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死体はふたつ①

Image by Olia Gozha

 これからの時代、死体はふたつセットで発見される。どこかの監察医の先生がそう書いていた。

 介護者が死ねば要介護者も死ぬ。

 少子化と核家族化が進み、家族同士のつながりが薄くなって1対1の介護が増えており、介護者が死んですぐには発見されないケースが増えてきた。介護者が死ぬと要介護者は何もできないので、そのまま衰弱死する。そしてしばらくしてからふたつセットの変死体が発見される。

 実際、その監察医が扱うふたつセットの変死体数(法律上、病院などの管理下以外での死体はすべて変死扱いされるらしい)は急増しているのだそうだ。

 

 母の夜尿がひどい。

 何らかの異常があって体内の塩分が足りないらしく、採った水分がどんどん体外に排出されてしまう。夜中に何度も起きてトイレに行く。ズボンを下げるのが間に合わないので、下半身がびしょびしょになってしまうことが何度もある。夜用のオムツパッドも使っているが、周囲を汚してしまう状況にはいまいち効果を発揮できていない。

 昨晩は、午前1時のトイレの時は気が付くことができたのですぐに始末した。汚物をふき取るのは時間と手間が掛かかり、こういう緊急時にどうしようもないので、100均で売っている200円のトイレマットを愛用しており、汚れたらそのまま捨てる方針にしている。

 今朝、起床時に母の姿を見たら、パジャマのズボンがいつの間にか履き替えられていた。

慌てて穿いていたはずのズボンを探したら、びしょびしょのまま、キチンと畳まれて掛け布団の間に隠されていた。もちろん毛布も汚れてしまっていた。

 トイレの失敗は、介護者の負担も大きいが、本人の精神的ダメージも相当なものらしい。

 汚れたトイレマットをビニール袋に入れながら、半泣きの母に「大丈夫。大丈夫。」と声を掛け続けたが、絶望している母は「もう施設に入った方がいいのかな」とずっと譫言のように繰り返していた。トイレクイックルで周りをふき取り、オムツもオムツパッドも新しいものに取り換えて、「ほ~らキレイになった。全然大丈夫だったでしょう?」となぐさめると、母は安心したように、

「あなたがいてくれてよかった。ひとりじゃ生きていけない。」

とため息をついた。

 

 そうです。私がいなくなったらあなたは生きていけないのです。ただし私も自分の寿命はそうそう自分では決められません。もし私が心臓発作で倒れたら、どうしようもないので諦めてください。あなたにできることは、私が死なないことをただ天に祈ることだけです。

 

 愛用している200円のトイレマットがダイソーの店頭から姿を消した。取り扱い終了になったらしい。キャン★ドゥでもトイレマットが売られているが、この100円のマットは少しサイズが小さいので床をカバーしきれない。どうしたものかと頭を抱えている。

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