うと、親にとても申し訳ない事をした。)
ガリガリと勉強する友達をよそに、私は上の空だった。
「何であればのめり込めるのか。情熱を持って学び、将来の武器にできるのか。」
授業中はいつも、その事でぐるぐると頭が回った。
男だらけの工学部の教室、クーラーの吐き出す風に汗の臭いが混ざって鼻につく。私は焦っていた。
いったい自分は、何に興味があるのか。
大学2年の夏。期末テストを目前にしたある日、いつものようにそう考えていたら、
そんな思いがぽっと浮かんだ。
当時の私といえば、バックパッカーなるものを初めて知った頃。
バックパッカーとは、バックパックと呼ばれる少し大きめのリュック1つに、食料や着替え、携帯湯沸かし器から、列車の中でよみたい本まで、旅先で必要となる色々を詰め込んで、見知らぬ土地を歩いて回る人のこと。
「大学生の中には、そのバックパッカーというスタイルで、海外を旅するやつもいるんだ。」
先日、友人のMはそう教えてくれていた。そして、そんな彼もちょうどタイへ行ってきたんだと。
「タイに一人で行って来た。」
大学生って、そんなことしていいのかと、ちょうど驚いていた頃だった。
教室を後にして、キャンパス内を歩いていた私は、先日彼がいったその言葉を思い出していた。
私はスーパーチキンだったが、そういきり立ち、世界の貧困問題をこの目で確かめようと決意した。
このおれもバックパッカーデビューだ。心が踊った。
早速、旅する場所はどこにするかを考えたとき、
前にテレビで見たことのあった、人が住んでるゴミの山に行きたい、と思った。
国際協力への興味を本当の意味で確かめるためには、ある種の”最底辺”を見てみる必要があると思った。失礼な話だけれど、ゴミ山で暮らすというのは、貧困の最たる象徴だと思った。
そうして、私はバックパッカーを教えてくれた友人のMに、その事を伝えた。


ということで、私の計画は1人旅ではなくなり、行き先は一瞬でタイになった。w
当時の私は知らんかったが、タイは英語はあまり通じないものの、結構安全で食べ物もおいしく、物価も安いし日本から近い。人柄もいいし、女の子も1人でバックパッカーできるぐらいの国らしい。それに、世界中のバックパッカーがアジアと中東・欧州を行き交う際に集う国で、中でもバンコク市内にあるカオサンロードと言うある通りは、バックパッカーの聖地とも呼ばれる。
フィリピンのゴミ山、スモーキーマウンテンを訪れることを夢見て、最初に目指すはタイ。
初のバックパッカー、初の飛行機で初の海外、飛び跳ねるほどワクワクした。
そして、その時はまだ、あの子に出会うなんて知るはずもなかった。
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