なぜベストを尽く「せ」ないのか

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自分という存在への怒りと恥ずかしさと・・・

物心ついたときから、と言っても自分は自慢じゃ無いが1歳の誕生日も鮮明に覚えているくらい小さいときから物心はあったと思う。

だから、ほぼ生まれたときから、人と目を合わせるのも話すのも、挨拶さえ恥ずかしかった。極度の引っ込み思案だった。
何となく、自分が世の中にとってもマイナスの存在で、「いてはいけない=マイナス無限大」ような気がしていたので、人の輪に自分から入るのは苦手中の苦手で、「いてもいい=プラスマイナスゼロ」を目指していた。
一緒に住んでいた祖父の妹の所為もあるかもしれない。それはまた別の話なので詳しくは書かないけれども。

プライベートとオフィシャルが混濁するのが嫌いだった

だからかどうかは分からないが、とにかく外面と内面は使い分けていて、プライベートにオフィシャル(保育園生活)が入ってくるのは大嫌いだったし、逆もまた同じだった。家の中での自分と外での自分は完全に違うものだったから、保育園の運動会やらお遊戯会で親(と言っても共働きだったので、祖父とその妹がその代わり)が外での自分を見ることも本当に嫌だった。
多分、社会人の人なら分かってもらえると思うのだが、職場に家族が見に来るようなものだ。
違う自分を人に見られるのは、例え身内でも絶対に嫌だった。

ある日、そう1歳と少し経った頃だったと思う。保育園のお散歩で井土ヶ谷の駅前に行った。
横断歩道の信号が青になる。対岸の群衆がこちらに、そしてこちら側からも多くの人が渡っていく。そこで、見つけてしまったのだ。一緒に住んでいた祖父の妹が歩いてくるのを。そして、向こうも自分を見つけてしまったのを。
自分は外では泣かない主義だったのだが、外での自分を家庭の人に見られてしまった恥ずかしさと怒りに、どうしようもなく涙が出た。だだをこねるように、ひたすら横断歩道の真ん中で泣き叫んだ。

当時、祖父の妹は誇らしげに言ったものだった。
「私を見つけて帰りたくなっちゃって、大泣きしたのよ」
そんな馬鹿なことで泣くものかと心の中では思ったが、家庭の平和のためにはぐっと我慢するしかなかった。

自分の性別への疑問

そして、もう一つ、どうしても自分が女性であるということに違和感があった。これは自分では覚えていない出来事であるが、1歳くらいのときに親戚のおばちゃんがスカートをプレゼントとして手渡してくれた瞬間に怒りだし、そのスカートをみんなのいる前でゴミ箱に思い切り突っ込んだというエピソードがあるらしい。
それくらい、スカートは嫌いだった。水着も嫌いだった。立ちションができないことも嫌だった。トイレに行くたびに、なんで男の子じゃないのかと悩んだ。でも、かといって女の子を好きになるわけでは無くて、かっこいい男の子に憧れた。

そんな変なヤツだったから、保育園の年下から「おとこおんな」と呼ばれていたことを自分はこっそり知っている。それがすごく嫌だった、恥ずかしかった。それは、「人から話題にされることが恥ずかしい」というだけでなく、「何故自分は男じゃないのか」という怒りにも通じていた。

昼寝の時間は拷問

当時から寝付きが悪かった。そもそも生まれつき寝付きが悪かったと聞いている。
とにかく、保育園で強制的に昼寝をさせられるのが嫌いだった。天井は、小さい穴がたくさん空いているあのボードだったからだ。
寝付けないので、「天井の穴の数は数えきれるか」などというくだらないことを考えてしまうのだ。そして、「宇宙の星の数は当然これより多いだろう」と思うと、「無限ってどういうことだろう」とつい思ってしまう。
すると、自分が生きている間には、いや有限の寿命がある人間にはわからない、宇宙の果てや、その周りにある何かや、色々が襲いかかってくる。こうなると、もうパニックである。

寿命がある、だれもがいつか死ぬ、もしここで昼寝をして、起きてみたら死に際に思い出しているだけだった、なんてことがあっても不思議じゃ無い気がしてくる。死んだ後は無になる。無って何だろう、死ぬのは苦しいだろうか、意識がなくなるってどういうことなんだ・・・もう眠るどころの話では無い。
だから、昼寝の時間は拷問だった。

なんでも優しく聞いてくれる母に相談したかったが、母の方が先に死んでしまうだろうことは生物学的に明かだし、母が死ぬなんて思いたくもないし、まして保育園児が聞いたところで一笑に付されてしまうか、もしくは叱られるか・・・。とにかく勇気が無かった。相談する勇気は出なかった。

ささやかな祈り

自分が保育園の時はもう戦後だったけれど、それでも「天皇が神様の子孫だったと言われていた」ということは知っていた。もちろん、それが嘘八百で、天皇は神様の子孫なんかじゃないことも知っていた。
だけど。
もし、もし万が一、天皇が神様の子孫であるとしたら、少なくとも昔は神様がいたことになるし、今もどこかに神様がいるかもしれない。
そうしたら、もしかしたら自分は男の子になれるかもしれないし、寿命という呪縛もなくなるかもしれない、そんなことを考えていた。

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