ど田舎にできた高校アメフト部がたった2年で関西大会に出た話(先ず一歩を踏み出す)
挨拶も忘れて、いきなりSが話しだした。
いいだしっぺの責任を感じていたからだ。
「そうや、わしがフットボールをしとったんがよう分かったな。そやけどな、わしは今ソフトボール部の顧問をしとるのを知っとるやろ」
「わしにはあの子らを強くしたる責任があるんや。お前らもそう思うやろ。な。このはなしは、そんな簡単に引き受けるわけにはいかんわな」
U先生は、驚く様子も無く、焼けたばかりのにんにくを無造作に口の中に入れた。
そして、そのにんにくを二口、三口かんだ。
「お前らもこれ、食うか。元気が出るで。焼いとるからそんなに臭いもせえへんしな」
と、焼けたばかりのにんにくを、箸でつまんで僕らの目の前に差し出した。
「そんなことしにきたんとちがうんや。先生、ごまかさんとってえな。フットボール部を作ることにしたんやけど、素人ばっかりでは、どないしてええか、よう分からんのや」
「頼むから顧問してえな。なあ、頼むわ」
にんにくを目の前に、Sがもう一度頼み込んだ。
「おまえら、あったま悪いなあ。そんな簡単にはいかへんと今いうたとこやろ。ほんまに頭の悪いやつらはかなわんわ」
U先生は、あきれたように、にんにくを網の上に戻した。
それを聞いて僕らは、すぐに誰からともなく目で合図をした。
事前に打ち合わせをしていたとおりだ。
「何でもいうこときくから、頼むわ」
僕らは、そろって大きく頭を下げた。
「何でもいうことをきく・・・」
U先生は、網の上に箸を置くと、ゆっくりと僕らの方に視線を向けた。
それから腕を組んで、考え込んだ。
Tシャツからはみ出た先生の肘には、火傷が治ったような傷跡が無数にあった。
僕らは、まだ頭を下げたまま目だけは前を見ている。
「そうか。何でもいうことを聞くんやな。男に二言はないな。分かった。顧問を引き受けたろ」
先生が口を開いたとき、焦げたにんにくの煙で、部屋の中は真っ白になっていた。
「その代わり、やるんやったら徹底してやるで。おまえら、兵庫県代表で関西大会に出るんや。日体大方式でしごいたるから安心せい」
先生は少し、うれしそうな顔をした。
そして、すぐに
「いま、サッカーに人気があるけど、あのスポーツはおもろない。なんでや分かるか?」
「なかなか点が入らんからや。点が入らんと観とる人があきてしまうんや。そやけどフットボールは違うで。1分あれば7点入るんや。20点差でも10分あれば逆転できるんやで」
「そやから見とる人も退屈せえへんのや。お前ら分かるか。頭悪いから分からんやろな」
と得意そうに僕らに向かって一気にまくしたてた。
「はよ、メンバーを集めてこい。そしたらフットボールを教えたる。フットボールするには11人いるで」
「先生、ありがとうございます」
僕らは、めずらしく丁寧な言葉でお礼をいって、体育教官室を出た。
教室への帰り道、亘り廊下を歩きながらSがいった。
「最初は、あかんというとったわりに、日体大方式でしごくとか、もう最初からやる気やったんちゃうやろか。すぐにやったるというのが、しゃくにさわるから、もったい付けただけみたいやな。まあ、どっちにしてもよかったけど」
僕らは、顧問が決まってほっとしていた。
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