元引きこもりが香港船に乗り込んで麻薬検査を実施した話
「船が今月の〇〇日に到着するから準備をしてくれ」
検査用の試験管はこっちで用意しなきゃならなく薬局を探し回り、あとから購入代を支払ってもらうことになった。単発とは言い、メールや準備に数日かかってしまった。
当日バスで港まで向かい、ゲートのある警備室へ向かった。
ここまでが緊張して一番もっともらしいことをしたかもしれない。
ドキドキするが表面的でも威厳を保つ必要がある。
(麻薬検査だ! 門を開けろ!)
と行きたかったが通知を見せて、簡単な英語で検査に来たと伝えるとすんなりと目的の船に連絡を取ってもらえた。
少しだけ待ち、迎えの車が来るから乗ってくれと言われた。
湾内の移動は歩きではダメらしく船まで車に乗せてもらうことになった。
運転してくれたカナダ人と軽い雑談をしながら船まで向かう。日本よりカナダの人は気さくな人が多い。その日の天気とか仕事のこと、今日あったことなんかだ。
船の前で降ろしてもらい待っているとアジア系の乗組員が降りて来て「Sir!」と呼ばれた。
ハシゴのような細い橋で船までなんとか入った。
一等航海士のようで彼が親切に中まで案内をしてくれた。
僕は童顔なので日本人の中でも若く見られるし、海外だと10歳ぐらいは若く見られるのだが敬意で相手に使う場合もあるので、結構親切な対応だ。
「何人? 中国人かい?」
「僕は日本人だよ」
「へえ、珍しいね。日本人かい」
「俺、ワンピース好きなんだよ。見てる?」
(船乗りはやっぱりワンピース見てるのか)
そんな会話をしながら案内をされて、丁度乗組員が休憩中らしく何人か船外に出払っているとのことでしばらく待つことになった。
船内にいた腕にタトゥーのある乗組員に腹は減ってないかと口に手を運ぶジェスチャーで「飯、飯」と言われた。
「チキン、チキン、パン? ご飯?」
「あっ、じゃあご飯で」
と緊張感ない僕は食堂に案内をされ、お言葉に甘えてご飯をいただくことになった。船内の厨房にはテレビモニターがあり映画が流れていた。好きなの見ていいよとリモコン操作まで教えてくれる。壁には映画で見たようなお決まりのセクシーなポスターが貼ってあり、大型の貨物船なのもあって中は広くて快適な空間になっていた。
「何人?」
「日本人だよ。あなたは?」
「フィリピン人さ」
「じゃあ、フィリピンからの船?」
「いや、この船は香港からだよ。乗組員はほとんどフィリピン人だけどね」
「へえ、そうなんだ」
乗組員のおじさんは気さくだった。話を聞きながら、カリカリのチキンを頬張る。(あぁ上手い)
安易だが海軍カレーとか船乗りのご飯は美味しいイメージがあったので予想を裏切らない。(何しに来てんだ俺は…)
ご飯をご馳走になった後、しばらくすると外に出ていた船乗り達が戻って来たので全員を呼び集めてもらい、ようやく検査を実施することになった。
男臭の強い船乗りたちのおしっこを集めるというのは難儀な仕事でもある。事前に購入していたマスクと手袋を着けて準備に取り掛かり、マニュアルには一等航海士に手伝ってもらって臨時の病院を開けと英語で記載されていた。
指示通りに一等航海士に助手をお願いし必要なものを揃えて貰う。船内にアナウンスがなり徐々に呼び集めた船員たちが列をなしてきた。僕が名前聞いて検温機を渡し体温を測り、検尿用のプラスチックケースを渡してトイレに行ってもらう。
楽勝だ。
中には出ねえよと、おしっこが出ずに溜まったらまた来るよみたいな人もいたし、明らかに二日酔いみたいな顔のおじさんもいたが一時間ほどで乗組員全員の採取が終わった。
最後にまだ生温かいプラスチックケースをしっかりと密閉して一人一人の名前を貼り、持ってきたビニールバッグに入れた。
ふーっ
船長に礼を言って、僕は船を後にし再びゲートに戻った。
家に帰るとおしっこのケースがたくさん入ったビニール袋で密閉してダンボールに梱包し、Fedexで内容物にUrine(尿)と書いて指定先に送った。
麻薬検査の仕事はこれだけだ。
車を持っていないから港まで向かい、かなり広い場所で目的地を探すのは大変だったが面白い体験だった。
コロナでようやく日本はリモートワークに乗り出したが、海外、少なくとも僕がいたカナダでは働く方法と自由度がたくさんある。今回のケースはイレギュラーとはいえアプリ経由でやる仕事も多い。
何よりチップがあるのが良い。チップだけで生活費を賄えている人もいるくらいだ。
日本人は客は神でもなければ、サービスも本来タダじゃないぞとどこか頭に入れておいてほしいくらいだ。
コロナで未曾有のパンデミックになってから、あっという間に時間が過ぎたような気がする。どのニュースもコロナ一色で、怒涛のように過ぎた人もいるだろう。僕のように職を失った人もいるだろうし、逆に忙しくなった人。そんなに影響がなかった人も中にはいる。引きこもりだから関係ないと言う人もいるかもしれない。
以前よりストレスを抱えて生活をしているだろうか? やっていられなくなっていないだろうか?
日本と海外では色んなことにおいて環境が違う。今は頑張ってコロナ収束後に海外へ行くという希望を持つのもいいかもしれない。
ただ海外に行くなら気を付けなければいけないこともある。今回記事にしたドラッグもそうだ。日本よりも身近にあるし、僕の海外の友達の中にはマリファナを吸う人もいる。ただそれはそれ自分は自分なので、止めろとか非難するわけではない(人を傷つけたり、迷惑を掛けたりすれば別だが)日本では違法だが海外、いや現代はネットもあり国際化の中ではボーダレスだ。それくらい身近なことなので、合法化している国が多数あるという理解や知識。自分の責任は自分で取るということだ。
では最後にもう一度質問したいと思う。コロナが起こる前の出来事を覚えているだろうか?
尿検査で疑われる羽目にならぬように。
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