「きく力」が組織の機能不全を救う。
「しつもん」って何?
私の師であるマツダミヒロ氏が主宰する「魔法の質問」のキャッチコピーは「質問で人生は変わる」だ。
偶然の重なりで私が「魔法の質問」を知ったのは4年前。マツダミヒロ氏が「質問してごはんを食べてます」と言うのを聞いて「変わった仕事があるもんだなあ」と思ったものだけれど、気づいたら、今、私もそういうことになっているから、世の中不思議だ。
最近は、「魔法の質問」というのもちょっとまどろっこしいので、魔法のように理想的な状態を導き出す良質な問いかけのことを「しつもん」とひらがなで書くことが多くなった。
しつもんは、広い意味での質問の中で、特に、きく側でなく答える側のためになる=気づきや行動の変化を促すものを指す。
私は、いろんな企業や自治体の研修で「きく力」を高めてもらうプログラムを提供しているのだが、やればやるほど、「きく力」こそ、今の世の中のあらゆる組織に起こっている機能不全を救うものだという確信が強くなってきている。
研修の中で、思いっきり斜に構えていて、疑いに満ちあふれた感じの人が、「はっ」と気づいて変化するシーンを見ると、もうやめられないくらいの快感で、逆に、講師である私自身がどんどん深まっているのを感じる。
では、一体「しつもん」がなぜそんなに変化を生むのか。
それは、簡単に言えば「しつもん」が極めてロジカルにでき上がっているから、である。ある程度までは、使う人の資質や性格、年齢・性別・経験などに関係なく、一定の効果を発揮してしまう。
人間は、問いかけられると、どんなに答えないようにしよう、と思っても、どうしても、答えを考えてしまう。考えないぞ!と思った瞬間に無意識の部分では考えてしまっている。ちょうど、「ピンクの象を思い浮かべないでください」と言ったとき、もうその人の頭の中にピンクの象が浮かんでしまっているようなものだ。
例えば、ポジティブに物事を考えられるようになりたい、というときには、ポジティブなことしか答えられない「しつもん」をするだけで、一瞬で相当ポジティブな考え方にジャンプしてしまう。
裏を返せば「ウチの会社はどうもみんな後ろ向きだ」と言っている経営者や管理職の人は、後ろ向きな答えや言い訳を導く「悪魔の質問」を繰り出して、部下からそういう答えをわざわざ引き出している、という可能性がかなり高い。実際、私がやっている研修の内容がどんなものなのかを説明すると、この部分を説明した段階で、頭を抱えてしまう人が実に多いのである。
「きけない」人たち
「しつもん」のスキルは実にロジカルなものなので、普通のビジネスマンであれば、説明してちょっと練習すれば「なるほど」となる。理解することは比較的容易だ。
さて、問題はそこから、である。
私があえて「きく力」と書いているのは「聞く」も「聴く」も「訊く」もすべて意識的に使いこなせることをイメージしているからである。「しつもん」は「きく」ための道具として使われる。
大雑把に言えば
「訊く」は、自分が知りたいことや確認したいことを尋ねること
「聞く」は、言葉の意味を理解し、客観的にきくこと
「聴く」は、相手の話に共感的に、相手の立ち位置できくこと
といった感じになるだろうか。
組織内のコミュニケーションの問題の多くは、本来「聴く」でやるべきところで「聞く」を発動してしまったり、ひたすら「訊く」ばかり発動してしまったりする人がいることに起因するのではないか、と私はみている。
そして、何より困ったことは「聴く」ということが全くできない人が極めて多いということである。
どうして聴けないのだろうか?
原因はいろいろ考えられるが、私が最も大きな原因と疑っているのは「正しさ症候群」とでも言うべき状態である。
およそ世の中での選択に100%正しいものなどなく、選択する時点で、他の選択肢よりほんの少し確からしい、とか、良さそうに見える、というくらいの確度しかないのに、絶対的な正しさを求めようとしてしまう雰囲気がものすごく強く感じられてしまうのだ。
そういう考え方に支配されている人は、相手の話を「正しいか・正しくないか」と常にジャッジしながら聴いてしまう。これでは実際には聴いていないに等しい。
このような人ばかりの組織では、みんな、自分の意見が「正しいかどうか」が気になって、やがて、自由に発言できなくなってしまう。
1秒先に何が起こるかは誰にもわからない。だから、唯一の正しい答えなどあるわけがない。そう考えるところから、きく力は育ち始めるのではないかと思う。そういうスタンスに立てば、相手の答えも「なるほど、あなたはそう思うのですね」と受け止めることができ、話し手も安心して話ができるようになる。
このようなコミュニケーションが成り立つようになれば、組織の中にお互いを聴き合う基盤ができ、信頼関係が育つのではないかと私は考えている。
「きく力」はOSのようなもの
研修の説明をしているときによくあるのは・・・
説明をしているうちに、きっと、「きく力」はシステムでいえばOSかプラットフォームのようなものなんだろうな、と思うようになった。
今、もし、会社がなんとなくうまくいっていない、と感じることがあるとしたら、それは、古くなったOSの上にたくさんの業務アプリケーションを無理矢理に稼働させているような状態なのかもしれない。
OSのアップグレードの効果はとても感覚的だ。
「あ、ちょっと速くなったかな」とか「止まることが少なくなって、前より快適だね」というようなくらいだと思う。正確に効果を測るなら、何かベンチマークを設定する必要がある。
「きける組織」になったかどうかも、効果はおそらく感覚的なものだろう。「会社に行きたくないと思う回数が減った」とか「アイデアが出やすくなった」「仕事が楽しいと感じられるようになった」といったようなことはよく届く感想だ。これらを測定できるなら、相当な効果として認識できるはずだ。
きくことは楽しい!
自分だけの狭い価値観で周囲の人の話をジャッジするということを捨て去って、「それもありだな」というスタンスできけるようになると、きくことがものすごく楽しい、という状態が待っている。
そう考えると、会社なんて、朝出勤してから夕方帰るまで、ほとんどテーマパーク並みの楽しさ満載の場所だと思う。
ジャッジせずに相手の話をきく、どんどん面白い答えが出てくるような問いかけを繰り出し合う、そんな職場になれば、自分の脳ミソが何倍も広がる感覚になって、楽しくて楽しくて仕事への不満など言ってるヒマはなくなってしまうだろう。
私は、企業の人がよく使う「メンタルヘルス対策」という言葉が大嫌いだ。自分たちで原因をつくり出して、対策だなんて本当にどうかしている、と思う。でも、そんなこと言っていられないくらい、今は深刻な状況だということもわかる。私自身も、鬱で休職していた部下を辞めさせるという辛い経験もしたから・・・。
とにかく、今は、「きく力」を高めることの大切さを一つでも多くの組織に伝え続けるしかない、と思っている。ひとりひとりが自分らしさを発揮して生きられる世の中をつくるには、日々働く場である組織が変わることが、どうしても避けて通れないプロセスだから。
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