ど田舎にできた高校アメフト部がたった2年で関西大会に出た話(20現実は頭の中で起こっている。考え方を変えれば現実は変わる)
20.現実は頭の中で起こっている。考え方を変えれば現実は変わる。
次の日の練習前に僕はU先生に体育教官室に呼ばれた。
僕は、昨日からこうなるだろうと思っていた。
体育教官室に入ると
「まあ、そこにすわれや」
そういって先生は僕を正面に座らせた。
「うしよ。キャプテンとして昨日みたいな練習をさせとったらあかん。あれはなあ、やらされとる練習や」
「あんな練習では、関西大会には出れん。お前も分かっとるやろ」
U先生は珍しく穏やかな口調でいった。
「先生のいうとおりやと思う」
僕は、自分でも驚くほど素直に答えた。
「人はな、同じことをやるのに気持ちの持ち方しだいで、しんどさはぜんぜん違うんやで」
「親が、病気の子供を背負って夜中に病院へ行くのに長い時間歩いて、しんどいから怠けたろかと思うか」
「そやけど、人から届け物を頼まれて、同じ道を歩くときはしんどいと思うかもしれんな」
「どっちも同じ長さや」
「そいつの感じる現実というのは、外にあるんやなくて、そいつの頭の中にあるんや」
「お前は、みんなに『練習はやらされとるんと違う。お前らが関西大会に行きたいからやっとるんや』ということを分からせるようにせい。それがキャプテンの役目や」
「やり方はまかす。ええな」
僕はU先生の言葉に、どこか懐かしさを覚えた。
僕は、すでにU先生がいったことを理解していた。
以前、サッカー部の1年生であったころ、練習に行くのがいやでいやでたまらなかったことがある。
それは、しんどい練習をやらされるからだ。ところが、最近は練習がいやだと思ったことは一度もない。練習のしんどさは、遥かにフットボールの方が上であるにも拘わらず。
僕は、キャプテンになったときから、みんなをまとめて、部を強くするという責任を持たされた。
そして、その責任を自覚したときから、練習に行くのがいやとか、しんどいとか、思うことが不思議なくらい一切なくなった。サッカー部のときとは大きな違いだった。
もし、キャプテンでなかったら、練習がしんどいと思うときがあったかも知れない。役職が人を作るというが、そういうことかも知れないと僕は思った。
やらされていると思うか、自分からやっていると思うかによって、こんなにも自分の気持ちが違うものかと驚いた。
やることはどちらの場合でも全く変わらないのに。
そのことを僕は、U先生の言葉で再確認した。
「分かった。まかせといて」
僕は元気よく返事をした。
それを聞いてU先生は
「うしよ。考え方は変えることができるんや。他人は相手の考え方を絶対にコントロールできひん。でもな、唯一自分だけが自分の考え方をコントロールできるんや。そんで、どんなことでも自分の考え方によって取り組み方が変わるんや」
「苦労した経験は将来、がけっぷちに立たされたときのくそ力になるんやで」
「ほな、頼むわ」
と分厚いくちびるをほころばせた。
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