17年前に語られていた楽天の成長プランと競争戦略。三木谷会長インタビュー。(その2)

前編: 17年前にタイムトリップ。社員7名だった楽天の三木谷会長は当時、何を語っていたのか。(その1)

楽天・三木谷会長のインタビュー記事、その1に続いて2回目をご紹介します。

2回目のインタビューは、1回目から7ヵ月後の19983月に行われました。その間、「楽天市場」の出店者数は急速に増えていきました。当時は「インターネットで買い物するわけがないよ」という否定的な見解を語る人も多かったのですが、その間隙をついて事業を順調に伸ばしていったのです。

 

しかし三木谷さんは、まったく満足していなかった。当時の到達点を冷静に見極めたうえで、2回目のインタビューではさらに大きなビジョンを語ってくれました。

 

このインタビューで、旅行・証券など、その後の「楽天経済圏」の中核となる事業の構想が、すでに語られています。また多くの企業がインターネット分野に参入するなかで、優位性をどう維持・拡大するかという卓越した競争戦略を実践していたこともわかります。

 

では2回目を、どうぞ。

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三木谷浩史(Hiroshi Mikitani)

1965年3月、兵庫県生まれ。一橋大学商学部卒業後、日本興業銀行入行。1993年、米国ハーバード大学でMBA取得後、本店企業金融開発部でメディア関連のM&Aを担当。1995年11月、興銀を退職し、株式会社クリムゾングループを設立。ソフトバンクによるコムデックスやジフデービスエクスポの買収、衛星多チャンネル放送ディレクTVプロジェクトなど、大型案件のファイナンシャルアドバイザーを務める。1997年2月、株式会社エム・ディー・エムを設立、代表取締役社長に就任。シリコンバレーなどのハイテク企業とも強いネットワークを持ち、グローバルな事業展開を目指している。


インターネットの標準規格化で、競争の焦点はコンテンツやサービスに移りました。頭一つ抜き出る事業プランと収益モデルが必要になっています。


■インターネットの標準規格化により、コンテンツやサービスが次の焦点に

つい最近米国に出張されて、本場のインターネットビジネスをつぶさにご覧になってきたそうですね。

三木谷 昨年(1997年)も米国には十数回出張しましたが、今回特に感じたのは、1年前に比べてインターネットビジネスにおける事業モデルがかなり明確になってきた、ということです。「勝ち組」と「負け組」がはっきりしてきたといってもいい。収益モデルが曖昧なまま、とりあえずシェアを上げようとした企業は苦しくなり、確固たるビジネスプランを持っている所だけが生き残るという状況になっていると思います。


そうなっている理由は何なのでしょう。

三木谷 インターネットが世界共通の「標準規格」になったからです。規格であるということは、誰にでも参入のチャンスがあるということです。例えばブラウザの分野では、マイクロソフトの参入によって先発企業の価格政策が一挙に崩れ、従来のビジネスプランはもはや通用しなくなった。規格化された分野におけるソフトの勝負は、極めて厳しい競争の世界だといえるわけです。


インターネットビジネスへの新規参入は、リスクが大きいということですか。

三木谷 そうではなく、インターネットを使った事業戦略と収益構造を突き詰めて考え、しっかりとしたビジネスプランを確立しないとダメだということなのです。


従来はブラウザやサーバーソフトなどがインターネットビジネスの中心でしたが、それらの分野はもはや新規参入は難しくなっている。今ビジネスとして成立するのは、バナー広告を収益源とする検索エンジンや、ネットショッピング、ニュース配信などインターネットをツールとして活用したコンテンツやサービスの分野です。特にインターネットというプラットフォームが規格化された今、コンテンツやサービスの供給者のバリューが非常に高まっている。そういう構造を認識する必要があると思います。


これから成長するコンテンツやサービスの提供とは、具体的にはどのような事業でしょうか。

三木谷 例えば、ネット上でのIR(投資家向け情報サービス)、ネット上の旅行代理店、ネット上での証券取引など、無数にあると思います。私たちの「楽天市場」もその一つでしょう。誰に対して何を提供するのかという事業構造を明確にし、高い付加価値やサービスを提供することでニッチ市場におけるNo.1になることが重要なのです。


その意味で、今回の出張で訪問したCNNは非常に面白かった。CNNでは4000人の社員のうち、10%にあたる400人をインターネット部門に配属しているんです。ネット上でのニュース配信を、将来の最優先の戦略事業として明確に位置づけているわけですね。



■顧客ニーズを反映した「問い合わせ」ボタンによるコミュニケーション

日本における「楽天市場」は、勝ち組のなかでも頭一つ抜け出したように見えますが、この優位性を維持・拡大するために必要なことは何でしょう。

三木谷 まず、顧客をいかにファンにし、カスタマーロイヤリティを確立するかということが重要です。インターネットモールでは、私どもの「楽天市場」のサービス及びシステムに顧客と出店者が満足していただければ、長期にわたり「楽天市場」を使って頂ける。


インターネットビジネスは、本質的に展示会事業などと似ているところがあり、誰でも参入できる反面、一つのマーケットで上位の企業しか生き残れない世界なのです。そのポジションを獲得できるかどうかがポイントでしょう。


そのためには、どうすればいいのしょうか。

三木谷 顧客ニーズを見抜いた、顧客本位のサービスやコンテンツを提供し続けること。その上でブランドマネジメントを徹底することだと思います。


最近マイクロソフトが「エクスペリア」というネット上の旅行代理店事業を立ち上げ、約半年間で大手旅行代理店の一角を占めるまでになりましたが、これなど典型的な成功例です。仮説→実行→検証のサイクルを高速で実行し、自分の戦略やポジションが顧客ニーズと合致しているかどうかをチェックし続けることが重要だと思います。


そのために「楽天市場」は、具体的にどんな施策を行ったのか、教えてください。

三木谷 従来のインターネットショッピングでは、「買う」と「資料請求」というボタンしかありませんでした。「楽天市場」ではそこに「問い合わせ」というボタンを付けたのです。資料請求もいいけれど、とりあえずもう少し商品を詳しく知りたい、というニーズに応えるためです。


なぜ、そうしたのでしょう。

三木谷 「楽天市場」には数百社が出店しており、そのビジネスの実態がデータで手に取るようにわかります。その成功事例と失敗事例の違いを調べると、顧客と出店者のコミュニケーションの量であることがわかったのです。


インターネットショッピングは、コミュニケーションの形が通信販売よりも実は対面販売に近い。「楽天市場」の価値とはコミュニケーションが活発であることであり、それならばシステム自体にも双方向コミュニケーションを可能にする新しい機能を付加する必要があると考えたわけです。これなども、仮説→実行→検証の一つの事例です。


最後に、インターネット関連事業を行うベンチャー経営者は、今後何を考えるべきでしょうか。

三木谷 インターネットの標準規格化により、コンテンツやサービスが競争の焦点となっていること。そして、誰にでも簡単に始められる反面、競合より一歩でも優位性がないと生き残れないという厳しい世界でもあること。


こうしたインターネットの特性を理解したうえで、自らの戦略ドメインを明確化し、そこで最善のサービスやコンテンツを練り上げて提供し続けるしかない。ぜひ果敢に挑戦してほしいと思います。


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この記事がベンチャー経営者向けの月刊情報誌に掲載されたあと、三木谷さんからメールをいただきました。こうしたロングインタビューは初めてだったようで、「とりとめのない話をよくまとめてくれた」というお褒めの言葉と、ていねいな謝辞が書かれていました。


自らの事業戦略を余すところなく語り、一人のライターにまで心配りをしてくれた三木谷さんに、心から感謝します。そして、三木谷さんと「楽天市場」の成長ストーリーは、いずれ経営戦略論の教科書にも事例として取り上げられるのではないかと、僕はひそかに期待しています。

(おわり)

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