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経済的困窮やひとり親世帯など孤立・孤独状態に陥りやすい家族のための相談窓口、14年の歴史

著者: 認定特定非営利活動法人育て上げネット

育て上げネットは2004年に法人化したNPO団体です。国や自治体が若者支援に乗り出すとともに事業を拡大、現在は年間2,000名以上の若者と出会い、サポートを続けています。社会から孤立した若者は国内に200万人以上いると推計され、これは16人に1人の割合です。そうした若者が再び社会と接点をもち、望まない孤立状態を解消できるように「働く」と「働き続ける」を実現できるよう支援活動を行っています。


子どもの将来相談窓口「結」はそうした孤立状態にある若者の保護者を対象にした相談支援プログラムです。2009年に立ち上げ、現在までに300世帯以上の家族が利用しています。このストーリーでは育て上げネットの創業経緯から「結」を立ち上げるに至る思いをご紹介します。


米国留学とヨーロッパでの視察から、若い世代を支える職業訓練と社会投資の思想を学んだ



認定特定非営利活動法人 育て上げネット 理事長

工藤 啓(くどう・けい)


理事長の工藤は、知的障がい・非行少年・不登校などの子どもたちが集まる学習塾を経営する両親のもとに生まれました。血のつながらない家族との生活が続くなか、日本の大学を中退して留学したことが創業のきっかけとなりました。


アメリカでビジネスについて学んでいる最中、日本では金融ビッグバンの影響で中年層の解雇が進み、新卒市場は強烈な買手市場となっていました。終身雇用と新卒採用という日本特有の雇用環境が崩壊を始めるなかで、先行するヨーロッパを例に挙げ「若い世代を労働の観点から支えるビジネスのマーケットが日本にもできる」と友人から言われ、ヨーロッパに視察に行くことになります。


ヨーロッパでは3つの発見がありました。


ひとつは、当時最先端とされていたヨーロッパ施設が両親の経営する塾に似た活動であったこと。「移民や親に捨てられた子たちと暮らしながら、職業訓練をさせて自立する支援」は自分が子どものころからみてきたものでした。


もうひとつは、案内してくれたプレゼンターが使う「社会投資(Social Investment)」という考え方です。普通の投資は利益が自分に還元されます。しかし社会投資は、自分の人生やお金や情熱を問題解決に投資して、社会がよくなるというリターンを得ることです。


最後は、実家では、結婚・出産を機に泣きながら転職していき、職員自身も「いつか辞める仕事」と認識しているなかで、ヨーロッパではこの支援活動で生活ができていることに驚かされました。


自身の経験と知見、そして社会投資の考えのもとに「日本で若者支援が“あたりまえに公共に存在している社会を作る」という想いから、育て上げネットはスタートしました。

国の「ニート」への支援事業の広がりと、新たな課題の顕在化


2003年ごろから、国は若者の支援事業を全国的に展開をしていきます。その流れを察知したメディアもワイドショーで取り上げるようになり、お茶の間に「ニート」という言葉が広まっていきました。


流行語として若者のおかれた状況が知れ渡るなかで、いちはやく動き出したのは保護者です。「うちの子、ニートかもしれない。どうしたらいいの?」と相談先を探すようになりました。


まだ「ニート支援」が始まったばかりの当時は環境が整っておらず、専門の相談機関は乏しい状態にありました。そこで保護者が真っ先に頼られたのは精神や心理を専門とする病院やクリニックでした。しかし、カウンセラーからは「本人が来られないならカウンセリングは進められない」と断られるケースが増えていったのです。


ニート状態にある若者に向けられる視線は非常に厳しいものがあります。働かず一日中家にいるなんておかしい、病気なのではないか。そんなことは家庭内でどうにかするものだ。そんな自己責任論が世論の中心ではないかと思います。


もともと恥の文化が強い日本では、そんな世間からの冷ややかな視線があることで余計に周りに相談せず隠そうとする家庭が多いのです。そうして家庭の問題と認識されると改善がしにくい状態となり、時間経過によって親の高齢化による介護や定年など他の問題と絡みあって複雑化してしまいます。


本人は社会とのつながりがない状態である以上、最も身近で関係を作りやすく「なんとかしたい」と考えている保護者に特化した支援はできないだろうか、そして「本人不在でも始められる支援」はないだろうかと保護者向けの相談支援に乗り出しました。

家族の関係性を一つのシステムと捉えるアプローチを採用


「本人不在でも始められる支援」を実現するために私たちが取り入れたのは、システムズアプローチと呼ばれる家族療法です。この方法では、悩みを持つ本人に注目するのではなく、周りの環境を関係性を見直していきます。


「家族」というグループは親子や夫妻、兄弟姉妹やペットなどさまざまな立場の存在が相互に関係しあっています。こうした関係性をひとつのシステムと捉え、家族が若者の社会参加を応援できる環境へと変えていくことを目指しています。


相談員は関係を変えていくためのさまざまな手法を提案します。親子間の会話がなければ、メモを残すようにしてメッセージを伝えるようにしたり、子どもの呼び方や評価の仕方まで丁寧に対応しています。


一般的に相談というと傾聴する、話を聞くようなものを想像されますが、結の相談はどちらかといえばコンサルティングです。家族関係を解きほぐし、より豊かなものへと変えていくことを目指しています。


結が立ち上がるよりも前から、保護者向けコミュニティは存在していました。そうした場所と大きく異なるのは、私たちが若者自身を支援する団体からスタートしていることです。若者を社会とつなぐというミッションを持ち、「働く」と「働き続ける」という実現すべきものが明確であることだと考えています。


保護者や若者という個人ではなく、家族を支えることで、望まない孤立状態を解消するため就職・復学といった具体的な目標にむけた「解決志向」の支援プログラムとなりました。

「母親の会」としてスタート。「父親は利用できないか」というお声が増え、サポートの幅を広げていった



「結」がスタートした当時、私たちは「母親の会」という肩書きをつけていました。母親からの相談がそもそも大半だったので、同じような悩みをもつ保護者が集まって、気さくに会話ができる「女子会」のような場を作りたいと考えていました。


しばらくすると、お問い合わせに「父親は利用できないか」という声が増えてきました。ときには「兄がひきこもって10年経った。どうにかしたい」と親以外からの問い合わせも出てきたのです。そうした声を受けて現在は「子どもの将来相談窓口」という肩書きを使用しています。


解釈の幅が広がったためか、以前は「ひきこもり」「ニート」といった成人年齢の子を持つ方からの相談が多かったのですが、現在は「不登校」「中退」など学齢期の悩みや幼年期のカップルカウンセリングまで幅も広がってきていました。

前例のないオンライン相談支援を開始。当初は伸び悩むもコロナ禍で活動が拡大


活動開始から5年ほど経ち、地方からの講演依頼も入るようになってきたものの、その後の相談を受けられないことが課題になり、オンラインで相談を受けられるように制度を整えることになりました。オンラインになると時間や距離の制約がなくなり、今までは都心部でないと相談が続けられなかった状況を大きく変えることができました。


スタッフの在籍地の制約もなくなり、アメリカに住むスタッフが日本時間の夜に相談対応をすることも可能になりました。



コロナ禍以前の相談支援は対面形式が大前提で、オンライン対応はほとんど事例がなく私たち自身にも大きなチャレンジでした。


パソコンが得意なスタッフばかりではありませんから当時、最大手だったSkypeの導入には非常に苦労しました。スタッフ以上に不慣れな保護者にアプリの使い方を教えたくても自分もよくわかっていなく解決するのに相談時間が過ぎてしまったり、通信環境が整わず相談が別日に移ってしまったりとサービスとしては不足も多かったと思います。


双方の負担も大きく、利用数は伸び悩んでいたのですが、大きな転機となったのは新型コロナウイルスの感染拡大と緊急事態宣言が発出されたことです。


行政・民間の支援機関のほぼすべてが対面形式を取っていてオンライン化するのに苦労していたなかで、外出を自粛を余儀なくされ、相談そのものができなくなりました。

そんななかで「結」は先行していたオンライン環境での相談に大きく舵を切っていきます。


利用されている家庭のなかには高齢化が進んでいたり、義務教育の段階であったりと「待ったなし」の状況にあることも多くあります。もし、コロナ禍のあいだ相談を止めてしまっていたら多くの家庭の課題解消が難しくなっていたかもしれません。


対面相談からオンライン相談に切り替えたタイミングで、情報発信も講演会や説明会を中心としていたものから、YoutubeやLINEといったデジタル環境にシフトしました。


対面支援が十分に行える現在も、オンラインでの相談は後を絶ちません。ビデオ通話が普及して仕事にも使われるようになったことで、特に中高生年代の子を持つ40代前後のビジネス世代には抵抗なく利用されています。


オンライン化後、相談件数は前年比で2倍近くに伸長


オンライン環境での相談を確立した現在、月次の相談件数は前年度の倍近い件数に増えています。LINEの友だち数は4,000名を超、Youtubeも登録者数2,000名と潜在的につながっている方が可視化されてきたことで「興味をもっているのに相談に至らない」家族がとてもたくさんいることが見えてきました。


「結」は有料のプログラムです。これは育て上げネットで働くスタッフがこの仕事で生活をし続けられるように、事業自体が自立したものとするために設定されています。一方で、悩みを持つ家庭は必ずしも経済的な余裕があるわけではありません。


子育て世代に向けた調査では、半数以上の家庭で支援サービスを利用したくないと回答しており、そのうちの44.6%は「費用が高い/高そうだから」としています。


子育て当事者の課題と子育て支援策のニーズ調査(NTTデータ研究所,2023)


こうしたデータを踏まえ、2023年6月に新たなチャレンジとして経済的な困窮状態にあるご家庭でも「結」を負担なく利用できるようにするため、寄付のお願い(クラウドファンディング)を始めました。


いただいた寄付は何らかの理由で費用の負担ができない家族にプログラムを利用していただくために活用します。支援を利用しない理由の最大の壁となっている費用の課題を解消することで、広く利用していただけるように展開していきます。

担当者の声

子どもの将来相談窓口「結」プロジェクトマネージャー

蟇田 薫(ひきた・かおる)


支援の最前線で家族と関わり続ける蟇田は、「苦しい状況にありながらも多くの人が相談できず時間が過ぎて行ってしまう。講演会で有料であることを知って諦めてしまう方がいるのも事実です。家族を支えるこの活動を共感してくださる方はもちろん、結を利用して卒業したご家庭など支え合えるようにしていきたい。」と話しています。



お知らせ

認定NPO法人育て上げネット(東京都立川市、理事長:工藤啓)は、経済困窮やひとり親世帯など孤立・孤独状態に陥りやすい家族に相談支援プログラムを提供するため継続寄付の募集を開始します。

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プロジェクト詳細・寄付の受付はこちら:https://readyfor.jp/projects/yui/


【育て上げネットについて】

育て上げネットは、すべての若者が社会的所属を獲得し、「働く」と「働き続ける」を実現できる社会を⽬指し、若者と社会をつなぐ活動を⾏う認定特定⾮営利活動法⼈です。若者⽀援を「社会投資」ととらえ、無業の状態にある若者の就労基礎訓練プログラム「ジョブトレ」や、その保護者の⽀援、学校やコミュニティ向けの教育⽀援プログラムを実施しています。また当事者だけでなく、地域社会・⾏政・企業と連携した⽀援者の育成など、多岐に渡る活動を展開し社会全体で若者を⽀援する⼟壌を創っています。

https://www.sodateage.net/


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