【広島3】ひいおばあちゃんは160歳。2

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前編: 【広島2】ひいおばあちゃんは160歳。

ひいばあちゃんは、借金取りに行ってた


ひいばあちゃんは土地持ちで、その日、いつものように、

家賃を払っていない人々のもとへ行っていた。ひいばあちゃんに借金をしていた人もいる。

田舎にいる人たちは、お金の代わりに食料をくれる。

それで、ひいばあちゃんとおばあちゃんたち一家は生きていた。


おばあちゃんは、ちいさな貿易会社の経理の仕事をしていて、

その日は、出張していた。

ドンという音を聞いて、出張先の山間の町から音のした方向を覗いた。

広島の街の上に、何か黒いもやもやしたものがあった。

空襲だ!と思い、家に帰ろうと思ったけれど、

出張先の社長さんたちに止められた。

『生きていれば絶対に会える。

 死んでいるなら、今更行っても無駄だ』

広島から遠く離れた場所で、被ばくということは、とりたてて重要なことではなかった。

被災から三日目。電車が再開した。

出張先の静止を振り切って、おばあちゃんは、広島の駅に降り立った。
そこは、あぶらのにおいがした。人間の、あぶらのにおいだった。


家にかけよると、屋根がはがれて、
中の箪笥から、おばあちゃんの妹の、赤い着物がひらりひらり
夏の風に踊っていた。

家の前には、お父さんと、弟が立っていた。

家の中で丸太になっている家族たちを呆然と見つめていた。

一番小さな弟の上に梁が乗っていて、爪が全部はがれていた。


外へ出ようともがいたのだろう。
細い骨が、ちろりと見えた。



おばあちゃんは、お父さんと弟たちと一緒に、家族を野原でやいた。

裏返して焼き、焼いては裏返したけれど
お父さんと弟たちは、自分が死んだことを理解してないみたいに、
家の屋根や瓦に絡みつづけた。


その時の広島は、骨壺がすごい値段で売れたんだって。


おばあちゃんの仏壇に、お父さんや弟たちや妹の骨壺が並んだ。
でも、そこにひいおばあちゃんはいない。

近所のひとたちは、ひいばあちゃんはもう死んだのだと説得した。
見つからないということは、当時、死んだということだった。


でも、ひいおばあちゃんが死んだと認めると、
おばあちゃんは、家族を全員失うことになる。

生きのこっていたお父さんと弟は被爆から数日後、鼻血を出して、突然に死んだ。


まるきり一人になってしまうのは、いやだ。

おばあちゃんは、ひいばあちゃんが死んだのを認めなかった。

死体を見ていないのだ。だから生きているのだ。おばあちゃんはそう言い、

近所の人も、説得を諦めた。

おばあちゃんの気持に、自分たちと通じるところがあったのでしょうねとおばあちゃんは呟いた。


怪我をして帰ってこれないからだ。初めの一か月はそう思って待った。

記憶喪失になって帰って来れないのだ。次に三カ月はそう思って待った。


怪我をして記憶喪失だから帰って来られないのだ。次の5年はそう思った。

もしかしたら住所を忘れたのかもしれない。おばあちゃんは、ひいばちゃんを訪ね歩いた。



でも、病院に行っても、ひいばあちゃんの行く先は分からない。

一週間、一か月後でも、何の情報もなかった。
『あのころは、死んでいない人の方が珍しくて……』とおばあちゃんは言った。

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