トルコ半周の旅に出たら友人が男にモテまくった話

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環境や土地、時代が変われば「モテる人」の条件も変わることは有名だ。


小学校の頃、社会の先生がこう言っていた。

「平安時代は痩せていることは貧しさの証だった。だから今のモデルのような女は平安時代ではモテないんだ。」

なるほど。もしかしたらポッチャリ女子ブームを自然に巻き起こしたいなら、タイムスリップの技術を発明するのが最も効果的かもしれないと今にして思う。


話を本題に戻そう。

これはホワイト企業に絶望した僕が、社会に出るという現実を逃避するために、ひたすら遊び呆けていた大学4年の頃の話だ。

結論から言うと、一緒に「トルコ半周の旅に出た友達が現地の男性からモテにモテまくった」。ただ、それだけだ。実際、言葉にすると重みがないかもしれないが、あの光景や温度感は今でも忘れることなど、できやしない。それくらい彼の引きはすごかった。





無論、友人の性別は男だ。そうでなければ大して面白い話でもない。


彼の名誉を守るために、ここでは仮名を使うとする。


トルコで屈強ヒゲ面男たちにモテまくった私の友人、高橋(仮)は少々神経質なところはあるがいたって普通の男だ。

中背で痩せ型。バンプとかアジカンでドラムを叩いていそうな顔立ち。いつもディーゼルの服を着ていた。

高橋が日本で女性から人気があったかは不明だが、少なくとも私が彼と出会った大学3年以降からは彼女がいたという話を聞いたことがなかった。


つまり、特別モテるタイプでもないし、かといってモテないタイプでもないが、女性には優しいタイプの男だった。


そんなどこにでもいそうな彼だが、トルコというアラビアとヨーロッパの文化を折衷した異国では彼は明らかに特別な存在であり続けたのだ。


僕らが旅に出た理由


大学生が就職活動を終えて内定を取ってから大学卒業するまでの約10ヶ月間は別名『人生最後の夏休み』だと言われている。

大学生の『人生最後の夏休み』の過ごし方は次の2つに分類できる。1つは、就職後を見据え、インターンや短期留学、資格の取得など、自己啓発やスキルアップに使う者。そしてもう1つは、来年からは社畜になるのだからここで遊んでおかなければ損だ!と、とにかく気が狂ったように遊んだり、とにかく時間を浪費することに全力を尽くす者だ。


私は無論、後者だった。


そして、お金持ちの坊っちゃんが集うKO大学に属する学生の性質と、地味に広かった私の交友関係から、私は半年間の間に、5つの国へ旅立つことになる。


その1つがトルコだった。なぜトルコだったかは覚えていないが、ニューヨークやハワイ、バリ島、パリ、ベネツィアといった観光の王道では無い気がしたことと、シーズンオフだったため破格の値段で高級ホテルをハシゴするツアーに申し込めたことで、私たちはトルコ半周ツアーの旅に出ることになった。


その年の年末に差し掛かった某日、私たち、男3人と女2人のグループは成田国際空港からイスタンブールへと飛んだ。







お前のケバブ多くね?


男3人と女2人というメンバー構成から、不埒な展開をイメージする人も多いかもしれない。だけど私たちはその辺りの関係はとてもピュアで誠実で真面目なものだった。

その旅行は大学のゼミのメンバーの一部で行ったものだが、私が属するゼミは男女間の仲がよく、良い意味で男女の境目もなく、こうして複数人で旅行に行くこともしばしばあったのだ。

日中は普通に観光し、ホテルに戻り皆でご飯を食べ、部屋では現地調達した酒で盛り上がり、ゲームをして各々の部屋で眠りにつくという極めて健全な旅を続けていた。

確認しておくが、これは旅先で男女の揺れ動く想いが交差するラブ・ストーリーではない。中背痩せ型の普通の男、高橋がゲイにモテまくるだけのストーリーだ。


とは言いつつ、最初の数日は特に目立ったことはなかった。強いて言えばレストランのウェイターが高橋にだけやたら話しかけていたくらいだ。

『水のおかわりはいるか?』

『飯は口にあうか?』

『何か困ってないか?』


だが、その時は我々はまだ事態を重く受け止めてはいなかった。シャイで慎ましい日本人とは違い、外国人はフレンドリーに観光客に接してくるのはいつものことだ。

それに、高橋は独特の『話しかけやすいオーラ』を発散している男だ。友人に1人はいるであろう、『やたらと道を聞かれるタイプの人間』だったのだ。

そして高橋はいつもテーブルの隅の方に座っていたので、ウェイターからしてみても1番声を掛けても自然な位置に座っている。頻繁に声を掛けても、おかしくはないだろう。


しかし、不思議なことに、それが毎回続く。毎回のように高橋は英語で何かウェイターから話しかけられるのだ。

そして、トルコという国は親日国家としても有名で、日常挨拶程度の日本語なら習得している人も多い。高橋は彼らが覚えた日本語を試してみる実験台に使われて、我々はそれを眺めていた。


『あれ?』と異変を感じたのは旅の3日目だ。いつものように現地のオススメレストランで入り、ツアーで決められたコース料理が運ばれてくる。

ウェイターが丁寧に皿を一人ひとりの目の前に並べていくが、どうもおかしい。

友人:磯野
高橋、お前のケバブ多くね?

明らかに高橋のケバブだけ量が多かった。誤差とかたまたまというレベルではない。明らかにサービスとしか考えられない量だった。

その時、これまでのトルコ人たちと高橋のやや濃密な絡みが一瞬でフラッシュバックした。高橋は半笑いをしていた。全員で何気なく料理を運んだウェイターをチラッと見たら、高橋に向けてウィンクをしていた。

さすがに我々は笑えなくなっていた。


君は持ち帰っても問題ないかな?



1人のウェイターが高橋に熱い視線を送り、頻繁に話しかけ、食事の量を異常なまでの大盛りにしてくれた。それだけならおかしくはないだろう。

ただ1人の男が、高橋という男に惚れただけの話だ。そんな話はどこにでもあるだろう。


しかし、高橋は現実として、行く先々のレストランのウェイターから潤んだ目で見つめられ、熱心にアプローチをかけられていたのだ。これはもう、高橋という男がトルコという国と異常なまでにシンクロしたとしか考えられない。


その後もトルコ半周の旅は続き、素晴らしい世界遺産と触れ合いながら、高橋は順調に様々なレストランのウェイターに声を掛けられていた。次第に我々の旅の楽しみは高橋の動向に向けられ、彼がどんなトルコ流おもてなしを受けるのかに注目していた。


そんな中、我々はトルコでは宗教都市として有名なコンヤという街に降り立った。トルコは意外と宗教色が弱い印象を受けたが、コンヤでは女性の肌の露出が問題となるなど、トルコ国中では最もイスラム教色が強い街だという説明を受けた。


事件は、コンヤのとある博物館で起こった。


その場所は、遺跡と博物館が合体したような施設で、様々な財宝や骨董品が並べられていたほか、雄大な建築美やとても綺麗な景色も堪能することができた。


自由行動であったため、我々5人も集合場所と時間を決めて、バラバラに見物をしていたが、私は自然と高橋と行動を共にしていた。

すると、私が少し場を離れた瞬間、高橋が2人の屈強な男に囲まれていた。どうやら英語で何か話しかけられているらしい。私は自然な距離を取りながら、拙い英語力でリスニングを試みた。


トルコ人
日本人かい!?
は、はい・・・
トルコ人
この展示品、とてもキレイだろう!
そ、そうですね・・・
トルコ人
この説明文によると、この展示品には手を触れちゃダメだそうだ。持って帰るなんて問題外だよな!
は、はい・・・
トルコ人
ところで、この展示品は持って帰れないみたいだけど、君は持ち帰っても問題ないかな!?
!?

さすがにヤバいと思い、私は高橋の元へ行った。ナンパをしていたトルコ人は『チッ、連れがいたのか!』という表情を見せた後、おとなしく去っていった。できれば私としては女の子を守るためにこういうことをしたかった。

以前から、ウェイターに声を掛けられたり、ウィンクされたりしていた高橋だが、それが性的なアピールかどうかは自信が持てていなかった。そのため、今回の事件は、高橋が複数の(数えきれないほどの)トルコ人にとって性的な魅力を感じさせる存在であると、この事件で確信せざるをえなくなったのだった。


ハマムと乳首と絶叫と




『高橋ナンパ事件』を目撃したのは私だけだったので、その光景を他のメンバーに報告しても、どうも嘘くさく感じられるためか皆なかなか信じてくれない。

しかし、あまりにもテンションがガタ落ちしている高橋の姿を見て、皆自然と信じるようになっていった。

『高橋がトルコ人男性にモテる!』

これは紛れもない事実だった。

そして気づけば旅は実質的な最終日に近づいていた。今までは観光バスで、ツアー客全員で同じ観光地を巡っていたのだが、最終日だけは首都イスタンブールでの自由行動だった。

集合時間に間に合えば何をして過ごしてもいいのだが、我々はイスタンブールで最も有名なマーケットに出向くことにした。

高橋とトルコの相性の良さに加え、多くの一般のトルコ人で溢れかえるマーケットでの自由行動。事が起こる予感しかしなかった。

さすがに自由行動においては、男と女では趣味や関心事も違うだろうということで、男女別行動にすることになり、我々、男3人組はハマムという現地で有名な『垢すりエステ』の店に行くことにした。


実は女性陣はとある高級ホテルにて、日本円にして1万円くらいの結構いい感じのハマム体験を一足先に済ませていたのだが、男性陣は『そんな高いのじゃなくて街の適当なとこで体験すればいいべ』ということになったのだ。


そして、恐る恐る、『地球の歩き方』で紹介されていた、現地民で憩いの場とされているハマムに入った。お金は前払で、受付のお姉さんに鍵をもらい、着替えることになった。

着替えと言っても、何かを着用するわけではない。服を全部脱ぎ、その上に大事な場所を隠すためタオル1枚を巻くだけだ。


あんな綺麗なお姉さんがマッサージしてくれるのかな!という私の期待は、脱衣所から垢すりを行うサウナ室に入ろうとした時に、見事に打ち砕かれる。屈強なオッサンが場所までエスコートしてくれたのだ。


とても紳士的だが、何か期待していたものと違う。そして、連れて行かれた後も、その辺で適当に寝とけというすごく雑な指示を出されただけだった。

私が待機場所についてすぐ、もう一人の友人、磯野も別のオジサンに連れられてやってきた。彼も私同様にその辺に寝てろという雑な指示を出されただけだ。私と磯野は待ち時間中、軽く会話を交わしている。


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