「夢」か「安定」か?〜超就職氷河期に2度内定を捨てた話し〜

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方や就活への情熱はあるものの、まだ何も始めていない自分。

「よっちゃんヤベエ、強者や!」そう心の中で思いながら、早くも先輩のよっちゃんに色んな話を聞いていた。

いつもは遅いと感じる授業のチャイムがこの日ばかりは早く感じるくらい、僕はよっちゃんの話を聞き入っていた。

「いっしーそんなに就活に興味あるなら就職支援センターに行ってみたら?」

「なに!そんなとこあるの??」

同じ大学に2年間も通ってたくせに「就職支援センター」という建物があることは知らなかった。

しかもそれは自分の学部の横にあるということではないか!

「あ〜、あの一階にレストランついてるとこ?」

方や就活のために2階の就活支援センターに通う友達と、その一階のレストランでのんきにランチを食べてる自分。

「相変わらずバカやな〜」と自分で思いながら、その日の帰りに僕は初めて就活支援センターに向かった。

いつも入るレストランは素通りして2階に上がると、そこには溢れんばかりの企業情報の資料とリクルート姿の3・4回生の姿があった。

「、、、なんやここ??」

そう感じるほど同じ校舎の中にあるにも関わらず、そこは異次元の世界だと思った。

チューターと話をするために順番待ちをしている学生、むさぼるように資料を読んでいる学生、OB訪問のために電話帳を開く就活生の姿など、、、

何やらただらぬ気配と必死さが伝わってくる環境だった。

「これが就活か、、、」

初めて見る光景に僕は足を止めた。

今年の10月、今度は自分がこの立場になるんだと覚悟を決めながら・・・


「初めてのインターンシップ説明会」


就活支援センターに来たものの何をすれば良いかわからず、僕は室内をさまよっていた。

というより初めて見るその光景に「自分は場違いかな?」なんて感じ始めていたが、場違いどころか今年は自分の番だ。

「来たからには何か掴んで帰ろう!」

そう思いとりあえずよっちゃんが話していたインターンシップについて調べることにした。

インターンシップとは企業が学生対象に行う「模擬就職」みたいなもので、自分の行きたい会社でどんな風に働いているか体験できるというもの。

ただ企業によっては説明会だけのところもあれば、一生雑用ばかりなとこもあるので当たり外れがある。

もちろんそこが自分にとって行きたい会社なら説明会でも雑用でも学べるものはあるだろうし、何よりそこで働く人たちに直接話を聞けるのは魅力的だった。

「どうすればインターンシップに参加できるのか?」

窓口で聞いてやろうと思ったが、リクルート姿ばっかりの中で私服の自分が乗り込むのには少し勇気が足りない。

悩みながら歩いていると、たまたま「インターンシップ」とデカデカと書いた広告を見つけた。

読んで見ると京都市が運営している就活支援センターでインターンシップの説明会があるという。

「ん!これだと参加できるんじゃないか?」

大阪在住で大阪の学校に通いながら何故京都まで行ったのかは謎だけど、これが僕の初めての就職活動になった。

あくる日、初めてのインターンシップ説明会に僕はワクワクしながらJRで京都に向かった。

「何をするのだろう??」そんなことを考えながら窓に写る自分を見てあることに気がついた。

「、、、俺、リクルートスーツちゃうやん!」

いつもの感覚で私服で家を出てしまったものの、今更戻ることはできない。

というより、、、

リクルートスーツなんてまだ持ってない!

目的地に向かう途中の青山でスーツを調達してやろうと思ったが、残念ながら貧乏学生にそんな財力はない。

それに私服で出かけた息子が帰ってくるなりリクルートスーツ姿に変貌してたら、僕の母親も違った意味で変貌するだろう。

「まあ、、、私服可って書いてるし今日はしゃーないか」

手元の資料には「私服で構わないのでリラックスして下さいね!」と書いていたので、今日ばかりは許して下さいと就活の神様?に祈った。

夕方6時ごろに京都につき、僕は急ぎ足で目的地に向かった。

開始は7時からなので時間的には余裕があったが、早めに会場に入って他の学生の様子も見たかったのである。

「全員リクルート姿だと俺だけ罰ゲームやな。」なんて思っていたが、会場についてみるとほとんどの学生が私服だった。

ほっと一息をついて席に座ると、テーブルの上には就活の資料が置かれていた。

パラパラとめくってみるとそこには「エントリーシートの書き方」、「企業研究の仕方」、「面接の極意!」みたいな感じで就活の大事なキーワードが飛び込んできた。

「とうとう俺も本格的な就活が始まるのか、、、」臨戦体制で19時からの説明会を待っていた。

意外と早くから就活を意識している学生は多くて、15分前には大教室の前方は埋まっていた。

「なんか色んな学生がいるな〜」と思っていると、講師らしき人が教授に入ってきて教室は静まり返った。

「今年の学生は就活への意識が高くて驚きますね!」そう話す講師は、京都の大学で就活支援センターで働く人だった。

2時間くらいの説明会はみな集中モードで、自分でも驚くくらい僕も集中していた。

おそらくこの集中モードで大学の授業を受けていれば、最後の年までフル単位で授業を取ることなく優雅に休みを満喫できただろうに、、、

今回はインターンシップの説明会ということで企業の方はお見えになっていなかったが、それでも講師の人が話してくれる内容にはすごく興味を持った。

「これから何をしていくのか?」「どんなスケジュールで動いていくのか?」という説明があったり、後半になると「ワーク」なるものもあった。

「それでは今からワークを行うので、みなさん隣の人とペアを組んで下さい!」

「なに、、、ワーク!?」と心の中で思いながらも、僕は隣に座っていた学生とペアを組んだ。

「ペアは組めましたかね?それでは今ペアになった人の第一印象で良かったところを伝えてあげて下さい。」

なるほど、どうやらこのワークは企業面接で第一印象がどう写るのかを事前にしるためのワークらしい。

僕がペアになった学生は「背が低くて少し大人しめの女の子」という印象だった。

それでは味気ないと思い、少し自己紹介もして話していたので「落ち着きがあって聞き上手ですね。」と伝えると照れくさそうに喜んでいた。

「これは違った意味でのポイントアップになるのでは?」などと思って浮かれていたが、次にその女の子が僕の第一印象を伝えてくれた時が衝撃だった。

おそらく本当に人見知りで話すことが苦手なのであろう、、、なかなか言葉が出ずに悩んでいる様子だったが、何とかして一言だけ伝えてくれた。

「、、、素敵なベルトですね。」

「そこかーーー!!!」予想外の言葉にどう反応して良いかわからずも、とりあえず「ありがとうございます!」と僕は言った。

しかし、第一印象が「素敵なベルト」になるとこれはマズイ!何故ならベルトは「サブ」でメインは「自分」だからだ。

それに今日は私服でリクルートスーツの時はこのベルトを装着できない。

ベルトのほうが存在感が強かったのか、それとも俺の存在感が薄かったのか、そこは追求したくないところだが、仮にベルトの存在感が強かったとしてもそれは問題だ。

人の存在感よりも強いベルトを身につけて就活をしようものなら、企業の人たちからすれば「就活生が来たぞ!」ではなく「ベルトが来たぞ!」みたいなことになる。

こうなってくると面接会場でも「え〜次の方は、、、ベ、ベルトですか?」などと言われてしまう。

しばし衝撃のあまり関西人特有のネタの思考が入ってしまったが、まあこんな日とあるだろうと僕は教室を出た。

まったく就活のことを知らずにきた僕だったが、この日を境に本格的に就活を始めることになったのである。

マスメディアでは毎日のように「超就職氷河期」と言われていて、波瀾万丈になるとは予想していたが、まさか人の2倍も波瀾万丈になるなんてその時の僕はまったく思ってはいなかった。
(つづく)

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