秘密の扉 08
彼
高橋凉子は神戸駅の改札前に、伊達伸一を見つけ「お待たせ、待った」
「いいや、今着いたばかりだよ」
凉子は「今日はあいにくの雨ねぇ」と言った。
「そうだね、雨に文句を言っても仕方ないさ」凉子は意外とクール返答なので、豊らしいと思った。
「何処に連れて行ってくれる予定なの」
「花鳥園でも行くか。あそこなら雨は関係ないし、なんと言ってもゆっくりとくつろぐことができると思うから」
「伸一、行ったことがあるの?」
「一度だけな、撮影ポイントとしてね、今、破産宣告を受けて、会社更生法の申請中なんだ、今日は月曜だし、空いていると思うよ」
「そうなんだ」
神戸駅~三宮駅下車神戸市営ポートライナー線に乗り換え京コンピューター前で降りるのだが、その車内で伸一が「今日の朝、詩を書いたんだよとそれを見せてくれた。
雨
雨降り
気分は沈みがちだ
なぜ
行動が制限されるから
傘が邪魔だから
雨に濡れるから
それとも、雨という状況に
うんざりしているとか
理由は人それぞれ
それはあなたの捉え方に過ぎない
別の捉え方をすれば
雨は作物を育て
命のサイクルに欠かせない
と言っても
人の考え方、捉え方は
そう簡単には変わらない
凉子は「おしゃれ」と言った
だが脳裏にどこかで読んだような感じがあり、
いったい何処だったのだろう、いゃ~雨降りの日は誰もこんな事ひとつやふたつ思い当たることはあると思い、それ以降はまったく気にもとめなくなった。そのうち京コンピューター前に着き、目前に花鳥園があった。
花鳥園
花鳥園の中は広々としているが、凉子の視界に入ってくる人の数は、常に十人以内、閑散としている。
「ずいぶん空いているわ、これならゆっくりできそうねぇ」
二人は南ロビーにある白いテーブルを見つけ、向い合わせに椅子に座った。
彼がふと「読者には、この情景は言葉では言い表せないだろうから、写真を載せよう」
「何~読者?」
「いゃあ~このストーリーを書くとしたら、言葉の表現には、限界があると思ったのさ」
「ストーリー?」
「私達の物語だよ、小説書くとどうなるかとイメージしてみたんだよ」
「こんな私達のことでも、小説になるわけ」
「言葉の表現を工夫すれば、なるさ、人の営みなんて、ほとんど大差ないね」
凉子は伸一が時々突飛なことを言うので、ついてくのが大変だわと・・・・・・・・。
彼が「凉子は今見ている情景を文章にするとしたら、どのように書く」
「それは難しいわねぇ、大輪の花が頭上から垂れ下がって咲いていると言うことぐらいしら、見たことがない人がほとんどだから、想像しろと言っても、無理だわ」
伸一が「そうだよね、言葉は単なる経験や感情の代用品に過ぎなく、表現にも限界があり、不完全だから、誤解を生む要因にもなるし、作家は小説を書き、様々なストーリーを書き上げるが、最後は読者の想像力だけが頼りだよ。だからその小説が映画になったとき、違和感を抱く人も出てくるんだ」
「なるほど」
「まあ実際にその場に来て経験して、感動しないとわからないところがあるが、人は想像力が働くから、小説とか写真から経験する場合がある。今の心理学では、脳は実際の出来事と小説とかという架空の出来事であっても、区別できないという研究結果が出ているんだ」
「そうなんだ」
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