塀の中へ 4,Installation 設置
暑さもだいぶん和らいだ9月24日、搬入作業となった。
先輩の金木さん、エンジニアの佐藤さんと和口さん、販売店の重樫さん、山勝さん、搬入業者の方達、電気工事の方々で正門前8時30分に集合。
点呼される。
気持ち的に、なんだか悪い事をして怒られているような感じ・・・
受刑者と見られる人たちが塀の外で作業している。
この光景は、以前近くに住んでいたのでよく見かけていた光景だった。
もちろん手錠や腰縄などは付けていない。
逃げ出したりしないのだろうか?
塀の中に入れるのが午前9時からなのでしばらく待機する。
待っていると、全面スモークが張られたバスが塀の中に入って行った。
受刑者の移送であろうか?
やがて時間になり、いよいよ塀の中へ。
携帯電話、タバコ、食品などはすべて事務所において行かなくてはならない。
再び重く分厚い扉の前に集まる。
厳重に確認の後、その扉が開かれた。
車組と徒歩組に別れたが、私は徒歩組となり歩いて門をくぐった。
門の中に入ってから建物を振り返った。
(受刑者はこの景色しか見られないんだろうな)などとと考えていた。
いきなり聞かれる。
まさかそんな質問をされるとは思わず、驚きながら答える。
なんか質問の内容に反して、淡々と受け流される。
なんでこんな質問されるのだろうと思う。
しかもあまり聞きなじみのない管理区域という言葉。
やはり、緊張感が走る。
ほら来た。
受刑者達の行進だ。
たまにテレビなどで見る光景である。
受刑者達は自由に刑務所内を歩き回れる訳ではない。
所内を移動するのは、すべて刑務官の号令のもとに行進となる。
もちろん、団体の時も一人の時もである。
実はこの日は、刑務作業がお休みに当たる日になり受刑者達は居室にいるらしい。どうやら、面会など用事がある受刑者だけ歩いているようだ。なので閑散としている。
場内は整然と立ち並ぶ大企業の工場と行った雰囲気である。ただ、全ての窓に柵がもうけられている。
柵と行っても、頑丈な鉄格子と行った感じではなく、丸を基本にデザインされたような柵である。
一緒に入った佐藤さんが
と聞いて来た。
人間の首ぐらいの高さしかない太く鉄骨だけの物。
私だって初めてなので、わかるはずもない。
中庭のようなスペースがあり玉砂利が引いてある。
京都龍安寺の石庭のように模様が描かれている。
毎日、受刑者が描くのであろうか?
長い石と短い石を組み合わせて「人」と置かれているものもある。精神修行の場ように感じてしまう。
われわれが目指す設置場所は、印刷工場。
たいていどこの刑務所にも印刷所があるらしく、最初は刑務所内の印刷物を刷っていたらしいが、今は官公庁や一般企業から受注されている。
印刷工場の技官は、根木さんと川口さん。
根木技官はパッと見怖そうな感じだが、話をしてみると指導者とか学校の先生といった感じ。
川口さんは、腰が低く若手の先生といった感じがする。
たったお二人で印刷工場のお仕事を管理されている。時には営業活動にも行かれるとの事。
仕事を教えるという立場なので、受刑者からは「先生」と呼ばれている。ただ、これは面と向かった呼び方で、裏では「おやじ」と呼ばれているらしい。
いつもは厳しく指導し、時には親身になって受刑者の世話をする。「おやじ」と言う言葉が妙にしっくり来る。
印刷工場の中は、非常に整理されており清潔感が漂っている。
大型の断裁機や2色の印刷機など、中堅の印刷会社のような設備は整っている。
今回、我々の機械を導入して頂いたのもデジタル印刷への取り組みを始めたいとの事で、一般的な印刷会社の取り組みと変わらない。
設置作業中に、5人グループで見学しているような人たちが来た。あまりにも目つきが悪いので、新しく入った受刑者が施設見学しているのかと思ったのだか違っていた。
実は、申請をすれば塀の中を参観する事が出来るらしい。
もちろん、中の受刑者との関わりがないか調べられるそうだが・・・
このグループも参観だったようだ。
とのこと。
この心配りには、頭が下がる。
設置作業自体は問題がなかったが、先輩の発注ミスのため品物を取りに帰らなくてはならなくなった。刑務所への発注という事で、あれだけ気をつけて確認したのになぜかミスっていた・・・
実は、近くに住んでいた頃から気になっていたトルコライスのお店が近くにあるのだか、一回も行った事がなかった。
先輩の金木さんと一緒に行こうと言っていたのだが、行けなくなってしまった。
まぁいいや。来週いっぱい通うのだから。
いつでもいけるやと思った。
その後、無事設置も終わり気持ち悪い位スムーズに作業は終了した。
と、お互いに挨拶したあと会社に戻って来た。
ただ、言葉にはできない、何ともわからない疲れが残った。。。
本当に、一週間気力が持つのであろうか?
そんな事を考えながら、会社を後にした・・・
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