一番古い記憶〜祖母が亡くなる何日か前のこと

 皆さんの一番古い記憶はいつ頃のものだろうか?私の知人には「胎内記憶」について著作のある産婦人科医がいて、母親のお腹の中にいるときのことを生まれてから話す子どもの話を聞く。幸か不幸か私にはその頃の記憶はないが、ちょうど3歳の頃のある日のことをよく覚えている。

 正確な期日は覚えていないが、3月生まれの私がちょうど3回目の誕生日を迎えようとする前後のことである。私は母と祖母に連れられて横浜高島屋に来ていた。デパートに来たのだから何かを買いに来たのだろうが、その目的はわからない。すでに買い物を終えたのか、これからというところだったのかも覚えていない。しかし、これだけは覚えている。高島屋の店内で祖母の気分が悪くなり、救護室のようなところで吐いていたこと、そのまま母と一緒に救急車に乗り、母の実家の向かいにある病院に向かったこと、である。

 多くの方は想像がつくと思うが、病院に担ぎ込まれたものの祖母は程なく息を引き取ったのであった。葬儀の様子などは全く記憶にない。祖母が亡くなったという事実も、その後、あのときなのだと母からの話で理解したくらいだ。でも、高島屋での祖母の様子と救急車に乗ったことはモノクロだがはっきりとした記憶がある。医学部に入ってくも膜下出血について講義を受けたときに、その時の記憶が蘇った。祖母の症状は典型的なくも膜下出血の発作であったのだ。これが、私の一番古い記憶である。

 衝撃的な出来事はやはり強く記憶に残るのだなと、あらためて感じる。2年前に母が祖母と同じ病院で亡くなり、その3か月後、父も亡くなった。当時、新築で私が両親と一番長く過ごした家も昨年、取り壊され、今は相続した妹が新しく家を建てて住んでいる。

 物質はなくなり、記憶だけが残っていくのである。

 

 

著者の田辺 由紀夫さんにメッセージを送る

メッセージを送る

著者の方だけが読めます

みんなの読んで良かった!

STORYS.JPは、人生のヒントが得られる ライフストーリー共有プラットホームです。