いじめとひきこもりから映画監督に(5)
初めてのOFF会で出会う人たちは……
チャットで仲良くなった友人と待ち合わせて初めて会うことになったには、2000年7月。同級生ですら会うのが怖い自分にとって、見ず知らずの人と初めて会うには勇気が必要で、かつ緊張の連続でした。
ただ当時を振り返ると、こんなにも自分の話を聴いてくれる、こんなにも会話をするのが楽しいと思えた体験が無かったので、リアルな空間で彼らとどんな話ができるのだろうという冒険心のようなワクワク感が恐怖心よりも勝っておりました。
渋谷なんて一度も出かけたことがなかった自分にとって、街を歩くだけでとても怖く、顔を隠すようにして指定された場所に向かいました。
たどり着いたのはとある居酒屋。恐る恐る個室に入ると、そこには自分が想像していた人とは全く違う人が座ってました。
あなたがさとるで、君がみほ?
前回書いた通り、チャットはPostPetのアイコンを付けられるサイトだったのですが、
なアイコンや
なアイコンを付けた人たちが、実はゴツいお兄ちゃんだったり、金髪のお姉ちゃんだったりしたのです。
初めて会う常連たちとご飯を食べる緊張感
六年間進学校にいて、黒髪に真面目な男子しか接してこなかった自分にとっては、リアルな空間で彼らの顔を知るというのは、気恥ずかしさと体が硬直してしまうような緊張感が混じったような気分でした。
年齢も自分より5、6歳くらい上の人たちの中で19歳の自分は何を話していいか全く分からず、ただ黙って座っていました。そんな中、彼らは姿や格好はイカつく、チャラいんですが、話す内容は、チャットと同じ雰囲気で、いろんな質問を投げかけてくれました。
チャットの常連A
おれがグラスだよ。競馬好きの。お前、学校で何勉強してんの?
チャットの常連B
俺、千葉から来てるさとるだ。宜しくな!
チャットの常連C
あたし、みほ。もうすぐみんなで夏だから花火やんない?
みたいな会話をしてくれたのでした。
いじめられてから同級生が怖くて、誰かに声をかけるのが怖かった自分にとって、初めて友達のような先輩のような不思議な関係の人と繋がることができたのでした。
オフ会はチャットよりも断然楽しかった
その日があまりに楽しくて、それからは頻繁にオフ会に通うようになりました。その後、クラブや遊園地、山や海などいろんな場所に連れて行ってもらいました。自宅と学校を行き来するだけの生活が、その頃は朝まで友人と一緒にダベるようになっていました。高校までは味わえなかった誰かと時間を過ごす楽しさをチャットの友人たちから教わったのです。
伝説の管理人「てりーさん」の存在
こうして、てりちゃの常連となり、オフ会にも足繁く通うことですっかり仲間たちとも打ち解けたある日、私は仲間たちにチャットである質問をしました。
19歳のおいら
ところで、僕たちが付けているこのアイコンって何かのキャラクターなの?
チャットの常連D
えー、君知らないの? ポスペだよ〜
チャットの常連B
あはは、俺も実は最初知らなかったんだ。俺は、単にチャット遊びに来てるからな。
このチャットで使われたいアイコンは全てPostPetというメールソフトの中のキャラクターだったのです。そして、このサイト自体も実はチャットがメインでありながら、PostPetのチュートリアルページと連動させたサイトだったようで、今まではスルーしていたBBS(掲示板)のページを覗くと中学生、高校生の女の子の書き込みがほとんどだったのでした。
そんなことをきっかけに、このサイトのチャット以外のページに関心を持ち、チャット以外のページをちょくちょく覗くようになったのです。
そこには自分が知らなかったPostPetの使い方がこと細かく書いてありました。ありきたりな紹介ページではなく、キャラクターの紹介から、細かい設定方法、裏技までビッチリ載っているサイトだったのです。
19歳の僕は、次第にこのサイトの管理人さんへの関心が高まっていきました。
そういえば、このサイトの管理人さんってどんな人なんだろう?
これだけ可愛くサイトを作れて、なおかつ説明の仕方がとても丁寧な管理人さん。いつしか半年近くチャットに入り浸り、常連となった自分ですら、まだチャットで管理人さんと会話したことがなかったため、管理人さんのことを仲間に訊ねてみると、
チャットの常連B
ああ、てりーさんね。伝説って言われるくらいチャットに出てこない人だよ。
チャットの常連C
なんか噂だと深夜までバイトしてるんでしょ?
みたいな話を教えてくれました。確かにBBSを見ると、人気サイトを伺わせる書き込みの数が一日10件程度あるのですが、その返信の時間は、決まって深夜の2時台や3時台。それでも全ての書き込みに向けて丁寧にレスが書かれている様子は、管理人さんの丁寧で優しい性格を物語っているようでした。
こんなに天才的な人、是非会ってみたい!
そう思うようになったのですが、やはり管理人てりーさんはチャットには現れませんでした。そんなこんなで24時間チャット漬けが続いていたある日、この伝説の管理人・てりーさんがネット上に現れたのでした。
著者の古新 舜さんに人生相談を申込む
著者の古新 舜さんにメッセージを送る
メッセージを送る
著者の方だけが読めます