雑誌を作っていたころ(16)

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前編: 雑誌を作っていたころ(15)
後編: 雑誌を作っていたころ(17)

新企画


「おとこの遊び専科」は快進撃を続け、部数も安定してきた。すると、誌面にマンネリズムの影が差すようになってきた。

 読者というのは敏感なもので、ちょっとでもこちらが手を抜くと、てきめんに実売率に跳ね返ってくる。ぼくは毎晩、編集長と飲みながら打開策を練った。


「こんなのはできないだろうか」と、ある日編集長が言い出した。

「きのうベッドでぼけっと寝そべっていたら、天井のシミが女の子のヌードに見えてきたんだよ。で、思ったんだけど『等身大のヌードポスター』とかがあったら、彼女のいない男が天井に貼って楽しむんじゃないか」

 等身大ということは、天地1.7mの印刷物だ。撮影はなんとかできるとして、問題は製版と印刷。駅貼りポスターの大きさを考えれば、不可能ではないかもしれないが、コストがどのくらいかかるか想像もつかない。

 しかし今までに見たことのないものができたら、きっと話題になるだろう。

「明日、学研の生産管理部に聞いてみます。ほかの出版社にできなくても、学研ならできるかもしれません」

 ぼくはそう答えた。


 翌日、上池台の学研本社を訪ねた。生産管理の人たちには、麻雀の時にいつも社の駐車場を貸してあげているし、ぼくが特殊印刷や製本工程のことに興味を持って聞きに行くので、みんな顔なじみだ。

「やあ久しぶり。今日は何の用事?」

「じつは編集長が等身大ポスターを付録にしたいと言い始めたんで、可能かどうか聞きに来たんです」

「あー、等身大ね。たぶんできるけど、付録はむずかしいよ」

「どうしてですか?」

「折らないと雑誌付録にならないでしょ。等身大のでかいコート紙をA4に折ったら、たぶん割れちゃうよ。折る機械もないし」

「なるほど。そこまで考えていませんでした」

「業者に聞いてみるけど、あまり期待しないでね。あと、販売局にもひと声かけておいたほうがいいよ。やることになったら、結束だの梱包だので大騒ぎになるから。それに、取次がOKするかどうかわからないでしょ」

「わかりました。お願いします」

 その足で販売局の雑誌販売部を訪ねた。ちょうど懇意にしている次長がいた。

「おお、君か。『おとこの遊び専科』、いい感じじゃない」

「その件なんですけど、マンネリになる前に手を打ちたいと編集長が」

「いいことだよ。落ち目になる前に新しい手を打つ。やっぱり勢いのある雑誌は違うね」

「等身大のヌードポスターを付録にしたいんです」

「おいおい、巻物はつけられないよ」

「折る方向で考えているんですけど」

「できるのかなあ。生管は何て?」

「折る業者を探してくれるそうです」

「でも、綴じこめないだろう?」

「そうですね。たぶん無理でしょう」

「可能性が見えたら、教えてよ。取次と相談するから」

「よろしくお願いします」

 実現の可能性は、あまり高くなさそうに思われた。誰もやっていないことというのは、思いつかなかったからではなく、不可能だからできなかったということのほうが多いのだろう。


 数日後、生産管理部から電話があった。

「やれますよ。印刷も、折りもOKです。苦労しましたが、テスト結果も上々です」

 日本に1台しかないという「A4倍判(A3が32枚並んだ大きさが印刷できる)」の4色オフセット印刷機を使って、等身大ポスターを縦に2枚並べて印刷。その印刷所が持っている断裁機で周囲とまん中をカットし、それを折り工場に運ぶ。折り工場では畳表を折る機械でまずポスターを半分に折り、そのあとは普通の折り機でA4判の雑誌に挟めるサイズにまで折るのだそうだ。心配された「割れ」も、畳表を折る機械を使うことで回避できた。

 さすがは学研。普通の出版社では、こういう発想は出てこない。

 すぐに販売局と打ち合わせし、折ったポスターをビニールの袋に入れ、袋に雑誌名と雑誌コードを印刷することで、取次の了承を取ってもらう。あとは撮影の段取りだけだ。

 編集プロダクションの社長とは、かんかんがくがくの議論となった。彼は編集よりもキャスティングと撮影が専門なので、こういう話になると熱が入る。

「用途を考えると、寝かせて撮りたいですね。真俯瞰の撮影ができるスタジオを探す必要があります。印刷の大きさを考えればカメラは4×5、レンズは360ミリ。だとすれば、撮影距離は10mはほしいですね」

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