おとうさんの寝言が教えてくれたこと(3)

前編: おとうさんの寝言が教えてくれたこと(2)
後編: おとうさんの寝言が教えてくれたこと(4)


早口言葉は得意ではない。どちらかと言えば滑舌が悪い

「アエイウエオアオ」

高校生の頃、演劇部員が校舎の屋上に横一線になって発声練習をしていた。その光景を僕はよく見ていた。彼らのように意識して口を大きく開き、ゆっくりと、はっきりと話そうとトレーニングをした。

「カケキクケコカコ」

声の瞬発力、腹式呼吸、柔らかな表情筋がキーワードであると部員から聞けば、

「サセシスセソサソ」

勢いをつけ、腹を膨らませ、顔をくちゃくちゃにして発声した。


この頃は喜怒哀楽を抑制し、こわばった顔をしているために表情筋が容易に活性化しない。無理に動かすと口元や頬が無性に痛くなる。腹式呼吸を意識すれば思わずむせこみ声がかすれてしまう。定番の発声練習にはすぐに飽きる。

そこで言葉をつくる。

「ヤイヤイヤイヤイ、ゴー」

あるいは、

「チョモチョモチョモチョモ、OK」

これらの無秩序な言葉が脳裏に残るとき、

「フヘハオ、ホホヘホ、ヘホヘホ、ハハハハホホヘホ」

とりとめのない寝言となる。


「驚きの毎日やなあ」

出産したばかりの義妹が新生児を抱いて言う。

義妹は子育てのひと休みにと我が家に泊まりに来ていた。夜中、新生児に母乳を与えているとき、パトカーがけたたましくサイレンを鳴らし、すぐ近くを走り去って行くような音を聞いた。

「まるでサイレンに吠える犬のようやで」

寝言とは思えない緊迫感と声量だと義妹が言うと、

「そのうち歌もうたうし、演奏もするよ。寝言エアギターやな」

妻があっさりと切り返す。

義妹は寝ながらにして迫真の演技をするギネス的役者だと僕を評したが、

「役者は起きていて演じるけど、この人は寝とる」

と、妻の同意を得ることはできなかった。

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おとうさんの寝言が教えてくれたこと(4)

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