私が代理店を受けたワケ

販売経験を通じて知ったリアルな購買行動

私は学生時代、大手家電量販店でキヤノンのプリンターを販売する仕事をしていました。

私がいた店舗では、週末になると狭い売り場に各メーカーから4人(キヤノン1人・エプソン2人・hp1人)の販売員が立ち、いかに自社のプリンターを購入してもらうか、しのぎを削っていたのです。
そのとき私が強く感じたのが、広告の力でした。
(私が販売員をしていた当時は、キヤノンとエプソンが国内シェアを二分していましたので、今回はキヤノンとエプソンの2つのメーカーについて、話をさせてもらいます。)

広告によるイメージ戦略

当時のイメージキャラクターは、キヤノンが長谷川京子さんエプソンが松浦亜弥さんでした。
キヤノンは老舗カメラメーカーとしての品格を重んじており、質実剛健安心感を大切にしているがゆえにインパクトが薄いクリエイティブだったのに対し、エプソンは当時大人気だった松浦亜弥さんのキャラクターを全面に活かした、インパクトの強い広告展開を行っていました。
それぞれのマーケティング戦略に基づいたものなので、どちらが正解かという話ではありません。
けれども、人気絶頂の松浦亜弥さんがもたらすインパクトによって、多くのお客さまの頭では「プリンター=エプソン」が想起されているという現実を、私は肌で感じることになったのです。

性能がいい方が売れる?購買行動の非合理性

合理的に考えればプリンターを購入したい人は、“紙にデータを出力する機能”が必要なのですから、「性能がいい方が売れる」に決まっています。
当時の製品は、色味や印刷スピード・インクの持ち=ランニングコストの低さ・静音設計など、総合的な性能はキヤノンの方が優れていました。(私がキヤノンの販売員だったから、そう思っていただけかもしれませんが。)
本当に「性能がいい方が売れる」のであれば、キヤノンが市場を独占してもおかしくありません。
しかし、先にも書いた通り、実際はそうではないのです。
売り場に来たお客さまの多くがまず向かうのはエプソンのコーナーでしたし、キヤノンが市場を独占するどころか、拮抗する状態が続いていました。

広告の力がもたらす“なんとなく”の重要性

エプソンの製品を見ているお客さまに声をかけると、
「なんとなく、プリンターはエプソンかなと思って。」
とおっしゃる方がほとんどでした。

プリンター自体の性能がいいので、エプソンに興味のあるお客さまにキヤノンの長所を説明して、最終的にキヤノン製品をご購入いただくのは、決して難しいことではありません。
しかし、当たり前ですが、来店されたお客さま全員に、キヤノンから派遣された私が接客できるわけではないのです。

まず、キヤノンは私だけなのに対し、エプソンは2人の販売員がいるという、単純な人数の差がありました。
さらに、学生の私が働いていたのは週末だけでしたので、それ以外は量販店に所属する店員さん(=キヤノン押しとは限らない)が接客することになるのです。
加えて、店員と話すのが面倒だというお客さまもいらっしゃいますし、店舗が混雑していて店員の数が足りないということだってあるでしょう。

1対1で接客して、お客さまに製品の良さをアピールできる確率が、どれだけ低いことか。

それを補うのが、接客以前に「なんとなく、エプソンかな」と言わしめる、広告の力だと知った私は、「直接販売することは学生の自分にも出来たのだから、代理店に入って“なんとなく”を生み出す仕事をしてみたい」と思ったのです。


代理店の営業とマーケターの違い

以上のような理由で、代理店の営業職を受けることにした私ですが、結果的には総合代理店の内定を辞退させていただくことにしました。
多くの面接を重ねているうちに、「仕事内容には惹かれるけれど、当の私自身が広告に影響を受けてモノを買うタイプではない」という、自分の中での違和感を見過ごせなくなってしまったからです。

そして辿り着いたのが、IT企業のマーケティングチーム。
私が代理店以外に受けた、唯一の企業でした。

マーケターの業務範囲は企業によって大きく異なると思いますが、私が携わった広告関連の仕事に限って言えば、
  • 代理店から提案された媒体枠の中から出稿するものを決める
  • 広告クリエイティブの原案を作る
  • アクセス解析をして広告効果を測定する
といったものがありました。

ざっくり言うと、代理店の営業は「広く浅く」、企業のマーケターは「狭く深く」だと思います。
外回りをして複数のクライアントやメディア間で交渉や調整をしたければ代理店を、社内で広告以外も含む包括的な販売戦略に携わりたいのであればマーケターを選ぶといいのではないでしょうか。
代理店の仕事には、ゼロから広告企画を生み出す楽しさがあると思いますが、それに最終的なGOを出す決定権はありません。
ひとつの製品に対する影響力だけをみれば、マーケターの方が強いはずです。
とはいえ、新卒で入社してピンポイントでいきなりマーケティング職に就くのは、なかなか難しいように思いますので、もしマーケターに狙いを定めるのであれば、長期的な視点が必要になってくると思います。

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