スペック・ハイ SP

スペック・ハイ、SP


(場面1)

 1945年、8月9日。アメリカ大統領ルーズベルトの執務室。

(側近)「では、大統領はどうしても広島に原爆を投下すると?」

(大統領)「きみはマンハッタン計画に金をどれだけつぎ込んだか分かっているだろう」

(側近)「はい」

(大統領)「使いもしない物にそんな金をつぎ込んだことを納税者は受け入れるだろうか」

(側近)「怒るでしょうね」

(大統領)「その怒りが次の選挙結果を左右するだろうな」

(側近)「おそらく」

(大統領)「今、ソ連が北海道に攻め込もうとして樋口(ひぐち)司令官に反撃されているという情報が入っている」

(側近)「そのようですな」

(大統領)「日本はドイツ同様、分割統治される予定だったが、今原爆を使えばアメリカの単独統治も可能だ」

(側近)「この話は表に出せませんね。出したらルーズベルト大統領の名前に傷がつく」

     原爆の爆発音。


(場面2)

 塾で高木先生と桜ちゃんが話をしている。

(桜 )「高木先生はどうして教育学部に進まれたのですか?」

(高木)「四日市高校の時にユネスコ憲章を知ったんだよ」

(桜 )「ユネスコ憲章ってなんですか?」

(高木)「『戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない』っていう宣言だよ」

(桜 )「ふーん、素敵な言葉ですね。先生って、ませてたんですね」

(高木)「実現不可能みたいだけど。人間は、真実の言葉に怒りを示す人がきわめて多いからさ」

(桜 )「どういうことですか?」

(高木)「たとえば、京都大学のような難関大に合格しようと思ったら平均的な生徒と同じ勉強量では不可能だろう?」

(桜 )「そうですね」

(高木)「学校の授業や普通の塾の授業はそういう少数派を対象にしていない。京大志望なら自分で勉強方法を立てる必要がある」

(桜 )「当たり前だと思いますけど」

(高木)「京大医学部医学科の子たちがやったこと、言ったことを生徒に伝えると『私はそう思いません!』と怒る保護者が多い」

(桜 )「たかが勉強法でさえ議論百出(ひゃくしゅつ)で収拾(しゅうしゅう)がつかない。世界平和なんて大きな目標ではもっと収拾が付かない、そういうことですか」

(場面3)

 員弁町(いなべちょう)の喫茶店ジャスミンで友人と話をしている高木先生。

(高木)「金子生弥(かねこいくや)という高校生が米国カリフォルニア工科大学大学院に飛び級合格したそうだ。賢い子たちは日本の大学を見捨て始めているかもしれないね」

(友人)「いわゆる頭脳流出ってやつか」

(高木)「そういう子は、高校レベルの学習は中学で終えているからさ。京大でトップクラスの人達は高校で時間を持て余してしまう」

(友人)「オレはそんな生徒の指導はお断りだね。馬鹿にされるじゃん!」

(高木)「心配しなくても、向こうからお断り(笑)。今年、南山高等中学校女子部を中退し京都大学医学部に進学した林璃菜子(はやしりなこ)さんという子がいる。この子の指導は私には出来ないね」

(友人)「お前でもか?」

(高木)「でもね、千葉大に飛び級合格した人は今はダンプの運転手をやっているそうだから17歳や18歳では将来のことは分からない」

(友人)「そうだな。灘(なだ)高校を卒業して東大理Ⅲ(りさん)に進学した和田秀樹(わだひでき)さんはお前と同じ受験産業で生きているもんな」

(高木)「イジメもあるし。私の教えていたアメリカの中学校では日本の大学のように教科ごとに教室を移動していた。クラスという単位がない。狼と羊を朝から晩まで同一空間に監禁(かんきん)するようなクラスという単位は廃止すべきだよ」

(友人)「そんなこと言うと「団結」「絆」「ワンチーム」好きなヤツらから叩かれるぞ(笑)。そんな精神論が弱い子たちを追いつめているんだけどさ」

(高木)「先日も中学2年生の女の子が電車に飛び込んだ。辛かっただろうし、痛かっただろうなぁ」

(友人)「実は、オレ、いぼ痔でさ。こうして座っているだけでも痛い。それにしてもジャスミンの生姜(しょうがやき)焼きはウマイ!!」

(高木)「前から思っていたけど、お前って、ホントにサイテーだな」

(場面4)

 ユリちゃんが高木先生の塾に挨拶に来ている。

(高木)「私は英語の資格試験で39通の合格・不合格通知を受け取った。こんな才能の無いヤツは聞いたことがない」

(ユリ)「でも、先生のことを描いた漫画がエール出版の2020年、2021年、2022年度の『私の京大合格作戦』に3年連続で掲載されていますよね」

(高木)「大学時代の彼女とは破局したし、バツイチだしね。今は田舎の無名の塾講師」

(ユリ)「それでも、四日市高校の私の同級生は先生のことをYouTube やアメブロでよく知ってましたよ」

(高木)「鈍行列車でないと見られない景色ってあるんだよ。それを希望する子たちに伝えているだけ」

(ユリ)「そういえば、私は家庭教師のバイトをしているのだけど説明がうまくない。賢すぎるのかな(笑)。私は高木先生に勇気をもらいましたよ」

(高木)「そうか。ありがとう」

(場面5)

  外国人による「日本語弁論大会」の会場。アメリカからの留学生(女性)が壇上で話している。

「私は日本にやってきて3年になります。日本の歴史を学びました。織田信長はポルトガルやスペインから世界情勢について学び、日本を変えようとしました。西郷隆盛は、イギリスから多くを学んで新しい日本を作ろうとしました。第二次世界大戦後、日本は生まれ変わったはずでした。

  しかし、成功していません。日本を変えるためには教育、つまり学校が変わらなければいけません。ブラック校則、ブラック部活、ブラック・クラスは廃止して自由な学校に生まれ変わらせないと、世界から置いてきぼりになります。私は日本が好きだから本当のことを言っています」

  人間が生きていくにあたって最も肝心なことは一人ひとりの人間の柔軟な感性と個性に対応できるようなシステムが保証されていることである。

                                    =カール・マルクス=

 終わり

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