Hvarf/bone 〜消えた親不知〜

次話: Hvarf/bone 〜消えた親不知〜②

序章


親知らずなんて、所詮はただの歯。

いっぱいあるうちの一本でしかなく

幼い頃、何があっても麻酔をしてくれないドSな歯医者に通っていた私にとって

世間がどれだけ私に、親知らずの抜歯が恐ろしいものであると必死で訴えようとも

そんなものは怖くもなんともないと思っていました。


だから。

歯医者に「この埋まっている親知らずは、抜いた方がいいですね。どうします?」と言われた時私は


「そうですか。ぬきましょう」


と偉そうに答えたのです。


この物語は

そんな私が親知らずと戦った、その記録です。


※読むと気持ち悪くなったり食欲が失せたりなど、不快な思いをされる可能性があります。

その場合は即刻読むのをおやめください。




01 抜歯の宣告。

私が現在通う歯医者は家から徒歩3分という近さです。

正直、近さだけで選びました。

しかし、予想外だったのは

その歯医者が想像以上に人気であるという事実。

とにかく、全然予約が全然取れません。

私が土曜しか来れないという理由がもちろん大きいのですが、以前虫歯の治療をした時は

平気で「次は再来月になります」なんて言われていました。

こんなペースで治療していたら

治療に行く度に進行した虫歯を削り続ける無限ループにはまってしまうのではと。

人気というより、患者が無限ループなだけなのでは。とすら 考えたものです。


が、当然ですが違います。

ふつうに手際の良い歯科医でした。


そんな私が、親知らずの抜歯の提案をされた日の事ですが

突然、歯科医がレントゲンを持ってきたわけです。

「ここ、この下の白いの、親知らずなんですよ」

「あ、私親知らずあるんですか」

「ええ。一本だけ。完全に埋まっていますけど」

そんな会話をしながら覗き込んだ写真には

奥歯の更に奥に、白く三角っぽい大きな影が確認できました。


ただ、ふつうの歯とはちょっと様子の違う、本当に変な形なんです。

歯科医いわく

「親知らずは、昔は当たり前に必要な歯だったのですが、最近の人は堅いものを噛みませんし、アゴが小さいから、必要なくなっちゃったんですよね。

で、不要な歯は退化していきますから、こんな不完全な状態で、しかも真っすぐ生えきらず、中途半端に埋まっていたりするんです」

とのこと。


人間の機能は必要最低限まで特化され

不要なものは退化していく……。

なんか、壮大っちゃ壮大ですね。


「生き物って不思議ですよね。そもそも人間には過去に尻尾もあったわけじゃないですか、祖先が——」


歯科医がレントゲンを置き、なんか急に熱く語り始めました。


「あと、深海魚なんてものは、目ですよ、目が退化しちゃって無いやつもいれば少しでも光を集められるように目の裏に銀の幕を張っているやつもいて」


「は、はァ」


「あとそうそう、頭が透明な魚がいるんですよ。脳が丸見えのやつです」


「頭が透明なやつは一体何の為に透明になったんでしょうか」


「さあ」


「……」


食いついたらサラリと躱す、随分理不尽な歯科医です。


とにかく。

私の親知らずは横を向いていて、進行方向が前歯方向。

放置すればそのうち手前の歯の歯根を薙ぎ倒しながら進み、やがては前歯となり浮上するという話でしたので(後半は嘘です)

そんな男塾塾生のような歯を残しておいたところで百害あって一利なしであると、

一体何を迷っているのだと、一回も嫌だなんて言っていないのに歯科医からそう説得され

抜歯の予約をしたわけです。


2ヵ月後に。







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