アウトローの様々な仕事2

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 午前二時、突然ダンス音楽がとまり、ミラーボールの照明が落ちると、DJがアナウンスする。スポットライトがDJブースに当たる。DJ「みんな、突然だけど、今日は素敵なプレゼントがあります! 実は今日ここにH.A.さんが来ているんです。』客で満杯のダンスフロアーは熱気に溢れている。一瞬、みんな何のことか分らずざわつき始める。「そして、今日は特別にみんなのために、今から彼女が新曲を披露してくれます。どうだい?」会場からは女の子の悲鳴が聞こえ始める。「それでは早速行ってみよう、H,A,さんです!どうぞ!!」
 促されて登場した彼女はクラブの最高の熱気を一身に浮け、うれしそうに微笑んでいる。会場は割れんばかりの歓声で会場の人たちはそれを一目見ようとDJブースのほうに移動してきた。
「それじゃあ、みんな!行くよ!いい? ワン、ツー、スリー!!」合図とともに音楽が大音量で流れ出し、彼女は全身で歌い始める。会場全体も足を踏み鳴らし、より大きな歓声が響き渡る。客は踊り始め、歓喜に狂い、一部熱狂的なファンはもっと近くで彼女を見ようとじりじりとDJブースに詰め寄ってきた。
 僕は特に彼女のボディガードを頼まれていた訳ではないので、少し近くで見守っていたが、何か嫌な予感がしてきた。職業柄か、不吉な予感には敏感になっている。ファンたちは興奮状態に陥り、我も我もとH.A.のほうに詰め寄ってくる。店内のテーブルが倒れ始めた。群衆の圧力が一点に集まり始め、最初は明るい笑顔で歌っていたH.A.も段々引き攣った笑顔に変わってくる。みるとDJブースの前側を覆う木製の壁が「メリメリ」と音を立て始めた。やがて彼女の目の前のガラスのついたてが「パリン」と砕け散って地面に散乱する。彼女は、今では笑顔から恐怖の表情へと移行しつつあった。僕は、飛び出していって、群衆をかき分けDJブースへと急行した。
 僕は群衆をかき分けてDJブースの前に立ちはだかった。「押さないで!危険ですから」そう叫んでも誰も聞く耳は持たない。観客は、ただ興奮して前へ前へと押し迫ってくる。ブースの壁がめりめりと音を上げる。「はい下がって..」そういいながら2-30人の女の子を両手を広げて押し返した。女の子たちは「キャー」とか、なんとかいいながらまた押し返してくる。もう錯乱状態なんだろう。僕は もう一度押し返し、さらに片手を伸ばして遠くに押し込んだ。先頭の女の子たちが勢い余って3-4人後ろ向きに倒れた。それを見た観客は一瞬、我に返り、すこしだけ勢いを失った。その隙に僕はH.A.のそばに駆け寄り、ほかのスタッフの手も借りて彼女を抱きかかえるように裏口の非常階段へと走った。観客はゾンビのように彼女に触ろうと湧き出て、手を伸ばしてくる。僕は肩口で強引に群衆を引き裂いて進んだ。そのときの彼女の背中が、まるで子猫のように小さかったのが印象に残っている。
 VIP roomに引き揚げたH.A.は安堵の表情を取り戻しつつあった。彼女は僕に礼を言うと自分の席に戻っていった。階下のダンスフロアーでは、まだ興奮覚めやらずという感じの歓声が聞こえている。僕はつくづく群集心理の恐ろしさを、身をもって感じていた。ファン心理も狂気と隣り合わせと言うことか...。
 さて、クラブには可愛い、あるいは美人の女性がたくさん集まる。世の中、魅力的な女性には最新の情報が集まるという仕組みになっている。魅力的な女性にはどこで調べたのか、各所から色々な案内状なども多く送られてくるし、また、男性から見れば、とっておきの楽しい場所ほど無理目の女性を誘う目的に使いたいものだからだ。逆にあまり可愛くない女性がクラブに行っても、ちやほやされないからあまり面白くない。(失礼、わたしの意見ではありません)よって可愛くない女性は流行のクラブからは自然淘汰される。ダーウィンは正しかった...。かな。
 一方でバウンサーはクラブの女性にモテる事が多い。俗にいう「制服三割増し効果」といったところだろう。クラブのオリジナルスーツをビシッと着込んでインカム(無線機)を身にまとい、まじめな顔でたっていると、鼻の下を伸ばして、でれでれとナンパしながら歩いている酔っぱらい男性客より凛々しく写るらしい。
 いずれにしてもクラブに働いて、新しい女友達ができない日は無いくらい恵まれた環境であったことは確かだ。例えば、バレンタインデイなどは両手で抱えきれないほどのたくさんのチョコレートがもらえる。
 次回はそんな環境での役得について、少し具体的に言及してみたいと思う。 

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アウトローの役得

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