自転車で事故りかけた話

高校二年、秋。
金曜日、学校からの帰り道。
あ、今日金曜日じゃーん。明日学校休みじゃん?
夜更かしできるー\(^o^)/
なんてことを考えてた、いつもと何も変わらない帰り道。
ちょっとだけいつもと違ったのは、ケータイを片手に電話しながら自転車をこいでいたこと。
せまい裏道なら、車もあまり通らないし
まぁ、気をつけてれば大丈夫でしょ。
実際、今までだって事故ったことなんかないし。
そう思っていた。

その頃のわたしは悩んでいた。
病んでたともいうのかも…
自分は必要なのか?誰かに必要とされてるのか?
わたしが死んだら悲しんでくれる人なんかいるのだろうか…
なんてね。考えてましたよ。

電話をしていた相手は、結構仲良しな男の子。
男の子といっても、自分よりは年上だが。
恋人じゃない、でも毎日電話をする仲。
いわゆる友達以上恋人未満てやつ。
わたしはその子に片思いしてる。
向こうはどう思ってるか知らないけど。


裏道を抜けて国道に出た。
夕方だし、車も結構走ってる。
『車の音うるさいねー(笑)』
なんて言いながら走ってたっけ。
脇にはたくさん店が並んでるような場所。
結婚式場とか、車屋も。
当然、駐車場もあるわけで。

いつも車なんか出てこないし
出てきても向こうがとまってくれるでしょ。
ぶつかったら向こうが悪くなるわけだし(笑)

そう思い通り過ぎようとした。
そのとき駐車場から車が出てきた。
向こうはわたしのほうを見ていなかったのか、とまってはくれなかった。
わたしはとっさにケータイを制服の胸ポケットに入れて、自転車のハンドルをきった。
バランスを崩す自転車。
やっと気づいてとまる車。
バランスを崩したわたしはそのまま車道のほうに倒れこんだ。
カゴの中のカバンやお弁当箱は外に放り出され、胸ポケットに入れていたケータイも車道のほうに飛んで行ってしまった。
運がいいのか悪いのか、車道のほうは渋滞していて、車の流れはとまっていた。
けどわたしは車の流れとすれ違うようにして走っていたんだ。
つまり転んだところを思いっきりとまってる車の運転手達に見られたことになる。
恥ずかしい。
倒れたままいるわけにもいかず、即座に立ち上がる。
ケータイを拾って、通話中のままの画面の、ミュートのボタンをおした。
ぶつかりかけた車の運転手も出てきてくれた。
30代後半って感じの男性だった。
大丈夫ですか?
声をかけてくれて、カバンや倒れた自転車を戻してくれた。
怪我はありませんか?
わたしはそのとき、足やひじなどは怪我していなかった。
多少の痛みはあったが、多分ぶつけただけだ。
が、代わりに手のひらを両方とも怪我していた。
転んだときにコンクリートに手をついたからだ。
軽い怪我でよかった。
そう思ったわたしは
大丈夫です。
と答えてすぐに自転車にまたがり、その場を去った。
そしてすぐ近くにあったコンビニに寄り、自転車をとめて
ミュートのままだった電話に出た。
「もしもし?ごめんね」
わたしがそう言うと
『あ、よかった…大丈夫?』
すごく心配そうな声で言われた。
転んだときの衝撃の音が、そのまま電話口から伝わってしまったんだろう。
「うん、大丈夫…ごめん」
心配をかけたくなくて、なるべく平常を装ったけど、少し声が震えていた。
『突然声が聞こえなくなったから、何があったかめちゃくちゃ不安だったよ』
そりゃそうだ。わたしがミュートにしたんだから。
「ごめんね。ちょっと車とぶつかりかけちゃって。でもぶつかってないし、怪我も軽いから大丈夫」
そう言うと
『ほんとに?よかったぁ…ほんと心配だったんだから。死んじゃったのかと思った』
なんておおげさなことを言う電話口の彼。
「死ぬとか(笑)  ないない。大丈夫だから」
『ほんとよかった…今どこにいるの?』
「今は、コンビニに寄ってる。さすがに電話しながら運転出来ないから(笑)」
笑ってそう言うと
『そうだよね(笑)
早く家に帰って?気をつけてよ?』
心配そうに言ってくれる彼。
「うん。わかった」
家についたらまた電話するという約束をして、一旦電話を切った。
再び自転車にまたがり、家を目指して出発する。
ここから家まで、約20分。
手のひらの痛みと戦いつつ、早く家に帰って絆創膏を貼らねば。と必死でペダルをこいだ。
やっと家につき、とりあえず手を洗ったが、これがまた染みる染みる。
怪我した時ってこんなに痛かった?と思うほどに。
傷の範囲が結構広かったので、大きめの絆創膏を親に貼ってもらった。
手を動かせないほど痛かったのでね。

そして自分の部屋に戻り、部屋着に着替えて彼に電話をかけた。
『はい』
「家ついたよ。いつもより長い帰り道だったわ〜(笑)」
『家ついたんだね。よかった。自分の部屋ならもう安全だね(笑)』
「うん!あ、そろそろ夜ご飯かなぁ?」
わたしの家は夕飯が早い。6時には食べ始めるくらいだ。
『え?もう夜ご飯?早いなー。じゃあ電話切らないとなの?』
「うん…そうだね。いい?」
『ダメ』
え、即答かよ…
「なんでよ」
ちょっと拗ねたように言うと
『お前さ俺がどんだけ不安だったかわかってる?もうちょっと声聞いてないと安心出来ねーよ…』
なんてことを言う彼。
え、てかなにそれ。なんなのそれ。
めっちゃ嬉しいじゃん。
「ふふ…」
嬉しくて、不覚にも笑ってしまった。
『何笑ってんの』
「ううん、別に。心配してくれてたんだね」
『当たり前だろ。あんなに怖かったの初めてだよ…』
へー、わたしのことでここまで心配してくれるんだ。この人。
ちょっと、いや、だいぶ嬉しい。
『お前の声が聞こえなくなってから、ずっとお前の名前呼んでたんだよ。それでも返事ないし、大丈夫ですか?とか男の人の声聞こえるし、気を失って倒れてるのかと思った…』
確かに電話に出たとき、彼の声はすごく不安そうだった。
あんな声は初めて聞いた気がする。

「死んじゃったのかと思ったんでしょ(笑)」
『思ったよ。ほんとビックリした…』
「おおげさだって(笑)
でも心配かけてごめんね。もう大丈夫だから」
わたしのことでこんなに心配してくれる人がいるんだ。
しかも、こんな近くに。
いつも冗談言い合って、笑い合う仲だから、こんなに真剣な話はあまりしたことがなかった。
彼がこんなに心配してくれたことが
すごく嬉しかった。

「わたしが死んだらどーするの(笑)」
冗談で言うと、
『え、やだよ?俺が死ぬまでお前死ぬなよ?俺寂しいから』
サラッと嬉しいことを言いやがる。

悩んでたことが、解消された気がした。
怪我をして痛かったけど、何か大事なものを得た気がした、そんな一日だった。

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