アウトローの様々な仕事

前編: アウトローの生活
後編: アウトローの様々な仕事2
「たすけてくれー」遠くから聞こえてくる力の無い叫びが、波間に漂っている。黒い海の中から人の溺れている気配がする。僕はコンクリートの防波堤に駆け上り、携帯していた懐中電灯を声の方に向けると、海面に白い顔がいくつか浮かんでいる。「助けて、溺れる、お願いします...」さっきまでの勢いは失せ、田舎チンピラたちのか細い声が体力の消耗を伺わせる。彼等は必死にコンクリートの岸壁をよじ登ろうともがいているが垂直に切り立った岸壁はつかむところがない。滑っては東京湾の波に飲まれ、海水をだいぶ飲んでいるらしく声もかすれている。もう少しほっといたら確実に絶命するだろう。僕が助けようと思っても手が届かないし、あたりを見回してもロープのようなものはない。僕はとっさに自分のベルトを外してその片端をつかんで岸壁に寝そべり、半身を海に乗り出して片手で彼等にベルトを差し出した。「これに捕まれ!」
 「ありがとうございます」彼等は差し出されたベルトに手を伸ばすが、体力消耗激しく、ベルトをしっかりと握ることが出来ない。僕はベルトを持ち替えて自分の手に一巻きするとバックル側を彼等に差し出した。それでも、自分の体重を両手の握力だけで支えるのは元気な人間でも大変なことだ。ましてや冷たい海で体力の消耗した奴らだから、なかなかうまくいかない。しかも、僕は彼等を片手で引き揚げようとしているのだ。滑っては海に落ちることの繰り返しに彼等は次第に生気がなくなっていった。
「とにかく両手でこれに捕まれ」彼等は消耗し、自力では海から上ってくることは出来ない。僕はなんとかベルトに捕まった男を渾身の力で引き揚げた。そしてもう一方の手でややあがってきた男の体のほうのベルトをつかむと、片手でそいつを岸壁に引き揚げた。腕がちぎれそうだ。火事場の馬鹿力というものだろう。冷静なときなら70-80キロもある大の男を片手で引き揚げることなどは到底出来ない。我ながらこのときばかりはよくやったと思う。三人の男たちを引き揚げると彼等は口々に僕に礼を言った。みんな全身濡れ鼠、肩で息をしている。顔面蒼白で死人のような顔色をしている。しかし、不思議なもんだ。元はと言えば僕の仲間が海に放り込んだのに、それを救い出して礼を言われるのも理屈に合ってるような合ってないような。疲労の色濃い彼等は肩を落としてその場を離れていった。足跡が濡れて黒く残っていく。これで一件落着かと考えたその特だった。彼等の歩いていく先には交番があった。もし、彼等が、喧嘩の末、海に投げ込まれて死にかけた事実を話せば必ず警官はクラブに乗り込んでくるだろう。そうなれば、どちらに非があるにせよ、クラブは当面の営業中止を免れないだろう。僕らは彼等が交番に立ち寄らないことを祈りながら後ろ姿を見守っていた。
 高鳴る心臓の鼓動を聞きながら彼等を遠く見守った。運良く彼等は交番の前を通り過ぎる。しかし、全身ずぶぬれの男たちを見て警官が職務質問でもするのじゃないかと、さらに目で追い続けた。彼等が十分に,闇の中に遠のくと僕はAに「ふざけるなこの野郎、あいつら死んだらどうするんだ? おれがどれだけ海から引っぱり上げるのに苦労したと思っているんだ!」と注意した。やがて報告を受けた支配人はAを呼び出し、怒って彼に、頭からコップの水を掛けた。Aは我に返ってしばらくは反省をさせられた。しかし、人間の性格は一朝一夕には変わらない。Aは数日間は自粛するけれど1週間もすれば、またきれいさっぱり過去の過ちは忘れて同じような問題を起こすのだ。
 さて、人気のクラブには流行に敏感な客が集まる。彼等は同世代のオピニオンリーダー的なところがあるから、ファッション業界なら彼等に新作を着てもらいたいと思うし、レコード会社ならDJにそのクラブで、彼らの売り出し中の曲を掛けてもらいたいし、歌手ならライブの一つでもやってみたいところだ。同じ音楽でも、どこぞのアイドルもどきが東京ドームに冴えない客(失礼)を一杯に集めるのと、流行の最先端を嗅ぎ分けるセンスいい客1000人に聞かせるのでは、全くその意味合いが違ってくる。
 ある土曜日の深夜、人ごみで溢れかえる店内をすり抜けて、そのクラブの客の世代には一番人気の女性歌手H.A.が店にやってきた。黒いタイトな服に身を包んだ彼女はテレビで見るよりさらに小柄に、そして魅力的に見えた。
 最初は単にVIP客としてやってきた彼女だったが、クラブの熱気にあおられたか、ゲリラ ライブをやろうと自分から提案してきた。折しも彼女も新作発表直後であった。関係スタッフが集められ打ち合わせがなされ、きっかり2時にH.A.がDJブースに飛び入りして、DJ用のマイクで一曲歌おうという段取りになった。
 しかし、良かれと思って実行した、このライブが大変な騒ぎを起こすことになろうとは誰も予測していなかった。つづく

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アウトローの様々な仕事2

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