秘密の扉 13
時間が過ぎ、夕方5時30分になり、伊達伸一が神戸駅改札口で、高橋凉子を待っていた
「お待たせ、何処に連れて行ってくれるの」と涼子が現れ、
「そうだな、串カツなんて、あなたの口に合うかな」
「美味しそうねぇ、すぐに行こうよ」
串カツ屋
「ここの串カツはうまいんだぜ」と伸一が言った。涼子はもっとしゃれた店で食事したかったつもりだったので、少しがっかりし
「大衆的な店だわ」と言った
店員が来て「いらっしゃいませ、何にしましょう。
メニューを見ながら、伸一は「まずは生中と八本のサービスセット」続けて涼子が
「私はウーロン茶と八本のサービスセットでいいわ」
店員が八本のサービスセット二つと生中とウーロン茶ですね、かしこまりました
伸一が涼子に「あなたは思考、言葉、行動が微妙に絡んで、この人生を創っている言っていたよね」
「ウン」
「疲れたと声に出して言うのはどうかと思うんだ」
「どうして?」
「疲れたと声に出して言えば、身体の方も気持ちの方も、そちらに引っ張られるんじゃあないかと思うんだ。」
「・・・・・・・・あなたの言う通りかも知れないわ、じゃあどうすればいいの」
「そう言うことは、自分の心の中に止めておき、声に出して言わなきゃあ、いいんだよ」
「そんな単純なことでいいの」
「僕は、人にはあまり言っていないけど、このことを知ってからここ五年あまり、自分にとって不都合な言葉を、つまり、疲れたとか、暑い、寒い、不平不満、愚痴なんかもあまり口にしないように実践しているのさ」
「そうなの? あなたとの会話を回想してみると、確かに否 定的な言葉は少ない気がする。」
「それにさ、何をやるにしても、それを楽しくやるか、つまらなくやるかによって、気分的に全然違うよ。」
「そうだわねぇ」
最近読んだ本の中で、ターシャ・テューダーの言葉で、「たとえ、退屈で、つまらないときがあるとしても、暮らしに喜びを見出そうとすれば、きっと暮らしは、より良いものになるはずですよ」という言葉が結構気に入っているんだ
「いい言葉ねぇ、喜びの中にいるとき、人は疲れなんて知らないし、生き生きして、人生がバラ色になっている。
店員「おませしました。生中とウーロン茶、それと八本セットです。」
伸一が「今後の僕たちに乾杯」
涼子も負けずに「今後の私達にも乾杯だ、食べようよ、いただきます。」
一時間ほど、食事とたわいのない会話を楽しみ、涼子はじゃあまたと伸一と別れた。
我が家に猫が来た理由
自宅に帰ると、家で飼っている猫が、涼子の足元にすり寄り、「ニャー」と鳴いていた
凉子の父は、一年前に雌のグレーの猫を自宅に連れて帰ってきた。
父は「新しい家族に加わるのでよろしく」と言い、なぜ連れて帰ったのかと涼子の疑問に、父は「ペットショップのウィンドウでこの猫と視線が合い、価格が五千円と言うことで、衝動買いしてた」と言っていた。
ペットショップの店員によれば、チンチラとアメリカンショートヘヤーの混血だそうだ。
名前はミーコと名付けた。でも涼子は心の中で、巫女と勝手に名付けた。
父が猫を飼うということを決めたのは、我が家は昔ながらの長屋で、五屋ほど壁ひとつでつながっているので、いくら我が家を清潔にしても、他の家からネズミが来て、屋根裏を走り回るので、父は精神的にまいっているようだった。
猫を飼い始めて一年、猫がネズミを追い払ったのか、ネズミが猫の気配を察したのか、その真相は定かではないが、まったく屋根裏をネズミが走らなくなった。
涼子は猫の威力は絶大だと思った。
今もミーコが足元をまとわりついているが、当時のミーコの言葉を代弁すれば「ネズミ軍を撃滅しただいま帰還したよ!以上報告致します…」言っていると知れないなと考えながら、さらに涼子は、この猫を使ってエッセイを書くと言うことを思い立ち、原稿用紙に「猫の独り言」と題名を書き出し、すいすいとペンを走らせた。ペンを走らせているとき、涼子はふと伊達伸一がこのことを知ったら何て言うのだろう、小説の中のエッセイとでも言うのだろうかと言うだろうかと思ったら、笑いが出てきた。
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