F事件の真相

前話: アウトローのトラブルバスター
 写真週刊誌には、そのクラブが「過激な女性客のファッションを売りにしていて、それを目当ての男性客が群がり、ついには全裸の女性が出現するに至った。」というような過激な内容の煽り記事が掲載されていた。
 そりゃあ記事としては面白いよ。そんなことあり得ないからね。しかし、そうして考えると芸人のB.T.の襲撃事件といい、この雑誌の記事はほとんどが「ねつ造記事」なのではないかと思えてくる。面白い事件がないのなら事件を自らでっち上げても記事にする、そんな感じか。
 雑誌の読者には、その記事の当事者に問いただす術もないから(もちろん、普通の読者はそんなことするほど暇でもないし)一方的な、その雑誌の記事を鵜呑みにするほかはない。これは極めて不公平な話だが、実際はそれがまかりとおっている。
 そして、その記事に価値があるのも、そのころクラブが派手に世間の耳目を集めていただけでなく、全裸ではないにしろ過激なファッションの女性客がいたことは確かだし、来客した何百人もの男性を入場制限して断っていたこともあって、クラブのことを噂だけで聞いた人々からは必要以上に過激な場所であるような認識を受けていたことも影響しているのだろう。
 翌日からはそのクラブでの収録を前提としたバラエティ番組の取材ではなく、その事件そのものについてのTV取材クルーや雑誌記者などが大挙して押し掛けてきた。来店客までがテレビカメラの取材攻勢を受けて戸惑っている。クラブは連日、蜂の巣をつついたような大騒ぎになってしまった。しかし、騒ぎはこれでも未だ始まったばかりで、さらに大きな問題になってしまったのである。
 それは、マスコミが大騒ぎして煽ることで、クラブが期待していない客層が大挙して押し掛けるようになってしまったのだ。
 いわゆる焼き鳥屋で会社の愚痴を言っているような、おしゃれとはほど遠い、場末のサラリーマン親父殿(失礼、敬愛の念を込めて表現しています)が見物がてらやってくるのだ。
 かっこいい広告マンやファッション関係の若い男性ならともかく、見られる側の女性だって何が楽しくて焼き鳥親父にもろ肌サービスしなければならないんだということになってくる。(重ね重ね失礼、親父殿)
 だからこういう「焼き鳥軍団」をいかにして断るかがフロントの重要な仕事になってしまった。
 焼き鳥軍団だって、会社にいればそれなりに、課長や部長だったりするものだからはっきりした理由もなく入店拒否されると「居直る輩」も多い。「お金払ってやってくる客をなんだと思っているのか」ということになるんだけれども、じゃあ、そういう「焼き鳥客」ばっかりの店になったら、それでも「あなた自身は本当に来たいのですか?」ということには彼らは考えが及ばない。(水になったワインの諺の通り)
 こんな訳で、クラブのフロントは入れろ、入れないの不毛なイザコザが増えてしまった。
 そして、焼き鳥軍団だけでも面倒なのに、さらには世論という目には見えないものに突き動かされて、とうとう国家権力が動き始めてしまったのだ。
 巷のメディアでは、そのクラブを取り上げれば雑誌の売り上げが上がるし、テレビで流せば視聴率が上がる、そんな異常な状況が続いていた。
 また、写真や映像で、派手な女性が本当に短いスカートでお立ち台で踊り、身をくねらす場面ばかりが繰り返し使われている。バカの一つ覚えのように。
 世のおじさん、おばさんたちはその場面だけをみて「あそこの店は素人ストリップをやっている」そんな認識が広まってしまった。そして子供たちはテレビを見て、そんな女性たちの踊る姿を真似するのを見るにつけ、「子供に悪影響が出る」というところにまでいってしまった。
 テレビのコメンテーターは何も知らないのにしたり顔で「あそこのクラブはこんな風に良くない」などと解説する。お前なんか来たこともないくせに、また、例え来ても入店お断りされるような風貌だろうと思っても、庶民の声は届かず、マスコミからの一方的な情報が流れるばかり。クラブ側の生の声を取材しようとしたメディアはとうとう一つも現れなかった。これは、オウム事件の報道をみても、共通する問題をはらんでいるように感じる。
 さて、悪いことは重なるもので、そのころ男性だった所轄の警察所長が運悪く人事異動で女性に変わることになった。所轄の署長の胸先三寸でアウトローの世界がどれほど変わってしまうのかを次回はお伝えしようと思う。 

著者の栗原 康行さんにメッセージを送る

メッセージを送る

著者の方だけが読めます

みんなの読んで良かった!

STORYS.JPは、人生のヒントが得られる ライフストーリー共有プラットホームです。