私はここにいる

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「何がいい?」

「このコーヒーでいいです」

平田はほまれの制服姿を上から下まで見下ろし

「高校生だろ?コーヒー選ぶなんて渋いね」


「いつも飲んでますから」

二人で談話室で缶コーヒーを飲んだ。

しばらく無言だった。

ほまれには居心地が悪いシチュエーションだった。


「あのさ、俺のこと知ってる?新聞にも出たんだ」


ほまれはなに自慢してるの?喉元まで来て止まった。


「俺、芸人やってるんだ。ほんとに知らない?テレビにも出てるよ。ったく忙しい時に追突なんてよ」


「ごめんなさい、私、テレビ見ないから」

缶コーヒーを飲み干した。


「ごちそうさまでした。では失礼します」


ほまれはこの小さな談話室から逃げ出したかった。


「ちょっと待って。名前教えてよ」


「ほまれです」

「ほまれか。いい名前だ。俺、平田健一。

テレビつけたらどこかの番組に出てるよ。気が向いたら観てね」


ほまれは小さくうなずくと素早く母親の病室に戻った。


ほまれには芸人だろうがテレビに出まくるような人間にも興味がなかった。

あるのは深い深い暗い井戸に沈められてるような虚無感だけがほまれを包み込んでいた。


翌日も母親がいや、平田が入院する病院に行った。

平田に缶コーヒーのお返しをするためだった。

病院の近くのケーキ屋でシュークリームを4個買った。

「箱を2個づつ分けて下さい」

平田に渡してすぐに母親の病室で食べるつもりだった。


病院に行くと平田が公衆電話で誰かと話をしていた。


ほまれは引き返そうとしたが受話器をガチャリと下ろしテレホンカードが出てくる音がしすぐさまほまれのほうを向いた。


平田は

「やぁ、今日も来たんだね」


「あの…これ食べて下さい」


なになに?というような顔をして平田は箱を開ける。


「シュークリームじゃん!一緒に食べようよ」


「いえ、私の分は母と食べますから」


平田は困ったような顔をして

「何個も食えばいいじゃん。談話室に行こう」


平田はほまれの手首を握り談話室へと連れて行った。


「嬉しいな。ありがとう。一緒に食べよう」


平田は二口くらいでペロリとたいらげた。


「君、いくつ?何年生?」

平田はほまれの顔を覗き込むように質問してくる。


「17歳です。高校二年」


「そっか、若いな。俺もその頃に戻りてぇ〜」

人をあまり寄せ付けないほまれは平田を観察し始めた。


お笑い芸人?なにそれ?

なんだか道化師のようにも思える。

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