ど田舎にできた高校アメフト部がたった2年で関西大会に出た話(6.欲しいものは、自分で働いて手に入れる)
すると防具の注文内容を聞いた専門店の人から
「ところでユニフォームのデザインはどうされますか」
ときかれた。
Tは、返事に困ってしまった。
僕らは、それでユニフォームが必要なことに気付いた。
もちろん、どんなデザインにするかなど決めているはずがなかった。
仕方なく、Tはまた連絡することを店の人に伝えて電話をきった。
「フォーティナイナーズがいいな」
「ヘルメットが金で、ジャージが赤、パンツが金やな」
「それって、Uの母校の日本体育大学と同じやん」
「そうかあ。じゃあ、ノートルダム大と同じというのはあかんか」
「ヘルメットが金で、ジャージは濃い緑、パンツは黄色や」
「俺は、フォーティナイナーズがいいな」
「そんなこというとったら、決まらへんやん」
「多数決や」
みんなが好き勝手なことをいうものだから、多数決で決めることになった。
その結果、ユニフォムはノートルダム大と同じになった。
ヘルメットが金色、上のジャージが濃い緑、パンツが黄色の派手なユニフォームだ。
早速、Tが大阪の専門店に電話をかけ直して注文した。
僕らはフットボールそのものよりも、その派手なスタイルに憧れていたので、早く実物を身に付けたくて仕方がなかった。
2週間後、三木高校に待ちに待った防具が届けられた。
その日は、朝から校庭にちらほらと雪が舞っていた。
キングコングのような独特のスタイルにあこがれていた僕らは、早くそれを付けたくてしかたがない。当然授業は上の空。放課後になるやいなや、全員グランドへ勢いよく飛び出した。
うっすらと雪で白くなりかけていたグランドには、真っ白なヘルメットと、ショルダーパッド、サイパッド、ニーパッド、それにヒップパッドがマネージャーの手によって並べられていた。練習用の白のジャージとパンツはあったが、そこにユニフォームはなかった。どうやら間に合わなかったらしい。
「このヘルメット金色とちゃうで」
並べられたヘルメットを見てDがいった。
「あほやな。買ったときはみな白や。これから、スプレーで色を塗るんや」
Sがそういいながら、届けられたばかりのヘルメットをかぶろうとした。が、きつくて頭に入らない。後で、U先生が僕らに防具のつけ方を教えてくれることになっていたのだが、僕らは待ちきれず先に触りだしたのだ。
ヘルメットは、頭をピッタリと包み込むように作られているので、そのままかぶろうとしても頭には入らない。フットボールのヘルメットには、ちょうど耳にあたるところに直径5センチくらいの穴が開いている。そこに両手の指を掛けて引っ張って左右に広げて、その瞬間にかぶらないとうまくかぶることはできない。
また、ショルダーパットを先に付けて、後からジャージを着ようとしてもうまくいかない。肩幅が広くジャージに手を通すことができないからだ。
今度はZがヒップパッドを持ちあげて、首を傾げた。
ヒップパッドは、ベルトの中央部に幅5センチ長さ15センチ程度の板状のクッションが、そして15センチほど間隔を空けて両脇に直径10センチ程度の丸いクッションが取り付けられている。
「これって、前を守るんやろか」
Zが、中央部を前に持ってきて腰に巻いた。
素人であれば、誰もがそう考えるはずだ。
ちょうどそこへ、授業が終わったU先生がやってきた。
「何しとるんや、ブン。前と後ろが反対や」
先生は笑いながらブンに近づいた。
「ええ・・。そやけど先生、それやったら、大事なところを守られへんで」
「ばかたれ。お前の大事なところなんか、どうでもええ。それは、尾底骨を守るもんや。タックルされてケツから地面に落ちたときのためや」
それを聞いて、僕らは納得した。
30分ほど防具と格闘の末、U先生の指導もあって何とか全員着替えることができた。
防具の横には新しいボールが3個あった。少し赤みがかった色が付いていて、かたちも断面が円形ではなく、少し角張っている。
「このボールへんやで。表がぶつぶつしとる」
ボールを手にしたMが、じっとボールを見つめて、不思議そうな顔をした。
「わあ、ほんまや。へんや。へんや、このボール。にせ物ちゃうか」
周りのみんなも騒ぎ出した。
「ちゃうちゃう。さらのボールはこうなっとんねん」
「おまえらが使うとったやつは、皮が磨り減ってぶつぶつが無くなっとるだけや」
「普通はあんなツルツルのボールは捨てるんや。おまえらが使うとったボールは、大学が捨てようとしたやつや。それをわしが拾ってきたんや」
U先生は、少しすまなさそうな顔をした。
真っ白なヘルメットに真っ白なジャージとパンツ。それにぶつぶつのあるボール。11人がそろって小雪の舞うグランドを、時間が経つのも忘れて子供のように走りまわった。
そのころ校舎の中では、グランドに変な物が現れたと、大騒ぎになっていた。誰かが、グランドに見たことのない物がたくさんいると言い出したからだ。いつしか窓という窓は、突然雪の中に現れた不思議な光景を見ようとする生徒の顔で埋まっていた。
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