ヨーロッパに向かうフライト中に、「お医者様はいませんか」に応えて出ていったら、とんでもないことになった若い外科医の話

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そう、あれはヨーロッパ行きの飛行機の中の出来事だった。

私は当時30歳を超えたばかりの独身・若造外科医で、ヨーロッパで開かれる学会に参加すべく向かっていたのだった。

私は、モニターの映画のブルース・ウィリスを観ながらそっくりな顔の後輩医師の顔をぼんやりと思い浮かべていた。彼の外科医としての成長、人間としての成長、おでこの後退


そんな時、事件は起こった。

すぐ前のシートの男性が、青い目のCA(キャビンアテンダント)となにか話している。

気分の悪そうな初老の男性は、後ろから見ていると段々とシートから頭が隠れて行った。

何かクレームでも言っているのだろうか?CAもなんだか慌てた様子で対応をしている。

隣にはその男性の奥さんなのだろうか、同じ歳の頃合いの女性も身を乗り出すようにCAと話している。


「やれやれ、クレームか・・・。」

私はなんとなく少しうんざりした気持ちになって、目の前のモニターに目をやった。


地図を開くと、ロシアの上空がやっと終わろうとしているところだ。

こうやって見ると、なんて横に長い国なんだろう。

ロシア。

白い息を吐き、ふかふかの毛皮の帽子、ウォッカ…憧れの元超大国の上空にいる。

それだけで少し心が躍ってしまう。


睡眠不足と、飲みすぎた白ワインでまどろむ頭を醒まそうと、通りがかったCAにCaffeをお願いした。ヨーロッパ行きのフライトでは、10種類くらいのcaffeを準備している所があるのだ。さすがカフェ文化が世界遺産になるエリア。



「ん・・・?」

・・・俄かに変な予感がした。何か危機的なものがある予感。一瞬で飛行機の中の寛ぎの空気が一変した。

別に特殊能力があるわけではない。

いつから感じるようになったか覚えていないが、ただその空気がぴんと張り詰めたのがわかるだけだ。

街中でも、職場の病院でもたまにそんな予感を感じることがある。きっと誰かが危機的状況に陥っている、のだろうと。街中ではその感情は黙殺するが、病院ではだいたいその予感は当たっている。

人間だれしも良い予感ははずれるし、悪い予感は当たるのだ。


胸騒ぎは確かにしたが、私は今病院にいるわけではない。

ただシートにもたれてコーヒーの香りを楽しんでいるだけだ。なんとなく自分を落ち着かせようと、再び妄想の世界に浸った。



すると突然、前の初老の男性の席の周りにCAたちが続々と集まってきたのである。合計6人くらいはいただろうか。みんなそれぞれ、手にはボストンバッグの様なものを持っている。


まずい。

予感が当たったようだ。

一瞬で頭が澄み渡る。

私はほぼ無意識のうちに席を立ち、その男性の席に向かっていた。

自分の体内のアドレナリン血中濃度がぐいぐい上がっていくを感じた。

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