平凡な会社員が、“脳出血で倒れて働き方を考え直した”話【第三回】
病名判明。未来は不透明。
その日、目覚めた時から世の中のものが全部2重に見える様になってしまった僕は、家内の運転で自宅から数分のところにある小さな救急病院に辿り着いた。
病院についた時には時間も遅くなっていたので、既に午後の診察も終了しており病院の待合室はガランとしていた。
家内と二人で診察を待っている間の待合室は、人気もなく薄暗くて静まり返っていたので、何とも言えない不安に襲われていた。
しばらくして、診察室に通された僕たちは先生に状況を説明した。
CT室でCTを撮ってもらい、しばらく待っていると結果が出たそうなので、再び診察室に呼ばれた。
仕事については、同僚といっしょに進めていた案件が多かったので、僕がいないと全くブラックボックスになってしまうものも少なかったとは思っていたが、様々なデータの所在などを残したドキュメントも特に無かったので、結果的には多大な迷惑をかけることとなってしまった。・・・その時は細かなところまで頭が回っていなかったのが現状だったが。
この急転直下の状況に、家内も絶句していた。
頭の中で何かが起こっているとは思っていたが、出血しているとは夢にも思っていなかった。だいたい脳出血と言えば、くも膜下出血の様にいきなり頭痛に襲われ気を失うものだとばっかり思っていた。
そもそも、僕は痛みも何も全く感じていなかったので、そこまで大事になっているとは思っても見なかったのだ。
もうひとつ、引っかかったのは先生の「脳幹」という言葉だった。僕には医学的知識は全くないが、脳幹が脳の中枢部にあって脊椎に繋がっている”とっても大事な部分”である。という認識は少なからずあったからだ。(この時の僕の認識は当たっていた。脳幹が本当にやばいところであることは後々体験することになる。)
だいたい、そんなところで出血して大丈夫なんだろうか? ほんとに2週間程度の入院で治るのだろうか?
頭の中は、??ばかりだったが、とりあえず着の身着のままベッドに寝かされ、脳圧を下げるための点滴を打たれた。家内はとりあえずその日は帰り、翌日改めて入院の支度を持って来ることになった。
取り残された僕は、空のベッドが数台置かれている細長い部屋に移され、部屋の入口付近に置かれたベッドで夜を明かす事となった。
なんとなく奥にはもう一人患者さんがいる気配がしたが、その時は自分の身に起こった事を整理するので一杯一杯で、とりあえず持っていた会社の携帯で課長にメールを打った。
「脳出血で入院することになりました。2週間ぐらいかかるとのことです。ご迷惑お掛けすることになりますがよろしくお願いします。」
いまいち自分の状況がつかめていないのか、今思うと実に事務的なメールを打ったものだ。受け取った課長も読んでからさぞかし驚いたことだろう。
その夜は色々混乱していたが、疲れたせいもありうつらうつらし始めていた。
いつの間にかまどろみ始めた僕は、夜中の突然の悲鳴で目が覚めた。
僕の寝ていた部屋の奥にやはりもう一人の入院患者がいたのだが、その人はどうやら痴呆症のお婆さんらしく、尿道カテーテルを勝手に外してしまい、大変なこと(何となく想像できるが…)になってしまったらしいのだ。
どうやら、そのお婆さんは何度か同じ事を繰り返している様で、静まり返った夜中の病室の中で、看護師さんの悪態をつく声がボソボソと聞こえてきた。
今まで、入院などしたこともなかった僕は、
その病名の意味するところと、全く未来の見えぬ状況から、言い知れぬ恐怖を感じながら、入院初日の夜を明かすこととなった。
<つづく>
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