平凡な会社員が、“脳出血で倒れて働き方を考え直した”話【第七回】
希望が生まれた日
2009年12月28日。
僕は救急病院から人生初めての救急車に乗って、サイレンを鳴らしながらド派手な転院を果たした。
僕がストレッチャーに乗せられたまま運び込まれた大学病院の部屋は、脳神経外科のフロアにある4人部屋だった。ベッドの間隔も広く静かで、何よりも天井の蛍光灯が間接照明になっており、直接明かりが目にはいらないだけでも有りがたかった。
しばらく休んでいると、以前僕のベッドに入院していた方が忘れ物をとりに帰ってきた。そのまったく健常者と変わらない立ち振舞をみて、
そんな風に考えていた。
しばらくすると看護師さんがやってきた。
聞くと入院時の体重、身長を測定するとのこと。
「いやいや、座ることすら困難な僕がそんなことできるはずないやろ…」
そう考えているまもなく強制的にベッドから連れだされ車いすに乗せられた。
家内も寝たきりだった僕を急に連れだされたことにすこし驚いていたようだった。
という僕の思いも意に介せず、看護師さんはふらふらする僕を無理やり立たせ、身長と体重を測った。
「・・・無理やりやな。」とは思いながらも、何十日ぶりかでふらつきながら手で体を支えながらも自分の足で立てたことは事実だった。
ベッドに戻ってから。また、しばらくすると看護師さんがやってきた。
あっと言う間に看護師さんが3人集結して、身ぐるみを剥がされた僕は、ストレッチャーに載せられたままお風呂に入って全身をすみずみまで洗ってもらった。
約1ヶ月ぶりに風呂に入り、全身きれいさっぱりした僕は本当に生き返った気がした。
温泉に入った時よく「極楽、極楽」と言うが、この時ばかりは、本当の極楽を感じることができたような気がする。
前の病院では設備が無かったことや病状から安全をみて、お風呂に入れてくれなかったのかとは思うが、お風呂一つでこんなに元気になるとは思ってもみなかった。
この日は、めまぐるしい一日だった。
午前中は救急車で運ばれていたのに、午後には、(無理矢理だったが)久しぶりに自分の足で立ち、風呂にも入ることができた。普段では当たり前に出来て気にもとめなかったことだが、この時の僕にとっては大きな前進だった。それもたった一日で起こった出来事だった。
今思い返すと、確かにこの日が復活に向けての転機になった日だった。
<つづく>
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