刺される 〜僕が本の素晴らしさを知るまでの道のり〜

僕は、小さいころ、全く本が読めなかった。
なんというか、小説を読んでいても勉強しているような感覚があり、苦痛でしかなかった。


本に慣れない

小さいころ、具体的には小学校のころだ。
僕が書籍の文章を読むのは授業の時がほとんどで、自主的に本を読んだり教科書を読んだりすることは、まずあり得なかった。
TVっ子だった僕は、集中力がまるでなかった。たまに親が本を買ってきたが、本を開いて5分もしないうちに休憩という名の中断をとり、二度とその本を開くことはなかった。
そんな僕を見て親は本を読ませることを諦めた。だから僕が表紙の絵を気に入ったという理由だけで本をねだると決まって「どうせ読まないでしょ。」と切り捨てられた。
でも僕は落ち込みはしなかった。だって自分に本を読むことなんてできないって分かってたから。

そんな僕にとって、学校の朝読書の時間は暇で暇で仕方なかった。
友達が当時話題だった「ハリーポッターと賢者の石」を読んでいるのはすごいことに感じた。あれだけの分厚さの本は辞書以外に見たことがなかった。
その頃の僕に読めた本といえば、「かいけつゾロリ」くらい。つまり絵本。小説のような、絵が全く入っていない作品は「書類」にしか感じていなかった。


作品との出会い

小学校で自主的に本を読まなかった僕は、そのまま中学生になった。
中学生になると人間、悩みを持ち始める。僕も然り。

なにか打ち込めるものが欲しくなった。

家のなかを漁ると一冊の本が出てきた。


「ブレイブ・ストーリー 上」宮部みゆき著


恐らくニュースに出たという理由だけで、親にねだって買ったものの最初の一ページで断念したものだろう。

とにかく読んでみることにした。なんだか興味が湧いてきた。


ダメだ。
全然内容が頭に入ってこない。ファンタジーの話と聞いていたのに、全くファンタジーらしい展開がない。
ドラゴンでも魔法でもなんでもいいから、早く非日常的なもの出てこいよと思いながら読んでいた。

それでも読んだ。その頃の僕には外界からの刺激や、自分の内にある悩みや思考までも遮るほどの「壁」がほしかった。

どうやら、本を読むには慣れが必要らしい。
僕はゆっくりゆっくり読書への抵抗を崩していった。
考えてみれば、「ブレイブ・ストーリー 上」は「ハリーポッターと賢者の石」よりも分厚い本だった。



止まらない

読書に慣れたころ、僕は悟った。きっと読書に集中力が必要なのは、物語にのめり込むまでの期間だけだ。

読書に慣れてしまった僕にはもはや、「ブレイブ・ストーリー 上」を読むことに集中力は必要なかった。


はやく物語の続きが知りたい。
それだけだった。


僕はプライベートのほぼ全てを読書に費やした。
朝の読書の時間、休み時間、放課後、部活動中。
部活動がない日は、帰りのホームルームが終わった瞬間に読書を開始した。

急に肩を叩かれた。教頭だった。


「お前に耳はないのか?」
「え?」
「何回呼んでも返事しなかったぞ!」
「え?そうなんですか?」
「何時まで残ってるんだ?」
「え?今何時ですか?」
「9時になるぞ!早く帰れ!本に集中するのはいいが、生活習慣は守れ。」


どうやら僕は帰りのホームルームが終わって約5時間飲まず食わず、トイレも行かず身動きもせずに、ただひたすら物語にのめり込んでいたようだ。気がついてみれば首が動かないくらいに痛い。

その夜、僕は寝るのも忘れて本を読み上巻を読み終えた。

なんなんだろう。この喪失感は。

続きが気になる。気になって仕方ない。僕は部活動を休んで下巻を買いに行った。

のめり込む。物語に染まっていく。周囲の雑踏、抱えている悩み、考えたくないもの全てが自分の思考から剥がれていく。

どうやら読書に慣れれば、読むスピードも早くなる。
僕は下巻を、上巻を読むのにかけた時間の半分くらいの時間で読み終えた。

僕が人生で初めて小説を読破した。


達成感!


本を読み終えた僕には、それまでの悩みがちっぽけに見えた。
恐らく、物語の主人公が勇気をくれたらしい。
次の日には僕は悩みを解決していた。



本の生徒

それからは僕の趣味の一つに正式に読書が加えられた。
もうあれから何冊本を読んだか覚えていない。

なかなか衝撃的な内容の本はいくつか覚えている。


「シャトゥーン  ヒグマの森」
こんなにグロテスクなイメージが出来た本はない。

「英雄の書  上下」
ブレイブ・ストーリーとは対照的なダークファンタジー。

「心霊探偵八雲」
登場人物の成長が本当に愛おしい。


本を読んでいる最中のあの頭痛は、なんとも言い難い。自分の想像力をフルに使っている感覚だ。
そうか。これが、本がなくならない理由か。漫画やアニメとの決定的な違いか!

現実にばかり目が向いている昨今の現代人にこそ、読書は必要だと思う。たまには最近使っていない想像力を使ってみてはどうだろうか。


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