快適な水まわり空間の実現には「全国の水を知る」ことが不可欠! 地球にやさしい「きれい除菌水」を世界に! ~きれいが続く水まわりを実現するために研究者が挑み続けていること~
「きれい除菌水」はきれいを長く保つTOTOのクリーン技術の一つです。「ウォシュレット*」(トイレ商品)に加え、キッチン、浴室や洗面商品などにも展開されています。
「きれい除菌水」の誕生秘話とウォシュレットに搭載されるまでの開発裏話を水質調査の研究者(TOTO社員)を通してお届けします。
*「ウォシュレット」はTOTO株式会社の登録商標です
TOTO株式会社 もの創り技術グループ 総合研究所 分析技術部 小倉分析技術グループ
グループリーダー 豊田弘一(とよだ こういち)
聞き手:TOTO株式会社 広報部 東京広報グループ 阿部園子
水から作られ、水に戻る「きれい除菌水」とは
――「きれい除菌水」は、どういう経緯で開発されたのでしょうか?
豊田:温水洗浄便座「ウォシュレット」を担当していた事業部から、「きれいが続く商品を作りたい!10年メンテナンスフリーを実現したい」という要望がありました。
「汚れていても仕方がない」トイレから、「汚れにくい、におわない」トイレを実現させるために、汚れが発生するメカニズムを解明するプロジェクトが総合研究所で始まりました。プロジェクトの中できれいが続くための技術開発担当になり、さまざまな研究を調査し進めました。
ここ数年「次亜塩素酸」という言葉はよく耳にするようになったのではないでしょうか。新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、さまざまな場所に次亜塩素酸水が置かれているのを見かけますよね。次亜塩素酸を含む水は菌の繁殖を抑制し、ウイルスの不活化にも効果があることがわかっています。
実は、塩水を電気分解して次亜塩素酸を含む水を作る技術はすでに存在していました。塩を原料として化学薬品を作る大型プラントなどでは用いられている工業用の技術です。この技術を家庭用として取り入れることができたらもっと多くの人に「ウォシュレット」の清潔性を知ってもらえるんじゃないか……そこから「きれい除菌水」の開発がスタートしました。
――「きれい除菌水」とは具体的にはどのようなものですか。
豊田:「きれい除菌水」は水に含まれる塩化物イオン(Cl⁻)を電気分解して作られる除菌成分(次亜塩素酸)を含む水で、汚れのもとになる菌を除菌し、きれいを保ちます。薬品や洗剤を使わず、水から作られています。
イメージ図を見て下さい。
ここで言う“水”は水道水や飲用可能な井戸水(地下水)を指します。水には天然の成分である塩化マグネシウム、塩化カリウム、塩化カルシウムなど塩化物イオンを含んでいます。水を電気分解すると、塩化物イオンから次亜塩素酸を含む水が生成されます。次亜塩素酸が生成された「きれい除菌水」はWHO(世界保健機関)が定める飲料水水質ガイドライン値以下の濃度で作られており、安全で、さらに時間がたつともとの水に戻るので環境にやさしいのが特長です。
「きれい除菌水」はこのマークとともにカタログやウェブサイトなどでご案内しているTOTOのクリーン技術です。
――さきほど次亜塩素酸を含む水を作る技術はすでに大型プラントで使用されていたとお聞きしました。家庭用に応用するには小さくするということでしょうか。
豊田:小さくすることも大事でしたが、それだけでも実現できませんでした。なぜならば、TOTOは塩水ではなく、一般の家庭で使用されている水を使うことにこだわったからです。薬品を加えたりカートリッジの交換をしたりしなくても、蛇口から出てくる水を原料として次亜塩素酸が含まれた水を作りたかったのです。日本のどの地域の水でも同じ効果が得られることも実現したいことでした。
少し専門的な話に入ります。
電気分解には陰極(ー)と陽極(+)の2つの電極が必要です。2つの電極の間に水を通過させて電気分解を行い、水に含まれる塩化物イオ ン(Cl⁻)から次亜塩素酸が生成されます。
研究を始めてみると、すぐに課題が見つかりました。家庭で使用している水を使うと、電気分解を続けているうちに電極の表面に「炭酸カルシウム」が付着してしまうんです。この炭酸カルシウムは当時使用していた電極に対して、次亜塩素酸の濃度を一定に作れなくしたり、電極内部を狭くして水を流れにくくしたり……と、当初はなかなかうまくいきませんでした。
――電極に炭酸カルシウムが付着しにくくする方法を開発したということでしょうか。
豊田:そうです。当時の総合研究所メンバーや商品担当の事業部メンバーでブレイクスルーを繰り返し、10年相当の耐久性を確認できる電極の実現、安定した次亜塩素酸を含む水を作る開発に成功しました。
右の画像は電極の表層部分(断面)です。電極の表面には次亜塩素酸を発生しやすくするために触媒を塗布しています。触媒の成分は貴金属や金属などです。
「プラチナ」「イリジウム」など聞いたことはありますか。電気分解には欠かせない触媒の主な成分です。これらを電極の表面に塗布することで次亜塩素酸を安定して生成することができます。しかし、それぞれ触媒には電気分解に必要な役割が個別にあるため、コストも考慮しながら塗布する必要量をμ(マイクロ)メートル単位まで精査しました。わかりやすいように主な触媒を色分けしてしていますが、ひと言で言えば触媒を“バランスよく塗布する”のですが、これを開発するまで本当に試行錯誤しました。また、炭酸カルシウムを付きにくくするために、電極のプラスとマイナスを入れ替える(ポールチェンジ)機能を加えました。その結果、安定した次亜塩素酸を含む水を作る電極が完成したのです。
このバランスの開発とポールチェンジで電極は飛躍的に性能アップが図れました。これにより99%以上の除菌効果のある濃度の次亜塩素酸を含む水が、継続して且つ安定的に作れるようなりました。
全国の「水道水」を調査
―――もう一つ大きな課題があったとお聞きました。
豊田:それは「水道水」です。実は、水道水は含まれるミネラル分や塩化物イオンが各地域で異なっています。そして、水道水の電気分解にはこのミネラル分や塩化物イオンが大きく関わります。例えば、塩化物イオンが少なければ少ないほど、生成できる次亜塩素酸が少なくなってしまいます。必要な次亜塩素酸の濃度を水道水で作ることができるのか、炭酸カルシウムの生成が問題にならないかを確認するため全国の水質を徹底的に調査することにしました。
ファーストステップは、日本に存在する約6000箇所の浄水場の水質データの調査でした。これは(社)日本水道協会が公開している「水道水質データベース」をもとに水道水に含まれる成分を調べました。この段階で地域ごとの水質がおおよそ見えてきました。
セカンドステップは実際の地域での水質調査です。浄水場によっては公開されてない成分もありましたので、それらを明確にするために47都道府県で勤務するTOTOグループ社員に協力してもらい、社員の自宅、事業所を含めた約150箇所から水道水を集めました。収集した水を一つ一つ調査しました。この結果から国内数か所を絞り、調査対象としました。この数か所の水は、飲み水として安全なものではありましたが、平均的な水道水の成分と異なっていたため長期的に「きれい除菌水」を作ることができるか、実際の場所と水で検証が必要であると判断しました。
サードステップは耐久実験です。ファーストステップやセカンドステップで得られた地域の水質データをもとに数か所で「きれい除菌水」生成の耐久性を検証しました。きれい除菌水機能を搭載した開発中の実機を置かせてもらうために、浄水場やその周辺施設に出向き、自ら交渉しました。浄水場を管轄している役所へ連絡したり、その地域の公民館や集会場を管理する町内会長たちを訪ねたり、粘り強く交渉を重ねました。その甲斐あって、ある集落の町内会長から作業小屋の使用許可をもらいました。その時は本当に嬉しかったです。
こちらが作業小屋での耐久実験の様子です。
浄水場近くの作業小屋の一角で、ノズルから「きれい除菌水」が数分ごとに噴射されるプログラムを組み、日常利用を再現した状態で「ウォシュレット」を8台並べました。
自ら足を運び、実験を進め、炭酸カルシウムの付着の原因究明と対策を繰り返すことで耐久性と性能を両立した電極が完成し、商品化に踏み切ることができました。
電極小型化の実現
―――「ウォシュレット」に実際にきれい除菌水機能を搭載して実験されたのですね。先ほど電極を小型化することもご苦労されたとのことでしたが。
豊田:「ウォシュレット」の内部(機能部)は陣取り合戦なんですよ。「ウォシュレット」のさまざまな機能の部品がギュウギュウに詰まっています。また、「ウォシュレット」はスリムなデザインにこだわっているので、大きな電極では「ウォシュレット」の形状そのものを変えることになるので、電極の小型化は必須だったのです。
試作品は数えきれないぐらい作りました。写真は試作品ですが、今はもっと小さくなって、「ウォシュレット」の機能部に収まっています。
―――「ウォシュレット」には「ノズルきれい」機能として最初に「きれい除菌水」が搭載されたのですよね。
豊田:はい、2011年に「ウォシュレット」に「ノズルきれい」を搭載しました。ノズルの使用後に「きれい除菌水」でセルフクリー二ングします。
2012年に「便器きれい」を搭載し、便器の中での菌の発生を抑える機能が続いて発売されました。これは、自動で「きれい除菌水」を便器の中にふきかけて汚れを抑制する機能です。便器の中に黒ずみや黄ばみを見たことはありますか。
便器の中は水を流すときれいになったように見えますよね。でも、目に見えないレベルで汚れは残っているのです。菌は汚れを栄養にしてバイオフィルム(微生物が形成する生物膜)を生成して増えていきます。便器の中の黒ずみや黄ばみはバイオフィルムなどが目に見えるようになったものです。私たちがこだわったことはこうなる前に「目に見えない段階で菌にアタックする」ということでした。汚れる前にアタック!ここで「きれい除菌水」が本当に性能を発揮します。
2015年には「においきれい」が登場します。トイレ空間のニオイにも「きれい除菌水」は活躍しています。トイレの使用後のニオイ成分を「においきれいカートリッジ」に捕集して脱臭したあとにカートリッジを「きれい除菌水」で洗浄、除菌しています。2022年には「便座きれい」に発展しました。トイレ使用後に「きれい除菌水」を便座裏の先端部分までふきかけ、汚れをしっかり漂白・除菌します。ふだん見えず、汚れに気づきにくい便座裏のきれいが長持ちします。
―――「ウォシュレット」以外の商品にも「きれい除菌水」が搭載されていますね。
豊田:住宅向け商品ではシステムキッチン、システムバスルーム、洗面化粧台に搭載されました。非住宅(パブリック)商品では自動水栓や小便器にも搭載されています。
住宅やパブリック空間に「きれい除菌水」を搭載した商品が拡大できた理由の一つに研究所に「模擬水生成装置」が設置されたことが挙げられます。
これは過去には現地に出向いたり、各地のTOTO社員に送ってもらったりしていた水道水を、研究所で再現できる装置です。この装置が設置されたことは各商品への「きれい除菌水」搭載へ大きく影響していると思います。模擬水生成装置は対象の水道水の成分を入力することでその土地の水が再現でき、それぞれの商品で性能が発揮できているかを確認しています。TOTOの研究所は現場を再現することにもこだわっていますから。微生物由来の汚れやにおい、水道水もお客様が使用される現場に近い状態で実験することがきれいな水まわり空間の実現に欠かせません。
「快適な水まわり空間」を世界に
―――海外の水質はどうでしょうか。
豊田:米州、欧州やアジアの国々でも「きれい除菌水(EWATER+*)」を搭載した「ウォシュレット」をすでに販売しています。「きれい除菌水」が海外でも性能が発揮できることがわかっています。
しかし、今後の水まわり空間商品を新たに検討していく上では、まだ水質が十分にわかっていない地域もあります。
世界的な人口増加に伴い、水不足が問題になってきていますよね。これからは限られた水をいかに有効活用するかが環境にも大きく影響してくると思っています。環境という意味では「きれい除菌水」の使用地域が広がることで、薬品や洗剤の使用量も減り、トイレを掃除するための水の使用量も減り、水資源の保全に少しでも貢献できると考えています。
快適な水まわり空間の実現のためには「水を知る」ことは欠かせないことです。
まだまだ終わりはないですね。
*「EWATER+」は「きれい除菌水」の英語表記です
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