アウトローの役得2

前話: アウトローの役得

クラブのトラブルバスターは「セキュリティー」と呼ばれたり「バウンサー」と呼ばれたりする。

 役目柄、クラブ内の治安維持や交通整理(物理的、精神的な人間関係の)などを行うことから様々な目配せが必要になる。

 治安維持以外で僕が一番に気を配っていたのは来店客に「スペシャル感」を与えることだった。一例を挙げると、店内で缶ビールは市価の数倍で提供されている。(どこの外食産業も一緒だと思うけれど)もちろん原価はかなり安い。馴染みの客や贔屓の客にはこの缶ビールを1本プレゼントする。仕入れ値は100円とか200円とかだろうか。

 しかし、女性客の前でクラブのスタッフが特別待遇で振る舞ってくれたビールは来店客(女性連れの)には大変なスプシャル感でもって映る。連れて行かれた女性は特別待遇を受ける男性のエスコートを受けたかのような錯覚に陥る。また、女性客が二人連れで来店するケースも多く、その場合馴染みの男性グループの客に引き合わせたりする。男性グループは女性と合流できて盛り上がるし、女性客も男性グループにご馳走してもらえてトクをする。もちろん女性客にご馳走しない、あるいはジェントルに盛り上げられないような男性客には女性を紹介したりしない。クラブ側も客の虚栄心を煽り男性同士のときよりもボトルキープなどの注文で客単価が上がる。三方一両の損ならぬ、三方とも得をする仕掛けだ。

 ちょっとしたコツだがクラブや飲食店を盛り上げる知恵の一つと自負している。後年、西麻布や六本木に素人キャバクラ店が乱立し警察に手入れ(風速営業許可違反)を受けたのは記憶に新しいが、その遥か前に個人で実践していたということか。しかし僕が実践していたのはそんなに下品なものでなく、もっとスマートでシステマチックでない「知恵の使い方」であった。

 そんな風に気を遣っていたので、その頃はずいぶん多くの常連客に良くしていただき、いまでも彼らを写した写真を持っている。今改めて眺めていると綺羅星のごとく有名人からスポーツ選手から文化人までが出入りしていたことになる。ざっと数えても柔道の金メダリストのY、後に長野県知事になった作家のT、当時は横綱だった巨漢のA、読売ジャイアンツの暴れん坊K、JリーグのT、アクション俳優として現在も活躍するハリウッドスターのT.C. 中東の石油王、画商、警察のトップ、○○ザの親分、モデル、風俗嬢などが入り乱れ交流し、ときに対立し、まさしく多種多様の人種の坩堝であったと言える。そして、それらのひとりひとりのご乱行にひとつひとつの常軌を逸した魅力的なストーリーが存在する。

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