29人生の岐路 / すべてを失う気はありますか?
テレビ制作会社に内定が決まった夜、私は考えた。
実は、親には言ってはいなかったが、契約社員として採用が決まったのだ。
募集要項から知っていた事実。
でも親には嘘をついた。
心配させたくなかったからだ。
実力で勝ち上がるテレビの世界。
正社員になるにはそれなりの結果を出す必要があったのだ。
半年か1年か、さらに先か…
人それぞれ。
制限がないため、正社員にあがれる保証はなかったのだ。
その夜、はじめて雇用のことについて考えた。
闇雲に内定がほしく飛び込んだテレビの世界。
もちろん、テレビの製作には関わりたい。
でも、好きだけで続くのだろうか…と考え出したら、一気にやる気がなくなった。
このままで良いのだろう…と。
さらにどん底に向かう決定的な情報が目に入る。
ブラックだ、と。
テレビ制作の子会社なんてブラックが多い。
でも、その時はやる気のかけらさえも無くなっている状態だったから全てを真に受ける。
これから働く会社がブラックか、と思うと、働く気が失せた。
その決定的な証拠が、面接を受ける前に電話が掛かってきた時の一言だった。
たぶん、採用担当者からだと思う。
「テレビの業界が大変なのはご存知かと思いますが、
あなたは、
すべてを失う気はありますか?
女を失う。恋人を失う。友人を失う。
それでもテレビの制作に臨めますか?」
その時の私は両立できると思っていた。
いや、そう思うしかなかったのだ。
なぜなら、内定がほしかったから。
けれども、本格的に働くまでの猶予に考えた。
まさに内定が決まった晩。
恋人を失うのは嫌だ、と。
冷静に考えた。
さらに、倒れたくない、と。
現場で倒れたら多くの関係者に迷惑をかける、と。
断るための口実だったかもしれない。
倒れるとは、
大学3年生の時に突如、意識がなくなり、大学で倒れた。
視野がぼやけ始め、白くなったと思った途端、私は倒れていたのだ。
偶然、管理人さんがいたため、起こして頂き、取り合えず、休むようにと管理人さんの休憩室に運ばれた。
しかし、再びのめまい。
意識が朦朧とするまま、倒れた。
さすがにこの状態だと…と思った管理人さんは研究室にお願いをして救急車を呼んだ。
なぜか、照明のぼやがあり、大学には救急車と消防車とパトカーが来る大惨事。
近所の知らない方にも見守られる中、私ははじめて救急車に乗りました。
びっくりするほどガタガタ動き、意識がしっかりとし始めた私にとって、救急車の中は居心地が悪すぎた。
検査をしたが、原因不明だった。
だからこそ、多忙なテレビ制作で倒れたら元も子もない。
それだけは避けたいと強く思ったのだ。
翌日、理由を言い、テレビ制作会社から身を引く事となる。
他の2社も諦めた。
今もなお、諦めたことは後悔している。
今もなお、テレビ制作に関わりたいと思っている。
でも体が大切。
雇われての制作は一生できない。
また職を失った。
自分から蹴るだけなんだけどね。
もっと慎重に行こうぜと言いたくなるが、この時の精神状態は崖っぷちだった。
そして、事件は起きる。
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