中学2年の定期テスト3日前に右手首を骨折し全てテストを全て左手で受けた話

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「青天の霹靂」
こんな有名な言葉があります。
意味:予想もしなかったような事件や変動が、突然起きること。
学校で習う有名なことわざの一つですが、
人生でこの言葉を初めて体感した日でした。

【事故は突然やってくる】

2学期の中間テストを3日後に控えた夕方、
当時テスト前だからと言って大して勉強なんかしてない僕は
「適度な休憩は大事」
と言い訳で自分を納得させ、近所の書店に毎週月曜恒例の週刊少年ジャンプを買いに行った。
歩いても3分ほどの道のりを、当時から横着な僕は自転車にまたがり向かう。
生まれてからおよそ13年間、何百回と通った道、
道中唯一ある信号を、軽快に渡り、縁石を乗り越えるときにそれは起こった。
『豪快に』こけたのだ!
わずか数センチの縁石とは言え、切り立ったそれに対する前輪の進入角度が大幅に甘かった。
しかしだ、自転車で転ぶなんて子どものうちはよくあることではないか。
とはいえ、当時の僕はかけっこもサッカーもバスケも跳び箱も、とにかく運動全般に苦手意識を持っていた。
あまりの不意打ちに対応できるほどの
「反射神経」
という術を持ちあわせていなかったのだ。


流れるように倒れる自転車、
下敷きになる僕。
一瞬の出来事がスローモーションに見えたのを今でも鮮明に覚えている。
顔から地面にご対面し、すりむく頬、膝、腕。
ここまでなら可愛い子どもの怪我なのだが、
痛みに耐えながら起き上がった僕は、自分の手首をみて唖然とする。
「あっ手首がおかしな角度に曲がってる。」
「骨折」とのファースト・インパクトはそんな感じだった。
※転んだ瞬間に折れたなんて全然気づかないものです。


とにかく
「あっなんかマズイことやっちまったな」
と。そんな感覚。
この間転んでから約10秒。
痛みに耐えながら良からぬ方向に曲がった右手首を呆然と見ていると、
交差点にいたおばさんたちが辺りに集まり始めた。
当時内気でシャイだった僕は、ケガの痛みよりもこの注目を浴びる恥ずかしさに耐えられず、
生き残った左腕で自転車をお越し、片足を引きずりながら、
ジャンプを買うという目的も達成できず家路を急いだ。
この時、その後待ち受ける苦しみなど、当時中学2年の僕には知る由もなかった。

【「悶絶」僕はこの言葉を忘れない】

「悶絶」
意味:苦しみもだえて気絶すること。
中学で習うには少々難しい漢字。
机上ではわからないこの言葉の意味を僕は体得した。
オーバーに聞こえるかもしれないが、
一人っ子でぬくぬく育った僕には、まさにこの言葉がベストな表現に感じた。
気力を振り絞って家に帰ると、傷だらけの僕を見て母親が驚く。
おかしな方向に曲がった右手首を見てさらに驚く。
現場が家からわずか100mの交差点と知って3度驚くとともに、
交通事故にでも遭ったのではないかと思っていた母親は半ば呆れていた。
そういう時の表情って、あれから十数年たった今でも意外と鮮明に覚えていたりする。
仕事から帰宅して晩酌をしていた父親は
「馬鹿だなぁ」
と一言。
親子だな。と成長した今なら思える気がする。

とはいえ、この少々おかしな方向に曲がった右手首さんをこのまま放置するわけにはいかないので、
近所の接骨院まで母親に連れられて歩いていくことになった。
この道中も、右手首の痛みよりも傷だらけの僕を見る好奇の目への恥ずかしさと
「どうか知り合いに会いませんように」
そんなことばかり考えていたのだから、僕という人間の小ささが伺える。
時間にして15分ほどだろうか。
事件発生からここまで30分ほど。
僕はひたすら「当たり前の日常なんて一瞬なんだな」
と心の中で無限ループの様に思っていた。

近所の接骨院、そこは近所でも元気のいい先生で有名な接骨院。
ドアを開けると「こんばんは~」と威勢の良い挨拶と、これまた患者のおばさま方の好奇の目が僕に降り注ぐ。
傷だらけの顔で激しく挙動不審な僕を見た先生は、
優先的に診察をしてくれ、開始5秒で一言
「あっ折れてますね、右手首」と
認めたくなかった事実と、人生初の経験はこうしてあっさりと現実のものとなった。

早速レントゲンを取ると、
あっさりというかポッキリというか、折れている事だけは素人の僕でも理解できた。
先生からしたら骨折なんて珍しいものではないのだろう。
なかれ作業の様に診察が進んでいく。
すると、僕のまわりがにわかに慌ただしくなり、椅子のまわりの余計な物が全てどかされ、
左右に先生が配置され、3人体制となった。
「骨折は初めてだよね?」
「はい・・・・」
「じゃあかなり痛いと思うけど骨をもとの位置に戻すから我慢してね」
「??!!??」
「えっ!?戻す」
「うん。(右手首を指して)この曲がった分を戻さないといけないから今から戻すね。」
と言われ、問答無用で左右の先生が僕の肩と腕をそれはそれはガッシリと押さえ付ける。
急に真顔になる先生。
「じゃあいくよ、舌噛まないように歯食いしばってね」
僕の返事なんか待つ暇もなく
「グゴギュ」
こんな表現だろうか。
骨と骨がぶつかり合い、元の位置に戻ろうとした瞬間だった。
あまりの痛さに気を失いそうになった。
教科書でしか知らなかった「悶絶」という言葉が頭のなかでスパークする。
痛さで言葉も出ない僕。
しかし先生は職務を淡々とこなしていた。
「あーもう一回だねー。ごめんねー。」
「グゴギュ」
「!!!!!!」
2度目の悶絶が全身を襲う。
意識が飛びそうになる中、
「もう大丈夫だよー」
という先生の妙に軽い声だけが耳に残った。

【右がダメなら左を使えばいい】

僕の右腕は4本の指が第二関節まで動かせるのみであとは鉄板で固定され、
包帯でぐるぐる巻きになった。
今回は右手首の親指に近い部分の骨を折ってしまったため、
親指にちょっとでも負荷をかけるもの激痛が襲った。
なんとかなるかなんて思っていた楽観主義は全くなんともならず、
ペンはもちろん、お箸、スプーンにフォークと何も持てない右手となってしまった。
医者が言うには右手首の関節の複雑な部分を折ってしまったので、
ギブスが外れるまでに2ヶ月、全治3ヶ月との診断だった。

家に戻っての初めてのご飯は文字通り「犬食い」である。
当たり前の事が当たり前にできないってこういうことなんだなーと、
妙に自分を客観視しながらご飯を食べ、腕にゴミ袋を巻いてお風呂に入った。
間近に迫ったテスト勉強などする由もなく、
接骨院の帰りがけに買ったジャンプを読んでそうそうに寝た。
が、眠れなかった。
傷が疼くのである。

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