お尻からカメラを入れられた話(1)
「ん?」
ある朝、大便を終えると便器に鮮血のようなものがついていた。
まれに立派な便でお尻の穴が切れてしまうことはあるものの、便器に飛び散るほどに血が出るのは初めての経験で、さすがにちょっと焦った。帰省中の奥さんに電話で相談した。写メを送るのはやめておいた。
とりあえず、「血便が出たので病院に行ってきます」と会社に電話して午前休をもらい、病院に行くことにした。
待合室では、お尻を浮かせる女豹のポーズでソファを大胆に使い、身体を支えていない方の手でFacebookのフィードのひっぱり更新を連発しながら、自分の名前が呼ばれるのを待っていた。
結構長い間待った後に名前を呼ばれ、サクっと診察は終了したのだが(何をしたのかは覚えていない)、先生から

医師
ちょっとよくわからないので、○○検査をしましょう
という提案があり(○○の部分は聞き取れず)、そのまま選択の余地も無く検査の日程を押さえられてしまった。
結局、別室で検査の説明を受けてから帰ることになった。
面倒くさい検査なのかなぁと思いながら説明を受け始めて数分で、自分が受けるのは
「お尻からカメラを入れる検査」
だと言うことが分かった。
僕はその瞬間に頭が真っ白になり、看護婦のおばちゃんの説明が全く頭に入って来なくなってしまった。
注射も嫌いな自分が、お尻からカメラだと。。
今までお尻から何か出すことはあっても、入れたことなんて(そんなに)ない。自分のお尻の毛を筆に例えているわけではないが、お尻にモノを入れることに関しては筆下ろしなのである。
僕はこう見えて男らしいところがあって、やると決めたらやる男だし、イヤだと思ったことはどう説得されてもイヤだと思う男である。今回は男らしさ全開でイヤだった。絶対に、操を守ってみせる。
そんな覚悟を決めるのと同時に、先ほどの医師に対する激しい怒りがこみ上げてきた。
絶対にこの検査は大げさだ。
「何かよく分からないから念のため」レベルで、こんなコワイ検査を強要するなんて。「ちょっと胃がムカムカするんですよね〜」と言っただけで、「じゃあ胃カメラ撮りましょうか」となるわけがない。
「先生!カメラの力に頼らずに、自分の力でもう一度、僕のお尻の穴を見ていただけませんか!」
「ねぇ、先生!僕は、本当は、ただの切れ痔なのではないですか!」
「ねぇ、ねぇ先生!実はただの切れ痔だったとして、カメラのせいでもっとお尻が切れたらどう責任取ってくれるんですか!」
などと心の中で憤慨しているうちに検査の説明は終わり、最後に看護婦のおばさんから衝撃のひと言が放たれた。
「たぶん、この検査… 結構効いちゃうと思う」
著者の渡辺 将基さんに人生相談を申込む
著者の渡辺 将基さんにメッセージを送る
メッセージを送る
著者の方だけが読めます