福祉アナリストになったきっかけSTORY。介護、悩み、現場の本当のものがたり。感じられる人だけに読んで欲しい。~腕の中で零れ落ちる命。消極的な自殺~

私がある施設の館長をしていた時、一人の男性が入居してきました。娘さんからのご相談で、一人住まいの父親が心配なので入居させて欲しいとのことでした。

奥様を亡くされて気落ちしているということで、食事をきちんと取って、規則正しい生活をして欲しいという希望でした。食事を食べたり、トイレに行ったりすることは出来るので、日常的な会話を積極的に行い、生活にメリハリをつけることを目標に入居されてきました。


私が館長をしていた施設はグループホームだったので、認知症がある方が前提です。その方も認知症があるとのことでしたが、認知症の程度は軽くて日常会話や昔話は充分できていまいした。私は入居されたら活気も出てくると、気軽に考えていました。


男性は非常に大人しい方で、会話も少なく、何かのイベントにお誘いしても全く乗り気でなく、食事以外は部屋に閉じこもっておられました。部屋を訪問してお話しても会話は弾まず、固い表情で横たわっているだけです。そのうちに、どんどんと食欲が低下し、やせ衰えていくのが目に見えてきました。おトイレも行かなくなり、紙パンツを使用するようになり、紙パンツの中で用を足すようになられました。全くの寝たきりになられたのです。


男性が食べられるような、高カロリーのプリンやゼリーを用意し、部屋にもたくさん訪問し、半ば強引にトイレ誘導を行っていましたが、男性はどんどんと痩せ、骨と皮ばかりになり、家族の希望で点滴が開始になりました。私や職員は積極的に食事を勧め、食べられるものを探しましたが男性は全く食べなくなりました。


訪問している医師に


「これは消極的な自殺だから、点滴もしないほうがいいのではないか」


と言われた衝撃を私は今でも覚えています。


男性の絶望はいかなるもので、その気持ちを汲み取ることが出来ていなかった


絶望のケアをすることを施設は全くしていなかったのです。


その後、家族は医師に栄養を点滴して欲しいと言われました。けれど、私は家族に医師のその言葉を正直に伝えることは出来ませんでした。


「先生は病気ではないので点滴できないといわれています」


ある夜、私は彼のトイレ誘導を行ないました。個室から誘導し、トイレの便器へと座って頂きました。職員はそこまで強引な介護をすることはありません。本人から断られれば、あきらめます。けれど、私は介護経験も長く、私の技術ならばトイレ誘導も可能でした。オムツ内で排泄をする。それは人間の尊厳です。尊厳を取り戻して欲しかったのです。男性は既に健康なころから比べれば、30キロは痩せておられました。もう、ガリガリです。そして、トイレにお連れした瞬間、男性はトイレ内で意識がなくなりました。起立性低血圧でした。急に立ち上がったことによる意識消失です。すぐに、床に寝てもらい、救急車を呼びました。男性は意識を取り戻し、病院で手当を受けましたが特に悪いところはないと帰ってきました。


この当時は看取りという、病院で死なない、家や施設で死ぬということが選べるようになり始めていました。不必要な治療を受けずに穏やかに亡くなるという選択です。


しかし、この方にそれをしてもらうことはかないませんでした。


その後、この方は意識消失を繰り返し、その度に病院へ運ばれて、病院で亡くなったのです。


彼の幸せは絶望のままに亡くなることだったのでしょうか。


不必要な治療が必要だったのでしょか


家族に見守られるように、施設で最後を迎えることだったのでしょか


私の腕の中で意識が無くなった男性を私は忘れる事ができません。


正解などない介護の中で、確かに男性は死を選んでいました。


彼の絶望を救うことは出来ないと思い知らされたのです。



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