塀の中へ 6, image イメージ
9月28日
この日のオペレーションは午後からの予定だったのだか、機械の調整があり午前9時から入る事になった。
私とエンジニアの佐藤さん、和口さんと3人。
初めて、朝から作業中の工場に入る。
昨日の作業風景と何ら変わらない。
何十年とこの風景が繰り返して来たのだろう。
皆、黙々と淡々と作業を繰り返している。
ヒルマンさんは昨日と同様、忙しそうに動き回っている。すっかりこの工場のエースだ。
彼がいなくなったら、たちまち作業が滞るらしい。
機械の調整は、エンジニア2人に任せて、私は技官と話をさせて頂く。
この刑務作業というもの、地域の企業や官公庁と契約をした物を製作し、納品して成り立っている。
刑務所内には59もの工場があり契約業者数は87業者にものぼる。
管理棟の事務所には、売上目標の張り紙も貼っている。売上の使用目的は、ほとんど国庫に納められるらしい。
一部は犯罪被害者支援団体に助成されているとのこと。
当然、世間の景気によって受注できる数が決まってくる。人件費がかからないように思えるが、場合によっては、中国やベトナムの方が安い場合もあるらしい。
よって、刑務作業自体が全体的に減っているようだ。
それにしても、そこまで人件費を削って海外で物を作らす日本人って、一体なんなのだろう?
自分たちで、自分たちの仕事を奪っているのがわからないのだろうか?
受刑者側から刑務作業を見てみる。
様々な作業があるのだか、受刑者達が作業を選べる訳ではないらしい。
入所時に適正検査を受けて、刑務官が決めているとの事。
理想は、ここで習得した技術を世間で、娑婆で使える事何だろうと思う。
ところが、世の中そんなに甘くない。
彼らの動きを見ていると、隣のエリアへ向かうときに必ず刑務官の許可をとっている。で、誰かに話しかけるとき、帽子をとって話しかけている。
やはり、色々とルールが存在する。
そういえば、私に対して気さくに話しかけられることもなかった。
むやみに話しかけることを禁止されているということか・・・
そうこうしているうちに、お昼の時間となった。
物々しく号令と点呼が始まり、皆一斉に工場内にある休憩室に入って行った。食事の為である。
と、一番奥をみるとテレビがついている・・・
時代・・・
私が考えていた刑務所イメージは、名前は取り上げられて番号で呼ばれ、シマシマの服を来て、薄汚い所で、まずくて臭い飯を食べて、情報も遮断され、自由も剥奪され、時にはひどい仕打ちを受けて・・・
幼稚だがそんなイメージだった。
全くではないが、イメージが異なった。
まず、シマシマの服は来ていない。
モスグリーンとグレーの非常に清潔な作業服を着ている。シマシマの服は海外ではないかとの事。
番号はあるが、中ではみんな名前で呼び合っている。外国人のヒルマンさんがあだ名で皆をあだ名で呼んでいたのは、なんだかおかしかった。
じっくりとご飯を見た訳でも、食べた訳でもないが美味しそうなにおいは漂っていた。
世間の情報は前述の通りどんどん入ってくる。
この事がいいのか、悪いのかは誰もわからない。
自由は剥奪されている。でも裏返すと管理されていて見守られている気がしないでもない。
時には懲罰もあるらしいが、私はもちろん目の当たりにはしていない。
食事が終わると、受刑者達は工場内で何やら柔軟体操を始めた。今度の金曜日に運動会があるらしい。
この印刷工場はなんと2連覇しているらしく、今年も優勝を狙いに行くとの事。
練習が始まったようなのだが、我々は邪魔をしない様に昼食の為に塀の外に出て来た。
本当は、受刑者と一緒に食べてみたかったのだか・・
それは、許されるはずもない。
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