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教育の地域格差を解消したい。町と塾が同じ方向を向き、格差解消に挑むまで。

著者: 株式会社日本エルデイアイ

  株式会社日本エルデイアイは「地域社会に貢献したい」という想いで「東大セミナー」ブランドの塾を石川で運営しています。この地域社会への想いは近年、石川県内の各自治体と連携した教育活動にまで発展しています。



2021年7月に石川県の宝達中学校で実施した「夏期特別高校受験対策講座」の様子



 民間の教育機関である「塾」と、公教育を担う「学校」がなぜ、協力して教育活動を行うようになったのでしょうか?このストーリーでは、町と塾が協力して教育活動を行うようになった経緯と、当事者の想いについてお伝えします。


予備校の数が表している、都市部と地方の教育格差

 都市部と地方では子どもの学習環境に差があります。それは単に首都圏と地方という、「大都会とそれ以外」の差だけではありません。同じ「地方」と言われる県の内部でも、県庁所在地や人口が比較的集中している都市部と、そうではない過疎地域とで差があります。この差は「予備校・塾の数」にも表れています。


 業界最大手で日本全国に約1,000校を展開している「東進衛星予備校」を例に見てみましょう。東進衛星予備校は石川県に9校舎あり、県庁所在地である金沢市に5校、白山市に2校、小松市に1校、七尾市に1校と、石川県の中でも都市部から離れるほど校舎数が減っていくのです。


 その他の大手予備校も河合塾は金沢市に3校のみで、駿台は北陸エリアには校舎がありません。予備校だけではなく学習塾も同様の傾向があります。田舎に行けば行くほど大学進学するための情報が、受験対策ができる場所の選択肢が少なくなるのです。


※予備校の数は2023年8月時点の情報です。


過疎地域は高校定員割れも深刻

 また、石川県では少子化により7割の公立高校が定員割れしています。2023年石川県高校入試では石川県公立高校40校のうち、28校が志願倍率1倍を下回りました。こういった傾向も過疎地域で特に顕著です。石川県能登地方では、進学校である七尾高校・羽咋高校を除き全ての公立高校が定員割れしており「勉強をそこまで頑張らなくても高校に進学できる環境」が出来上がっています。これが、過疎地域の子どもたちの学習意欲の低下につながっている可能性があります。


 私たちは学習塾として、過疎地域の子どもたちの学習意欲を上げ、さらに学力を伸ばす機会を提供できていないことに大きな課題意識を持っていました。しかし、人口の少ない地域では生徒を集めることが難しく、ビジネスとして採算を取ることができません。「地域に貢献したくてもできない」という、もどかしさがありました。


自治体と連携した事業で教育格差解消に挑む

 そこで、株式会社日本エルデイアイは、教育の地域格差について同じように悩んでいる自治体と連携した事業を行うことにしました。


 2021年から石川県宝達志水町教育委員会よりご依頼いただき、当社社員が宝達中学校で夏・秋・冬に各3回「高校受験対策特別講座」を行っています。また、その取り組みが好評で2023年8月には新たに「夏期特別宿泊学習会(勉強合宿)」を実施しました。


 宝達志水町教育委員会の教育長も、町の子どもが勉強のモチベーションを上げられるような学ぶ機会や刺激が少ないことについて、大きな課題として捉えていました。


 子どもに学ぶ機会や刺激を与えるには、普段顔を合わせる学校の先生だけではなく、外部の人間の方が効果的です。また「そもそもなぜ勉強をしているのか?」「将来なりたい職業に就くにはどういった高校・大学を目指した方が良いのか?」というキャリア教育は、小中高を通して指導を行う学習塾に強みがあります。


 石川県は、文部科学省が小学6年生と中学3年生を対象に行う「全国学力・学習状況調査」で毎年上位に入ることが多く、子どもたちは高いポテンシャルを持っています。


 「子どもたちのポテンシャルを十分に引き出したい」「地域の子どもたちに勉強のモチベーションが上がるような学ぶ機会や刺激を与えたい」という、宝達志水町と日本エルデイアイの熱い想いが合わさり、「受験対策特別講座」が実現しました。



「受験対策特別講座」オリジナルテキスト



町教育委員会の皆様の丁寧な対応が町の皆さんの納得につながった

 町と塾とが連携した事業は石川県でもほとんど前例がありません。町教育委員会の勇気ある決断により実現した「受験対策特別講座」ですが、歓迎する声がある一方、最初は「なぜ塾が学校で授業をやるのか?」「どうして東大セミナーなんだ?」というお問い合わせも頂きました。


 確かに、特別なことをしなくとも学校の先生から勉強を教えてもらえる訳ですから、「なぜ塾に依頼してまで学校で授業させるのか?」という考えになってもおかしくありません。

 

 こういったご意見にも、「東大セミナーの塾長は宝達志水町の出身だから、地元に貢献したいという想いがある」「生徒たちに学ぶ機会や刺激を与え、勉強のモチベーションを上げる取り組みとして行っている」と町教育委員会の皆様が、一つ一つ丁寧に対応して下さいました。新しい取り組みをすることができたのも、町教育委員会の皆様が企画に協力してくださったからこそです。本当にありがたいと思います。


地域や学校から信頼を得るために。学校と同じ方向を向いて指導することを心がけた

 「受験対策特別講座」を担当した東大セミナー川本雄介(当社取締役)に、企画成功のために心がけたことを聞きました。


株式会社日本エルデイアイ 取締役、東大セミナー 教務主任 川本 雄介

宝達志水町での指導では、中学校の先生方の指導方針と東大セミナーの指導方針を揃え、宝達中学校の先生と同じ方向を向いて指導することを心がけました。大人がそれぞれ異なることを話すと、生徒は混乱します。「周りにいる大人全員が君たちの背中を押しているんだよ」というメッセージが伝わるよう意識しました。

 中学校の先生方の指導方針を知るために、教室に貼られている掲示物をよく観察しました。「このクラス、先生が目指すゴール像は何か」を読み取るためです。学校の先生にも個性があって、それぞれ目指したい方向が異なります。それがよく表れているのが掲示です。また、先生に直接、指導で意識している点をお聞きすることもあります。


 子どもたちにとって、学校は1日の大半を過ごす場所です。だから「学校の勉強が一番大事」「学校での授業をその都度きちんと定着させることが大事」ということを伝えました。そのためにはどのような学習法が効果的かを指導しています。


 宝達中学校の子は、先生から意見を求められたときに自分の意見を言え、レベルが高いと感じます。そういったポテンシャルを持ってはいるけれど、周りの環境のせいで「勉強しよう」とやる気になっている子が少ないと感じます。金沢市で高偏差値の高校を目指す子は、夏休みに毎日7~8時間勉強しています。でも、宝達志水町では1日1~2時間ぐらいの子もいるようです。やれば必ずできるはずなのに、少しもったいないと思いました。


 だからこそ、宝達中学校の生徒たちに「あなたたちも、こういうことができるよ」というメッセージも伝えるようにしています。


 例えば、「東大を受けたい」と思ったときに、昔だったら地方には全然情報が無く、東大出身者を探し出して聞きに行くしかありませんでした。でも、今なら地方でもインターネットで調べればたくさん情報が出てきます。「自分にも東大のようなところを目指すことができるんだ」と、大きな目標を持ってもらいたいです。


 「高校受験対策特別講座」は教育長からのご要望もいただき、宝達中学校の生徒に受験に対するモチベーションを高めてもらい、普段の学校での勉強法をより効果的にできるような内容を伝えています。


 例えば、石川県公立高校入試は他県に比べて文章で解答する「記述式」の問題が多く出題されます。受験に出る問題形式は、大きく「記述式」「短答式」「選択式」の3つがあります。記号を選択して答える「選択式」の問題は当てずっぽうでも正解することがあり、数値や用語を単語で答える「短答式」の問題は教科書の内容を理解していれば解くことができます。それに対し、記述式の問題は教科書の内容理解だけではなく、解答を自力で書く力も試され、より難易度が高いと言えるのです。

 

 よく、「テストの前だけ勉強する」という子がいますが、記述式の問題を攻略するには、テスト前だけではなく普段の学校での勉強をその都度復習して定着させることが大切です。そのために、復習しやすいノートの取り方や、情報や知識の整理の仕方を科目ごとに指導しています。



学校と塾がお互いに協力し地域の教育をより良くしていける未来へ


川本はこう続けます。


『もっと塾は学校を、学校は塾を知ることができれば良い』と思います。「生徒に成長してほしい」と思っているのは塾も学校も同じです。学校は学校で頑張っているし、塾も塾で頑張っている。でも、お互い別々の場所で仕事しているから、どんな取り組みをしているのかをよく知りません。お互いが歩み寄って理解し合い、もっと協力すれば地域の教育をより良くすることができると思います。」


まだまだ前例が少なく、課題も多い事業です。けれど、新たな事例として切り拓き、学校と塾との連携をより一層深めて地域の教育格差解消に挑んでいきたいと思います。


 『地域や環境に関わらず、子どもが大きな夢を持ち、挑戦できる社会。』

それが私たちの理想であり、日本の未来を大きく切り拓くと考えるからです。


宝達志水町と日本エルデイアイが共同で企画・実施した「高校受験対策特別講座」はアンケートも好評で、今年で3年目を迎えることができました。3年目は「高校受験対策特別講座」の実施に留まらず、新たな取り組みとして夏休みに「夏期特別宿泊学習会」という1泊2日の勉強合宿も新たに行いました。


今後も、地域の教育をより良くできるよう、自治体の方々と協力して教育活動を行ってまいります。




【株式会社日本エルデイアイ(東大セミナー)】


HP:https://www.tohsemi.com/


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