アウトローの生活

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 翌日は、割合に平和な空気がクラブ店内に流れていた。目つきの悪い輩(客)はあまりいない様子だ。ほかのスタッフと談笑していると、フロントマネージャーが有名写真週刊誌をもってきた。「これ読みましたか?」僕が何気なくページをめくると粒子の粗い一枚の写真が目に入ってくる。
 タイトルは「人気アイドル○○夜のご乱行!!」と銘打ってある。その場面はまさに僕が、奴を店の外に放り出した瞬間だった。「しまった!!」背中に冷や汗が流れる。いくら何でもこんなことで、アウトローとして世間に顔を知られたくない。落ち着いてよく見ると、幸いにも写真は遠くから撮られたもので、僕個人を特定できるようなものではなかった。ほっと胸を撫で下ろしたが、しかし、よくもそんな瞬間を撮影できたものだ。これは未だもって不思議なことである。きっと芸能記者が24時間張り付いているんだろうな。
 それから後、僕は「有名人を放り出すときは、放り投げた瞬間に背中を向けて店内に引き揚げる」ことに決めた。皆さんも有名人をぶん投げるときはぜひご注意を!!
さて、 このアウトローの世界には、堅気の世界にはいないユニークな人材が数多く存在する。気質の世界にはいないと言うより、気質の世界では生きられない人々なのかもしれない。そのすべてをここで語るには数え上げたらきりが無いし、筆舌に尽くしがたいということもあるので少しだけ触れてみる。
 その中の一人にAという男が居る。この店で働くフロントスタッフの一人だ。Aはとても気さくで気取りが無く、酒と女が大好きで仲間からも人気がある。容姿だってなかなかのもだ。何時だったかAは「俺は今まで100人以上の女と寝たことがある」と豪語していた。まんざら嘘ではないだろう。彼は一緒に居てとても楽しいやつなのだ。そんなAだがもちろん欠点もある。金にルーズで酒乱の気があるのだ。お金のほうに関しては貸さなければ良いだけだからどうということはない。ただし、酒のほうは四六時中見張っていて飲ませないということもできないので始末が悪い。さらに、最初は楽しい酒だから周囲の人間も面白がって彼に飲ませる。Aは盛り上げ上手なので、お客も自分でボトルを買ってAに飲ませる。お店から見たってこれは大変な売り上げへの貢献であるからある程度は黙認せざるを得ない。しかし、限度を超えてくると大変なことになる。一般人には想像もつかないことを仕出かしてしまうのだ.
 その時、Aが相当出来上がってフロント業務をやっていた。クラブのフロントというのは客をもてなすだけでなく、時として入店を断るときがある。理由はいくつかある。店内の男女比が悪いときは、これを合せるため。男ばっかりのクラブなんて面白いはずもない。逆に客が女性ばかりでも女性は面白くない。また、客の品定めをするときもある。良い客層を保てなければ「よい客」が来てくれなくなってしまうのだ。男女とも服装や髪型がおしゃれな人が集まらなければ、そのクラブは魅力的でなくなる。その日の深夜、田舎の暴走族のような、変なジャージを着た客が連れ立ってやってきた。「すいませんがお客様は入店できません」とA。「何でだよ?理由を言えよ、おい!」集団心理なのか、あるいはもともと柄が悪いのか、数人連れの不良グループはプライドを傷つけられた様子でいきり立っている。彼らは、相手は客商売だから文句言えば何とかなるとでも思ったのだろう。ところがここは単なる飲食店や品のいいホテルではない。おまけにタイミングの悪いことに話している相手は酒乱のAが酔っ払ってる状態だ。不良グループは丁寧に対応するAに「攫うぞ!コラ!」などとエスカレートしてくる。とうとうぶちきれたAは「おう、下手に出てりゃあいい気になりやがって、こっちへ来い、この野郎」などといいながらリーダー格の不良のにいちゃんの髪の毛をつかんで暗がりに引きずっていった。しばらくして戻ってきたAは何事も無かったように言う。「あいつら生意気言うんで海に投げ込んできましたよ。」涼しい顔で言う。
 それを聞いて背中に冷たい物を感じた。ここは東京湾に近く、確かに海があるが、岸壁はコンクリートで切り立っていて人間が落ちれば自力で這い上がることは不可能だ。しかも、真っ暗な夜の海で、現在は真冬ではないが、海水の温度も気温もまだまだ低い。そんな中で海に投げ込まれた彼らは生存しているのだろうか?僕は思わず翌朝の新聞の三面記事を思い浮かべながら海のほうへと全力で走った。つい先ほど写真週刊誌に事件が掲載されたばかりではないか...。つづく。
 

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アウトローの様々な仕事

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