動物にとって快適な環境を目指して。アミメキリンの最高齢である『ハツカ』も過ごす、キリン舎に寝小屋を設立する挑戦の裏側。
2023年5月13日、宇都宮動物園では園内のキリン舎に寝小屋が新設されました。この新施設は、同年2月13日から3月25日にかけて実施していたクラウドファンディングを中心に、多くの方から支援をいただき無事に完成するに至っています。
「#宮子からのバトンを繋ごう|宇都宮動物園の動物たちの住環境向上へ」のプロジェクトでは、総支援者が947名、総額15,055,000円となり無事に目標を達成しました。今回のクラウドファンディングは2回目となり、2021年にはアジアゾウの宮子に誕生日プレゼントとしてプールの建設を目標としたクラウドファンディングを実施しています。
このような取り組みを続ける背景として、宇都宮動物園が昭和56年にオープンし、様々な改修が必要となっていることがあげられます。動物が心身共に健康で、寿命を全うできるようにするためには、新しい挑戦が不可欠でした。
このような取り組みを実施するまでの背景、そして宇都宮動物園の挑戦の軌跡について、本ストーリーではお伝えします。
バブル期に設立された宇都宮動物園。もっと誇れる園を作るために。
宇都宮動物園は、1981年に開園した「自然とどうぶつとこどもたち」のふれあいテーマパークです。動物との付き合い方にも様々なルールがあるということを動物園は伝える場であり、教育の部分にも力を入れてきました。図鑑を見ただけでは分からない、動物の大きさ・におい・温かさなど、実際に見て触って感じてもらうことで、こどもたちの豊かな情操教育を育む場を目指しています。
約40年の間、地域の内外から多くの方に訪れていただいた宇都宮動物園でしたが、動物の過ごす環境面に課題がありました。まさに設立された当時はバブル期。そのため、一概には言えないものの、来園者に楽しんでいただく「レジャー要素」に力を入れて作られた施設が多く、当園もまた例外ではありませんでした。
【園内に併設された遊園地】
宇都宮動物園では、開園当時から残る昔ながらの檻に囲まれた獣舎が現在も中心となっており、動物たちにとっては決して快適な空間とはいえない状況です。しかし、もちろん習性に合わせた造作を取り入れ退屈しない空間を作ったり、獣医師による健康チェックなどを実施したりするなど、できるだけ心穏やかに過ごせるよう心掛けていますが、まだまだ不十分でした。
【獣医師によるトラの診察風景】
このような環境を、より動物たちのために改善していきたい気持ちがある一方、獣舎の改修などには莫大な予算がかかるため、都市型の小さな園が進められることには限界があります。昨年までは新型コロナウイルス感染症により来園者が激減。入園料がメインの収入源である当園は大きな打撃を受け、動物たちのためにできることがさらに限られてしまいました。
「それでも、どうにか動物たちのためにできることを園としても精一杯やっていきたい。」
そんな想いで、宇都宮動物園のことを想ってくださる皆様と一緒に、園で暮らす動物たちの環境を少しでもよくしていくことができればと、一昨年クラウドファンディングに挑戦をします。
それは、開園当初から多くの方に愛され続け、園の人気者であるアジアゾウの宮子へ「段差のないプール」をプレゼントするというもの。タイから宇都宮動物園にやってきた彼女ですが、48歳を迎えるにあたって、大好きな水遊びを楽しんでもらうべく新たな改修工事を計画しました。
動物にとって、少しの環境変化でも、それが気に入らない場合は大きなストレスにつながってしまいます。そのため、ストレスチェックや健康管理をこまめに行い、砂遊びができるよう砂を入れるなど、環境の変化は少しずつ行うことを心がけてきました。
そうした飼育員の努力もあってか、これまで48歳まで大きな病気も怪我もなく健康に過ごすことができています。しかし、どんな命も寄る年波には勝てません。宮子も、加齢でだんだん足腰が弱くなっていくため、少しの段差が転倒の原因に、大けがにつながってしまう恐れもあります。そんなリスクを避けるべく、当時は宮子の住まいに「段差のないプール」を作ることを決めました。
当時は新型コロナウイルス感染症が流行している真っ只中で、来園者は激減。GOTOトラベルや天候に恵まれたおかげで何とか乗り切ることができたものの、同年の春も団体様がほぼ全滅(2019年より約15,000人マイナス)、さらに秋の予約状況もまばらなため1年前よりも厳しい状況となっていました。
【閑散とする園内※桜が咲き、平時は賑わう】
そんな逆境の中でも、本当にたくさんの方々に温かい応援のお気持ちと一緒にたくさんのご支援をいただき、プロジェクトを成立させることができました。1,723人からの応援、総額21,417,823円が集まりました。
【第一目標を達成。無事、段差のないプールが完成し、落成式を開催しました。】
【完成後の段差のないプールで遊ぶ宮子】
【第二目標:未達となりましたが集まったご支援金を元に購入させていただいたポータブルレントゲン】
【獣医師によるレントゲン撮影風景】
【第三目標であったイヌワシ舎/令和4年竣工】
「皆様に長く愛される動物園を作る。」そのためにゾウの宮子のプール改築以外にも、第二目標であった「レントゲン」も購入させていただき、第三目標であったイヌワシ舎新設も完成し、絶滅危惧種の繁殖に取り組むプロジェクトを立ち上げるなど、動物たちのためにできることを考え、実行してきました。
この挑戦を通して、私たちは園と動物たちのことを想ってくださる方々が大変多くいらっしゃるのだということをあらためて実感します。動物たちのためにできることを園としてもしっかり考え、どんどん挑戦していかなければならないと決意します。
国内で飼育するアミメキリンの最高齢である『ハツカ』のためにも。増え続ける個体数に合わせて、キリン舎に寝小屋の新設を目指す。
一昨年挑戦したクラウドファンディングをきっかけに、ようやく園としての進化を見据えた計画の一歩を踏み出すことができました。この歩みを、ここで止めたくない。宇都宮動物園と園で暮らす動物たちのことを想ってくださる皆様と一緒に、継続的に園をよりよくしていく取り組みを進めていければと思い、2回目のクラウドファンディングに挑戦することを決意します。
宇都宮動物園には、国内で飼育するアミメキリンで最高齢※となる『ハツカ(30歳、オス)』を飼育しています。他にもキリンがいる中でも、ゴツゴツしたツノでひときわ目を引く彼ですが、歳を重ねるにつれ、単独で過ごす時間が多くみられるようになりました。
※…公益社団法人 日本動物園水族館協会(JAZA)調べ
【アミメキリンのハツカ(オス/30歳)】
一方、現在のキリン舎は、単独でもストレスなく過ごせる設備が整っている状態ではありません。
(左:現在の寝小屋の様子、右:出舎するハツカ)
そこで今回、「のんびり過ごせる寝小屋をキリン舎につくる」ことを決めたのです。宇都宮動物園は、キリンの繁殖が順調で個体数も増えています。当時のキリン舎には全部で4部屋あり、そのうち最大で成獣のメス1頭と若獣のメスが3頭の、計4頭で過ごしている部屋もあります。
若い個体が増えてきていることもあり、できれば部屋を増やすことで割り当ても変えて、成獣2頭につき1部屋、若獣であれば3頭につき1部屋を確保することが理想です。オス同士の相部屋はキリンの特性上できないため、高齢のハツカが1頭で過ごすスペースをつくるためにも、寝小屋が必要となりました。
また、万が一地震などイレギュラーな自然災害が起きた際、若い個体が激昂するおそれもあるため、十分な面積を確保していく必要があります。そんな背景もあり、ハツカにのんびりと過ごしてもらう場を提供するだけでなく、現在過密の状態で過ごしている他のキリンたちにも暮らしの上でのストレスを少しでも減らしていくことを寝小屋の設立目的として定めました。
【左:完成イメージ図/右:キリン担当飼育員】
『ハツカ』は、メスの発情時には独占欲が強くなったり、他のオスへプレッシャーをかけたりと、いわゆる「オスらしい」姿がみられますが、それ以外のときにはおとなしい性格です。また、年をとるにつれて単独でいることが多くなってきました。別のオスの成獣にからまれることもよくあるので、1頭でのんびりと過ごす場所を与えられないか、そんな切実な想いがあります。さらに、夏の獣舎は室内気温が上がりやすいため、夜間の通気をよくしていければと考えていました。
実施を決意し、クラウドファンディンを開始すると、多くの方から反響をいただきました。
2回目の挑戦ということもあり、プロジェクト開始時は不安だけでなく「皆さんからいただく応援コメントが楽しみ」という気持ちもありドキドキとワクワクのスタートをきります。
そしてスタートしてみると、やはりたくさんのご支援と共にあたたかい応援メッセージをいただき、スタッフ一同毎日毎日とても嬉しく読ませていただいておりました。日ごとに増えていくご支援者様の数にはもちろんのこと、本プロジェクトページにいただいた応援コメントや、各公式SNSにいただいた温かいコメントに、このプロジェクト期間中何度も何度もパワーをもらいました。
結果としては、目標である1,500万円を達成し、総支援者数947名により総額15,055,000円ものご支援金が集まりました。
「#宮子にプールを」プロジェクトの時と同様に日頃より当園を応援くださる方。
まだご来園されたことが無くても応援下さった方。
今回のプロジェクトで当園を知り応援下さった方。
そして普段よりお付き合いさせていただいている業者様の応援など、本当にたくさんの方々よりご支援をいただき、改めて、多くの温かいお力・支えあっての宇都宮動物園なんだな…と強く感じました。
プロジェクト終了後の現在も皆様から応援のお言葉や、次の挑戦を期待するお言葉などたんさん頂戴しております。
また、リターンとしてご用意いたしました返礼品もお喜びいただけたようで、ご反響をいただいております。
そしてキリン舎の工事はハツカをはじめとするキリンたちが見守る中、着々と進められました。
遂に完成したキリン舎の寝小屋。今後の展望
クラウドファンディング終了から約2カ月、2023年5月13日にキリン舎の寝小屋が完成し、落成式を執り行うことができました。
当日はたんさんの祝花を頂戴し、お向かいのチンパンジーたちの合いの手に盛り上げてもらいながら式典は滞りなく開催出来ました。
徐々にハツカも新しい寝小屋に慣れ初め、のんびりと過ごしております。皆様のご支援の元、2回目の挑戦も無事達成する事ができました。
これからも宮子から始まった挑戦のバトンを繋ぎ続けることで、より良い動物園作りに努めて参りたいと思います。
宇都宮動物園ではウサギやモルモットなどの小動物からゾウやキリンなどの大型動物、ライオンやトラなど約85種400点の動物を展示し、敷地内には「レトロランドハラハラドキドキ遊園地」を併設しています。
また、博物館相当施設としてご来園いただいた方の教育的な役割も園の大切な役目であるため、レジャー施設としてだけでなく飼育体験教室や動物クイズ、ワークショップなどを実施し、お客様にさまざまな発見をしていただけるお手伝いができる場となるよう取り組んでいます。今年の4月に博物館法が改正され我々のような施設でも博物館として登録できるようになりました。まだまだ宇都宮動物園にとっては登録博物館になるのには高いハードルがあるとは思いますが、生涯教育施設としての社会的な地位向上を目指すことがここで働く職員ばかりでなくお客様の意識改革につながることが、きっと動物たちのうれしそうな姿に変えられると信じ次の目標として頑張ってまいります。
これからも園で暮らす動物たちのため、ご来園いただく皆様のため、園をよりよくしていくためにできることを考え、園の資金繰りを踏まえた上でできることを整理しながら、少しずつ実現していきたいと考えています。
【園長の荒井賢治とネコ園長のさんた】
そして、宇都宮動物園は8年後に開園50周年を迎えます。
50周年を一つの節目とし、動物たちの住環境向上をはじめとしたハード面も含め、ここで働く職員の意識といったソフト面についても、誇りを持って活躍できる動物園にしていきたいと考えています。
当園は恥ずかしながら、開園当時のバブル期に人間が自分たちの利益追及のためだけに作った動物園です。少なからずその名残が残る当園を、「自慢の施設!」と胸を張って言えるような動物園に変えていきたいと思っている職員がたくさんいます。
「動物たちが心身共に健康で、寿命を全うできるようにする」これは動物園で働くものとして常に向き合い、取り組んでいる課題です。この課題に対し、今できることを自ら考え、一つひとつ着実に実現させていくことで、来園者の皆様にも、動物たちにも、動物たちのパートナーである職員にも、みんなにとって誇れる園にしていきたいと考えております。
そのためにも宇都宮動物園のことを応援してくださる皆様のお力もお借りしながら、みんなで良い園を作っていくことができれば嬉しいです。ぜひ、今後とも応援の程、よろしくお願いいたします。
行動者ストーリー詳細へ
PR TIMES STORYトップへ