ひとり旅でフラフラしていたら、超偶然に、某有名旅雑誌のモデルに現地スカウトされてしまった話

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「キミ、ひとり旅かい?」

「え?はい、そうですけど・・・?」
「『旅の手帖』という雑誌の記者なんだけど、実は今書いてる記事のテーマが『ひとり旅』でねえ。キミ、良かったら、記事のモデルになってくれないかい?」
「・・・・!?」
超偶然に、こんな事が起こったのは、こんないきさつだ。
2010年当時、私はとある事情で大学を休学し、東京に住んでいた。
ある日時間ができたので、ふと自由にきままに、どこか遠くへ出かけてみたくなった。
理由も無く、とにかく北へ。
普通電車で、その日のうちに、行けるだけ遠くまで。
全くの無計画・無目的・無鉄砲なひとり旅。
行った先に何が待ち受けているのか、もちろん知る由もない。
朝5時過ぎに、東京の自宅を出る。
昨夜は豪雪。滑りやすい道の上を、注意深く駅まで慎重に歩いていった。

自宅の最寄り駅から、まずは東京駅へ。
それから京浜東北線で大宮駅へ。その後は順々に、東北本線を北へ北へと乗り継いでいく。

7時過ぎには、埼玉県の久喜に着いた。
途中下車して簡単な朝食を取る。
9時ごろに宇都宮駅へ到着。
その後は黒磯、郡山、福島、仙台へと、順々に電車を乗り継いでいく。

仙台では少し気分を変えて、山形方面へ針路を変えた。
この時既に、夕方の5時。
山形からも北に進み、最終的には夜9時前に、新庄駅に到着した。

しかしその日は、観測史上に残る暴風雪。
雪の中やる事も見つからず、翌日は仕方なしに太平洋側へ向かうことにした。

電車に揺られる中、ふとこんなことを思いついた。
「そうだ、気仙沼のフカヒレを食べに行こう!」
先日たまたま、テレビの特集を見たことがあったのだ。理由はたったそれだけ。


気仙沼には、午後2時ごろに到着。
港町でさっそくフカヒレラーメンを食べ、早くも旅の目的を達成。
後は一人でふらふら街を散策して、のんびり過ごせればそれで良かった。

街中を簡単に散策しつつ、港の近くの手頃な旅館に宿を取ることにした。
部屋で少し仮眠を取ってから、旅館に付属の割烹に夕食を食べにいく。
名物のもつ鍋を食べて、心ゆくまでひとりの贅沢を楽しんだ。

なんでもそこは、雑誌で取り上げられたこともある、名の知れた老舗割烹なのだそう。
そしてその日も、たまたま割烹の取材日にあたっていた。
自分の席の後ろの方で、カメラマンが何枚も店の写真を撮っていた。

でももちろん、自分は全く関係ない。
食事を済ませると、すぐさま自分の部屋に引き下がった。

なんと言っても、2日で優に12時間以上も電車に乗っている。
疲れていたので、もう早く寝たいと思っていた。

ところが部屋に行くと、ポケットに入れたはずのカギがない。
いろいろ探しても見つからず、とりあえず先ほどの割烹に戻ることに。
しかしさっきの席を探しても、全然見つからない。

「ひょっとして、これかい?」
そこには顔を少し赤らめた、陽気な中年のおじさんが。
カギを手にして、こちらに親しげに話しかけてくれていた。

「あ、はい。ありがとうございます!・・・どうもすみませんでした」
自分の後ろの席には、4人組の男性が、宴もたけなわな様子で陣取っている。
恥ずかしさもあり、邪魔をしたくない気持ちもあり、
簡単な挨拶だけしてそそくさと立ち去ろうとした。すると別の男性が、

「キミ、ひとり旅かい?」
「え?はい、そうですけど・・・?」

男性は素早く名刺を取り出し、こう言った。
「『旅の手帖』という雑誌の記者なんだけど、実は今書いてる記事のテーマが『ひとり旅』でねえ。キミ、良かったら、記事のモデルになってくれないかい?」
「え・・・っ!?」

雑誌の記者?記事のモデル??
あまりに唐突すぎて、言葉が出ない。そして全く状況が呑み込めない。

話を聞いてくと、どうやら翌日の取材に同行して、写真のモデルになってもらいたいとのことだった。
太平洋を一望する露天風呂、普段は入れない魚河岸に、リアス式海岸からの絶景、特選レストランでの海鮮料理・・・。
費用はもちろん全て賄ってもらえるし、やることと言えば、写真の被写体としてたまにポーズを撮るぐらい。

「え、でも、僕なんかでいいんですか!?」
「今ちょうど、記事のストーリーをどうするか悩んでいてね。。。旅先でひとり旅の青年と出会って、一緒に旅を続ける。良いストーリーが書けそうだよ!」

最初はうますぎる話に、もちろん疑心暗鬼だった。
しかしそうこうするうち、刺身を勧められ、鍋を勧められ、お酒も勧められていく。
話も旅のことやら気仙沼のことやらで盛り上がり、気づけば遅い時間まで、全員ですっかり意気投合してしまっていた。

4人のうちで一人は雑誌の記者さん、一人は雑誌専属のカメラマンさん、あとの二人は気仙沼市の職員の方だった。その日4人は1日かけて気仙沼を取材していて、翌日は夕方ごろまで、南三陸町の方へ取材に行くスケジュールだった。

1日でも旅の予定がずれていれば、この出会いは全く無かったのである。
ましてや違う旅館や割烹に行っていたり、うっかりカギを落としたなんてことが無かったりしたら、なおのことだ。
結局その日は12時近くまで、ずっと一同で盃を交わし合っていた。
そしてもちろん、私は翌日の同行を承諾。
元より何も予定も目的も無い旅が、こんな偶然で、一気に様変わりすることとなった。


翌朝は魚河岸の取材のため、朝6時に港に集合。
氷点下の猛烈な寒さで、海からは煙のようなものが濛々と上がるほどだった。

魚河岸の中は、ボランティアの地元女性が案内をしてくれた。
記者さんは熱心に話をメモに取り、順序良く淡々と魚河岸の隅から隅へと案内が進んでいく。

私はと言うと、漁業の聞きなれない言葉が多く、また寝起きで極寒の中という事もあり、案内の言葉が半分も頭に入ってこない。

しかし四方八方には、自分のこれまで聞き知らなかった世界が騒然と広がっている。

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