17年前にタイムトリップ。社員7名だった楽天の三木谷会長は当時、何を語っていたのか。(その1)

次話: 17年前に語られていた楽天の成長プランと競争戦略。三木谷会長インタビュー。(その2)






1990年代終わり頃に書いたベンチャー経営者へのインタビュー記事、ガンホーの孫泰蔵会長に続いて、もうお一人ご紹介します。楽天の三木谷会長です。


三木谷会長へのインタビューは、1997年7月と1998年3月の2回にわたって行われました。今から17〜18年前のことです。三木谷さんが楽天の前身である(株)エム・ディー・エムを設立したのが1997年2月ですから、その数ヵ月後のことになります。当時の社員は7名、出店数はまだ100店に満たない状況でした。
17年前にタイムトリップして感じるのは、「あ〜、この人は成功すべくして成功したんだな」ということです。その論理的な語り口は自信に満ちており、「これはオフレコですが」と前置きしながら、出店が数千店になることを想定したビジョンも語ってくれました。
17年間の急成長で「楽天経済圏」を築き上げた今、振り返るとその中核となる事業戦略はすでに当時から準備されていたことがわかります。これから起業される方にも参考になるのではないでしょうか。
では三木谷会長へのインタビュー記事を、2回に分けてご紹介します。これが17年前の発言であることに、ぜひ留意してお読みください。


三木谷浩史(Hiroshi Mikitani)

1965年3月、兵庫県生まれ。一橋大学商学部卒業後、日本興業銀行入行。1993年、米国ハーバード大学でMBA取得後、本店企業金融開発部でメディア関連のM&Aを担当。1995年11月、興銀を退職し、株式会社クリムゾングループを設立。ソフトバンクによるコムデックスやジフデービスエクスポの買収、衛星多チャンネル放送ディレクTVプロジェクトなど、大型案件のファイナンシャルアドバイザーを務める。1997年2月、株式会社エム・ディー・エムを設立、代表取締役社長に就任。シリコンバレーなどのハイテク企業とも強いネットワークを持ち、グローバルな事業展開を目指している。


具体的で論理的で戦略的なビジョンとゴールを示し続けること。
それがベンチャー経営者の最低限の役割です。

■ベンチャー企業成功の3条件をクリアーした「楽天市場」

生まれてきたからには、一度は勝負しよう。自分にとっていちばんのリスクは、悶々とした日々を過ごして全力をつくさないことだ。そう考えて、今年(1997年)2月に自ら起業に踏みきりました。


それまでの私は、職業人としてかなり恵まれていたと思います。興銀のM&A担当として、ソフトバンクなど有力ベンチャーによる企業買収をいくつも手がけましたし、銀行を退職して設立したクリムゾングループでも、ディレクTVの増田社長(現CCC代表)のパートナートとしてファイナンスを全面的に任せていただいた。しかし、自分でイニシアティブをとってビジネスをしなくてはいけないという思いが常にありました。アドバイザーという立場では、全力をつくした気がしなかったからです。


自ら起業するにあたり、その戦略を1年以上考えました。まず資本があまりかからないこと。レバレッジ効果がきく成長市場であること。そして高いシェア獲得を基本戦略とする「戦争型」ビジネスではなく、局地戦で勝ちつづけることで成長できる「戦闘型」ビジネスであること。


以上の3つの条件に合う事業は、やはりインターネットでした。日本のインターネット市場は急成長しているにもかかわらず、プレーヤーが少ない。日本の局地戦でならば勝てるだろうと考えたわけです。こうして「楽天市場」の事業化計画がスタートしました。

●三木谷さんの先見の明(1)
大企業と闘うために徹底したニッチ戦略をとり、独自のビジネスプランと収益モデルを生み出したこと。


■ページ更新の自動化により、画期的なモールを構築

当時、日本のインターネットコマースは、大企業が実験的に取り組んでいるものばかりでした。私からすればポテンシャルが高いにもかかわらず、真剣さが足りないと思った。新しいシステム技術もなければ、消費者重視の姿勢もない。ここにベンチャーらしい新たな仮説を打ち立てることができれば、私たちにも大いにチャンスがあると考えました。


インターネットコマースは、出店者と消費者が直接コミュニケーションできることが最大の特徴です。しかし当時は必ず仲介者がいて、モールを「編集」しようとしていました。その結果、仲介者本意の重い画像が多用されていたり、インターネットによる買い物行動を理解しないブランド志向の商品構成に陥っていた。「楽天市場」は、そこに「自動化」という新しいコンセプトを導入したのです。


「楽天市場」では、出店者が商品情報の更新を自分で自由に行っています。私たちはノータッチです。そのシステムは半年かけて自社開発したものです。多少リスキーだったかもしれませんが、その結果つねに新しい商品情報が提供され、買い物をしやすいアクティブなモールが実現しました。

●三木谷さんの先見の明(2)
出店者が自分で商品情報を更新できる「自動化」というコア技術を、自社で開発したこと。

出店者にとっては、初期投資があまり必要なく、月々のランニングコストも極めて安価であるというメリットがあります。また「Word」や「一太郎」が使え、ダイヤルアップの回線接続環境があればいい。とても簡単なわけです。さらに消費者のヒット数やマーケティングデータの詳細もフィードバックされます。


消費者にとっても、商品情報が豊富で、画面のダウンロードも早く、操作が簡単ですから、買い物にほとんどストレスがかかりません。


今年の5月にサービスを開始しましたが、出店数の伸びやユーザーレスポンス数など事業推移は極めて順調で、自分たちのコンセプトは正しかったと確信しました。


私は「楽天市場」を「インターネットモール」とは捉えていません。インターネットコマースサーバーを、バーチャル空間でレンタルしてもらっている、ネットワークコンピューティングサービスであると考えてきました。その仮説は、今のところ当たっていたなと思っています。

●三木谷さんの先見の明(3)
自らのビジネスを「販売サービス事業」ではなく「プラットフォーム提供事業」と定義づけたこと。


■明確なビジョンとゴールがあれば、人は集まってくる

私は「迷ったらやる」ことを信条としています。そして「失敗を恐れず、失敗から学ぶ」ことを心がけてきました。自分たちはベンチャーである。従って大企業とは別の市場予測や仮説を立て、そこで勝負していくしかない。


もちろん仮説が間違っていたら、それはしかたありません。しかし、みんなが逡巡している時こそ大胆かつ論理的な仮説を立て、局地戦で勝てる事業戦略を構築していくことが、ベンチャー企業の成長にとっては必要なのではないでしょうか。


私の会社には現在7名の社員がいます。意識したことはないのですが、いわゆる一流大学出身者ばかりで「小さな会社なのに、なぜ優秀な人が集まるのですか」とよく聞かれます(笑)。


たぶん、こういう組織ではファジーな経営は通用しません。それだと仲良しグループになってしまう。具体的で論理的で戦略的なビジョンとゴールを示し続けることが不可欠で、それがあれば人は自然に集まってきてくれるものだと思っています。

三木谷さんは、ある時点までに100店舗を達成するという目標をかかげ、自ら出店者を集めるドブ板営業をしていました。そして、その目標が未達成に終わったとき、涙を流しながら、自分と社員に怒りをぶつけたそうです。当たり前のことかもしれませんが、スタートアップ時にはそうした激しい情熱が不可欠なんだなと思います。
次回は、より具体的な事業戦略論をご紹介したいと思います。


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17年前に語られていた楽天の成長プランと競争戦略。三木谷会長インタビュー。(その2)

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