ど田舎にできた高校アメフト部がたった2年で関西大会に出た話(11.孤独でもやりきるのがリーダー)

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「お前、何のためにそこに立っとんや」

「遅れてきた人に注意するためです」

僕が、ばか正直にそう答えると

「1年生が偉そうに注意するんか」

その6年生は僕の顔を覗き込んで、くってかかってきた。

その後は、何もいえずに、ただ立っているだけになった。

(何でこんなことさせられとんのやろ)

僕は、惨めな気持ちのまま毎日立ち続けていた。

 

5年生のときにはこんなこともあった。担任のE先生が来るのが遅れて教室でみんなが騒いでいたときのことだ。

先生は、教室に入ってくるなり、怖い顔をして僕を怒鳴りつけた。

「委員長は、何をしとるんや、みんなが騒いどるのはお前のせいや。ちゃんと静かに自習させとかんかい。それができひんのやったら今すぐ委員長なんか辞めてしまえ」

「分かるまで、廊下で反省しとけ」

僕は有無をいわさず廊下に立たされた。

(なんで、さわいでへん俺が立たされるんや)

僕は先生からしかられた驚きと、納得のいかない気持ちとが混じった複雑な気持ちだった。

僕がしばらく、いわれたとおりに廊下に立っていると、E先生が、教室の扉を開けて廊下に出てきた。そしてゆっくりと僕のところにやってきた。

「ええか。委員長とはなんや」

E先生は優しく諭すような口調でいった。

「委員長とは、クラスのリーダーと違うんか」

「クラスのリーダーは、みんなをまとめなあかん。みんなは、おまえがそれをできるやつやと思うて選んだんや」

「そやから、おまえはたとえ一人でも、みんなをええ方向にもっていったらなあかんのや」

「リーダーは、みんなと同じことをしとったらあかんのや。一人ぼっちでも、しんどくてもがんばれ」

「こんなことは小さいときから経験しとかなあかんのや。大人になってからでは、身に付かん。これは勉強よりも大事なことや」

E先生の目には優しさが戻っていた。

「わしはお前に期待しとる」

そういい終わると、何事もなかったかのように、また教室の中に入っていった。

 

小学5年生に向かってそんなことをいう先生も先生だが、そのとき以来、僕は「長はみんなをまとめるのが仕事。孤独やけど、まとめられなければ責任を取らねばならない」ということをこの先生からことある毎に教えられた。

 そしてそのうちに、先生のいう「子供のときにリーダーをしてみんなをまとめる経験をしてないやつが、社会人になって急にリーダーをやれといわれてもできるものではない。リーダーになるものは、子供のころからその経験をしている必要がある」という理屈は、そうかもしれんなと思えるようになっていた。

 最初は、なんで俺だけが立たされるんや、俺はさわいでへんし、めっちゃ損や、と思っていた。が、そのうちに、委員長とはそんなもんか、と腹をくくるようになった。

それ以後、自習になるたびに僕は

「おまえ、先生とちゃうやろ」

「なにを偉そうにいうてんねん」

とガキ大将に反発されながらも

一人教壇に立って

「みなさん、静かにして下さい」

と大声でいわなければならないはめになった。だから、クラスのみんなは自習になると喜んだが、僕一人だけはその度に憂鬱になった。

 今の小学生にこんなことを要求すれば、「なぜうちの子だけが、しかられるのですか。悪いのは、さわいでいた他の子たちでしょう」

「なぜうちの子が、先生のかわりにみんなを静かにさせなければならないのですか。かわいそうでしょう」

という母親の抗議が来るに決まっているが・・・。

 

僕は、そんな昔の記憶を卒業アルバムのおかげではっきりと思い出した。

と同時に心の片隅にあった、逃げ出したいという気持ちが、体から、波が引くようにスーと消えていった。

「昔からずっとそうやった。長はしんどいもんや。けどみんなをまとめられなければ長とはちがう。みんなは俺を選んでくれたんや。長には責任がある。よし、明日みんなを集めて、自分の考えをちゃんと説明し、ダメなら解散しよう」そう心に決めた。

 一旦決めてしまうと、僕はスッキリとした気分になった。

昔から、決断するまでは、あれやこれやと結構悩む方だが、一旦こうと決めてしまうと、もう全く迷わない。

 僕には誰が何といおうと、以後考えは一切変えないガンコさがあった。

 さっそく、僕は翌日みんなに話すことをまとめるために自分の考えを文書に書きとめることにした。レポート用紙を引き出しの中から探しだして、文書を書き始めたが、いいたいことが山ほどあった。とりあえず思いつくままに書き出して、それらを順序よく並べ替えていった。

これで明日みんなの前で自分の考えを話せると納得したときには、もう窓の向こうは明るくなりかけていた。

僕は窓を開けて、ひんやりとした空気を胸一杯に吸い込んだ。

 

翌朝、いつもより早く学校に着くと、僕は早速みんなに声をかけた。

「放課後に2年5組の教室に集まってくれへんか。大事な話があるねん」

僕は、早くみんなに自分の考えを話したくて、授業を上の空で聴いていた。先生の声がずっと遠くで聞こえていた。

やっと、その日の授業が終わり、みんながぞろぞろと教室に集まってきた。

僕はみんなが集まったのを見届けると、教室の戸をゆっくりと閉めた。そして教壇に上がると

「最近、練習を怠けるやつが多い。今日は、何でお前らが練習にこうへんのか聞きたいんや。その前に俺の考えをいうから、それを聞いたあとでいいたいことがあったら遠慮せんとゆうてくれ」

と切り出した。

部を作ろうとしたときの気持ちや、折角はじめたのだから途中で止めないで続けるべきこと・・。僕は昨夜まとめたことを5分ほどかけてみんなに伝えた。

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