私はここにいる(書き換え)

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卒業してから20年が過ぎた。ある日ポストを見ると一枚のハガキ。
美術学校の同窓会のお知らせだった。
日にちと場所が書いてある。発起人は明美だった。

ほまれはハガキを持ったまま鏡を覗いた。
あれから20年はたっている。

老けたな…

家事、育児、仕事で真壁のことは忘れていた。

みんな40を過ぎてる。大丈夫だ。
ほまれは洋服を買いに行った。
当日、明美と真子と駅で待ち合わせをした。
明美はふっくらしていた。
ぶりっ子の真子は大人っぽく話すようになっていた。
二人とも結婚して子持ちだ。幸せそうに見えた。

「ここだよ」
明美が指を指した。
店の中に入ると
「あれ?デジャヴ?この店知ってるかも」
ほまれは言った。でも思い出せない。
まだ誰も来ていない予約席に三人は座った。
「何でほまれ、離婚したの?」
真子が聞く。
「いろいろあるのよ。話せば長くなるから聞かないで」
ほまれはおしぼりをぎゅっと握った。
「人間みんないろいろあるんだよ」
明美がフォローしてくれた。
ポツリポツリとクラスメイトだった男女入って来る。

「あぁ!正人?別人みたい!」
正人は薄くなった頭を撫でながら照れ臭そうにしていた。
一人一人に変わったね、変わらないねの挨拶。
真壁は来ていない。連絡がつかなかったのか都合が悪くて来れないのか。
明美に聞くことは出来なかった。
「ええーっと、だいたい揃ったね。食事注文するよ」明美が言った。
みんな口々に今、どうしてるか、昔の話に花が咲いていた。

「おお!真壁!」
正人が言った。
ほまれはぎょっとし正人の視線を振り返った。

紺色のスーツにネクタイ。少し老けた感じはあるものの紳士的でかっこよかった。
「真壁です」
とみんなにお辞儀をしほまれの向かいに座った。
男子たちが真壁はどうしてたんだよぉ〜と肩を叩きながらビールをついでいた。

真壁は周りを見回す。
そしてほまれに数秒目が止まった。
真壁はほまれに親指を向けGood Luckみたいな仕草を見せた。
ほまれは微笑み返した。

酒も入っていることだし銘々が昔に戻ったかのようにはしゃいでいる。
ほまれと真壁は口を聞かなかった。

「この中で結婚してる人!手を上げて!」
突然明美が言った。
ほまれと真壁以外は手を上げた。
真壁は目を丸くしてほまれを見た。
ほまれは親指を真壁に向けGood Luckをし、ちょっとウィンクをした。

明美が一枚の紙とボールペンを回して来た。そこには名前、携帯番号、アドレスとパソコンで作ったものだった。

みんな書き込んである。ほまれも真壁も書いた。
「みんな書けた?じゃ、コンビニで人数分コピーしてくるまで待ってて。

明美はすぐに戻って来て一枚一枚みんなに配る。
真壁はその紙をしばらく見ていた。

「縁のたけなわではありますがそろそろお開きにしたいと思います」

「あー楽しかったな。二次会行く奴いないか?」
正人が言う。

ほまれは帰ることにした。
誰と誰が二次会に行ったのかは知らない。

家に帰ると二十歳の娘がリビングでファッション誌をペラペラ巡っていた。
「おかえり」
娘は何も聞かなかった。
するとメール音が鳴った。
明美かな?
知らないアドレスだった。
そこには

真壁です。今日はありがとう。明日、ちょっと会えませんか?

ほまれはすぐに返信した。

誘う相手は真子ではないですか?真子と間違ってメール送ってませんか?ほまれ

またすぐに返信が来た。
真子ではなくほまれです。君だよ。

ほまれは次の言葉が見当たらなかった。どうしていいかわからなかった。
30分ほど考えた。

わかりました。何時にどこで?
メールを送った。

すぐ返信が来た。

良かった。午前11時に今日の店でどう?

わかりました。行きます。では。
ほまれはメールを終わらせたかった。

平田健一はとっくにテレビ画面から消えていた。
ほまれは平田をもう思い出すことさえない。

ただ、一番愛した男性は?と聞かれると平田の名前を出すだろう。

時間通りにほまれは店に入った。真壁が座って微笑んでいる。
「お待たせ」
「俺も今来たところだよ」
灰皿を見ると5本の吸殻があった。

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