とあるブラック会社に入社して三か月が経ち、絶望的状況ながらも仕事に慣れて来た頃です。
自分の会社は協力会社と言う名目で、版権を貸して貰い、製作に仕事に携わる事が多かったです。
【お客さんから版権を借りる】
↕
【ゲームを作る(自分の会社)】
↕
【市場に流してくれる会社に委託する(バグ修正や市場提供)】
このような板挟みの構造になっている状況でした。
徹夜明けでタバコを吸っていると、
20人にも満たない会社の営業の坪さん♂が声を掛けてくれました。
坪さん(営業)「おつー中条君頑張っているね、最近仕事はどうだい?」
僕「大分、プログラムも解ってきました!(やっとJAVAがお茶ではないと理解した頃)」
坪さん(営業)「良かったー、今日お昼一緒に行こうよ!頑張ってるし奢ってあげるよ!」
僕「(うおー久々にカップラーメン以外の飯だ)あ、、、あざまっす!!!」
ロイヤルホストで、高いご飯(1500円)も奢ってもらい喜んでいました。
坪さん(営業)「中条君、実は相談なんだけど…・」
僕「ど、どうかしたんですか?」
坪さん(営業)「実はね、うちで作っているゲームが頓挫しそうでさ…協力会社に出向してくれないかな…」
僕「(高いご飯食べちゃったどうしよう…)は、はい僕で良ければ頑張ります。」
坪さん(営業)「本当かい?!すぐに手続きして、明日には頼むよ、期間も一年も無いと思うから!」
僕「はい!会社の為に頑張ります!」
当時、アホな僕は実力が認められ、出向=花形だと思っていました。
(実際は派遣て営業利益を取るためだけの駒ですよね^^;)
こうして、なぜか親会社ではなく下請けの会社に行く事になり、
出向日は1月1日、元旦からめでたくない、僕の新しい仕事が始まったのでした。
出向先で見知らぬ会社の方と即席チームを組んで、1年間の製作に携わる事に。
タイトルは言えませんがプレイステーションのソフト等で有名な会社です。
こちらが出向先の現場構成と言うか、呼びあっていたあだ名です
◆リーダー:班長(♂32)
理由:見た目は、イケメンなのに反して中身がカイジの班長。
◆グラフィック:ケロロ軍曹さん(♂28)
理由:蛙顔のいい人
◆シナリオ:どーも君(♂27)
理由:体毛が濃い
◆広報担当:セイラさん(♀21)
理由:某コスプレイヤーとだけ
◆プログラマー:僕=もやし(♂22)
理由:常に金欠、主食がもやしでガリガリ、176/52キロ
こんな感じのチームにいきなり1月初頭ほっぽり出され、
なぜか出向先の社員扱いで入っていました。
どうみても、偽装請負派遣(泣)
私の場合、6次請けまで流れていて、何社中間に入っているかわかんなかったです。
すぐにオリエンテーションが始まり説明が始まりました。
数年前となりますが、印象に残っているほろ苦い?思い出を書きたいと思います。。
班長編(いきなり徹夜の初日)
班長「うえーい乙です~、まとりあえず一年遅れのプロジェクトにいらっしゃい!さくっとこのチームで挽回しちゃおうね~」
僕「え、班長一年遅れって理由はなんですか?」
班長「はい、いい質問です!余計な事聞いた馬鹿はこいつですか…今後発言するなよ小僧?」
僕「あ、え、え、え、す、すいません」
(え?と、感じる違和感)
一日目にして、僕の参加しているプロジェクトに遅れが判明、
今まで何をやってきたんだ状態のままデスマーチに放り込まれ、驚きを隠せないまま現場の仕事が始まりました。
ちなみに班長、ゲーム会社に派遣で来たらしいのですが、
今までゲームは触ったことがないそうです。デバッグをしながら突然僕に大声で叫び始めました。
班長「こっち来い!てめえ!急にジャンプしてんじゃねえか!」
怒られたので、直ぐに確認すると、

ぴょーん、きれいにキャラクター着地
どうみても説明書通りの動き。。。
初日でなるべく、リーダーと会話しない事に決めました。
どーも君編(徹夜のまま2日目)
どーも君と僕がコンビで仕事をするようリーダーに指示されました。
どーも君がシナリオを書いて、僕がプログラムで動かします。
ゲームの開発を始めましたが、とあるシーンで違和感。
ヒロインが泣いて主人公追いかけるシーンで、吹き出しパーツが「あはっはははー」…
綺麗な桜の木の下で、危ない奴になるヒロイン

もやし「どーも君さん!ここのシナリオの雰囲気おかしくないっすかね?」
どーもくん「グーグー」
もやし「ちょっと、菓子パンを食ったまま寝てたら死にますって(ユサユサ)」
どーもくん「んご・・・・もつかれっす・・・」
さすがに徹夜2日目の夜は限界ですね、そのまま毛布を掛けて僕は帰宅しました。
しかし翌日出社してみると不思議とシナリオが仕上がってしました。
いつ仕事したんだろう。ありがとうドーモ君…
どーも君編(徹夜のまま3日目)
帰宅する退路は断たれ、もはや時間がないので、会社のタコ部屋=仮眠室から出社、
朝からカップラーメンすすりながら仕事をするのにも慣れてきました。
いつも汚いごちゃごちゃしたゲーム開発の現場で、一つだけ綺麗に片づけられた机がありました。
社内の人が色々話していたので聞いてたところ
ド ー モ 君 が 行 方 不 明
そしてドーモ君の引き出しを開けると皆に衝撃が走りました。

「田舎へ帰ります。お疲れ様ッス byどーもっス」(爽やかな字体で)
徹夜3日で限界だったようです。リーダーは鬼の形相になってました、
1年遅れが、すでに3日目にして取り戻せなそうです。
班長「あ、もやし乙ついでで、シナリオ係りお前にするわ!」
もやし「あの、シナリオの経験がないので出来ま…」
班長「あ?なんつった?出来ねえじゃねえんだよ!やるんだよ!クビになりてえのか?!(怒」
(机の上の僕のフィギィアを投げる)
もやし「いえ、でも出来ないものは出来ま。。。」
どんがらがっしゃーんぎゃほーーーーーーー
(アスカとレイ、フィギィア大破、もやし緊急事態で涙)
班長「おい、糞蛙、今からこいつにシナリオの描き方を伝授せよ!ニンニン」
こうして3日目、
もやし担当は
メインシナリオライター兼メインプログラマー
となりました。
無理やこれ…軍曹もグラフィッカーなのに…
どーも君失踪(プロジェクト3日/365日)
セイラさん編(徹夜のまま210日経過)
開発が全然終わらぬまま、最悪のタイミングでゲームショウ開催
1人2役なんで全然仕事が進まない。
猛暑の中、某有名マスコットの中で8時間パンフレットを配りました。
これもゲーム業界ならではの体験、
しかし憧れていたゲーム業界が実際こんな辛いとは思ってもみませんでした。
ユーザーさんからはゲームに関する質問や、グッズを買ってくれる人を見て僕は、
なんとかこのゲームを完成させよう、そんな気持ちになったのでした。
(ちなみに開発は数年遅れで、ユーザーはすでにキレながら質問してくる)
コスプレしたセイラさんとグッズや、声掛けを頑張ってました。
バッグヤードでふと、セイラさんが水をくれるついでに話しかけてきました。
セイラさん「モヤシ君、この会社に関わらない方がいいかもよ…」
もやし「急にどしたんですか?」
セイラさん「内緒だけどうちの会社、版権元と、派遣会社がグルで上の人が悪い人って書き込みあったの…(小声で有名なヤクザの組を教えられた)」
もやし「そっかそっかー」
…5分ほど沈黙
…えっ!!!
(暑さとか関係無しに、一気に噴き出る汗)頭が真っ白に
セイラさん「あと…今週で仕事辞めるからwおっ先~w」

最後の言葉は全然頭に入ってこない
セイラさん「内緒だけど子供出来たかも、旦那はリーダーね?言ってる意味解るね?ね?」
もやし「あ…はい…」
現場でこいつらは何をしていたんだと思ったりしつつ、
とりあえず口止めされた事は察したもやし少年。
今はそんなこと、気にしている猶予はないんだ…
夏の蝉の鳴き声がまだ聞こえる最中、
僕は自分の仕事を終わらせて、早く本社に戻ろう…そう決めたのでした。
セイラさん退職(プロジェクト210日/365日)
班長もどさくさに紛れて退職(プロジェクト210日/365日)
ケロロ軍曹編(徹夜のまま365日経過)
気づくとプロジェクトは、軍曹と自分の2名だけ…
軍曹と僕は会社の屋上(12F)で一緒にタバコを吸ってました。
ケロロ軍曹「なあ、もやしはさ、派遣だから給料いいんだろ?」
もやし「いや…生活費引いたら無いに等しいです」
ケロロ軍曹「それじゃあなんでー、こんな辛い仕事してんだー?」
もやし>
昔からの夢でした。
ゲームのエンディングに自分の名前が載る事
でも実際載るって決まっても、今は嬉しくないんです
(夢が叶う瞬間ってもっとなんかあると思ったんですけどネ…)
自分なんかおかしいですよね?
ケロロ軍曹「俺もさ、いっそ屋上から飛び降りた方が今の仕事より楽だとたまに思うんだ。」
さらっと危ない事を言う軍曹。
もやし「自分もそれはたまに思ってます…
それに、こんな辛い夢なら叶えなくて良かったんじゃないかって」
軍曹>
でもな、人生にコンテニューはない
やり直せない、だから一度しかない人生で
夢を叶えたお前は立派だよ
もやし「ありが…とう…ござ…(もやしへたれこむ)」
深夜24時、僕はタバコと軽食を取りながら考えました。
…もう夢は叶った
じゃあ僕、なんでこの仕事をしてるんだろう…
少し時間が止まって、思考が出来なくなり、屋上の手すりを超えました。
しかし手すりを掴んだ手を、ずっとすっと放すことは出来ず…
泣いて職場に戻りました。
戻ると軍曹も何故か泣いてました。
こんなのは人がやる仕事じゃない、俺達の扱いはあんまりだよ…
軍曹と2人きり、ずっと1年間、月400時間労働し寝泊りを一緒にしてやっと完成させたこのソフト。
ひょっとして働く事が生きる事より辛いんじゃないか。
そんなことを少し感じた夜でした。
唯一の生存者、軍曹(プロジェクト365日/365日)
もやし編(意識朦朧として455日経過)
プロジェクトも終わり、ソフトのサポート作業を細々続けている作業が続きますが、
軍曹もある日、ひっそりと居なくなり(現場が変わったらしいと風の噂で)
体力、精神共に一人では限界なので、本社の営業の方に電話しました。
もやし「営業の坪さんお願いします!」
受付「中条さん?今写真名簿を確認しますね。」
もやし「あ、はいお願いします。」
(小さい会社だったのに、自分の名前すら憶えて貰えてないなんて…)
受付「中条さん?坪は随分前に退職してるのでお繋ぎできません、それでは。ガチャ」
もやし「え、ちょっと待って!(ツーツー)」
会社の為に頑張ろうと思っていた糸が、完全にプッツンしました。
再度電話して、社長に電話をお願いします。
しゃっちょ「ん?中条?あ、ああ久しぶりだな」
もやし「月の残業が200時間を超えて、1年程休日もほぼありません。
もう限界です…現場を変えてください。助けてください社長」
しゃっちょ「大変そうだなぁ、ちょっくら契約確認するわ」
(1分後)
しゃっちょ「中条か?今お前の契約だと後三年は出向だ。若いんだし頑張れよ。あと今のネガティブ発言は減給対象だから、次回から給料の3割を減らすからな。ガチャリ」
もやし「しゃ、しゃちょ(プープー)」
その日の定時が過ぎて深夜過ぎ、僕は机を綺麗にし、
誰も居ない派遣先の会社を出ました。
季節は冬、田舎に帰る為、一人始発を待つホームで
僕はTシャツとGパンで飲み物を買って待って雪を眺めながら…
自分の夢、ゲームを作ってエンディングに載せる事は叶った。
でも夢のかわりに僕は何を得たのか。
夢とはなんなんだろうか、今でもふと考えるのです。
僕はこの先も夢を叶え続ける情熱があるのか。
こうして僕は、この業界を去っていきました。
あとがき
自分は働き続けられる程、強くありませんでしたが、
きっと今もこの業界はそのような人が集まってコンテンツや、ゲームが出来ていると思います。
ただ、労働にも最低限のルールがあってしかるべきです。
若者の夢を簡単に、お金にしようと考える経営者は世の中多いと思います。
僕の月の平均労働時間は300-400時間,給料は税金、交通費を引いて6万程度です。
時給で言うと200円。
自分の労働はお金の価値は全然無いと言うことなんでしょうか。
プロジェクトが終わり、一番に報告したかった軍曹は、実は行方不明となっていて、
最後に見つかったのは静岡の湖の近くの車の中でした。
お葬式でご家族の方、残された奥さんや子供を見て、なんの為に僕は仕事を頑張っていたのか解らなくなりました。
人が1人死んでいるのに、会社の人、プロジェクトにまだ参加している人は参列せず。
心が痛みました、同時に夢を叶える為に犠牲にしていいことなんて一つも無いことに僕は初めて気が付きました。
家族、時間、恋人、友人、生活、すべて大事でそれを投げ打ってまで叶えて何を掴むのか。
自分の自尊心と、傲慢なプライド、満たされたのは、自分の中でのルールに過ぎず。
とあるブラック業界のゲーム会社で夢の代わりに僕が失ったもの。
本当にそれは沢山ありすぎて。
そういえば、エンディングに一つ細工があって誰が書いたか解らないのですが、
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END OF FILE
疲れた心が癒えたら、きっと笑い話、ただ2度とここには戻ってくるなよ!
END OF STORY
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僕「この物語は、ほぼ実話ですが多少人物と発言、名前は、解らないようにしてます。当時居た方が見たらバレそうですが、そこはご愛嬌で。それでは御読了ありがとうございました。」

