地域の環境と未来の産業を守るため。佐賀発「エシカル」ブランドの誕生と異業種11社が挑むカーボンニュートラルの裏側
SAGA COLLECTIVE(サガコレクティブ)は、「諸富家具、有田焼、肥前名尾和紙、鍋島緞通、うれしの茶、神埼そうめん、佐賀海苔、佐賀酒、柚子こしょう・粕漬け、醤油・味噌」といった地場産業や伝統産業の異業種11社が集まった、全国的にも珍しい協同組合です。
私たちは「佐賀の文化と伝統を紡いでいくためにできることは何か?」をテーマに、2021年の設立以来、産業の垣根を超えて議論し続けてきました。そして、人・社会・地球にやさしい「エシカル(倫理的な)」を合言葉に活動しています。
地球にやさしい活動として、2021年度より11社共通の重要課題である気候変動に対して「CO2排出量の把握・削減・相殺」に取り組み、2022年度にCO₂排出量を前年度比で約15%削減しました。
このストーリーでは、地域の中小企業の異業種11社が連携してカーボンニュートラルに取り組んだ2年間を、事務局長の山口が振り返ります。
海外販路開拓のために集まった佐賀県内の異業種11社
家具製造メーカー・レグナテックの樺島雄大が、2017年に佐賀県内で海外輸出に取り組む異業種の経営者たちに働きかけ、販路開拓を軸としたプロジェクト(有志団体)としてSAGA COLLECTIVEを発足させました。異業種なら互いに取引先を紹介し合い、販路開拓につながると考えたのです。
11社の組合員
5年間の活動を経て、プロジェクトを財政面および体制面から持続可能なものとすべく、2021年に11社で出資して法人化しました。
理事長・樺島雄大
27歳で家業の家具製造メーカー・レグナテックを事業承継。地元佐賀の認知度および魅力度向上を切に願い、「佐賀のものを使った上質な暮らしを世界へ提案したい」と異業種連携の必要性とグループの結成を 10 年以上にわたり声を上げ続け、SAGA COLLECTIVEを発足。
コロナで販路開拓が困難に。自分たちの存在意義を再考する
当初の組合の活動目的は販路開拓でした。しかし2020年以降、新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、国内外での販路開拓活動が困難になりました。そこで活動目的を見直すこととし、事務局長の私がそれぞれの専門家に掛け合い、「米国でのマーケティング」「地域ブランディング」「エシカル・ブランディング」の3つの方針を提示。うち、「エシカル」とは、環境・人・社会などに配慮し、良識に従って考えて行動するという概念です。これが、長年、自然と地域社会に寄り添って事業を行ってきた各社にぴったりとハマった感覚があり、新たな軸に据えました。
こうしてエシカル・ブランディングの専門家である慶應義塾大学メディアデザイン研究科とともに取り組むことになりましたが、何のために(使命)・何を成し遂げたいか(ビジョン)を検討する会議で、初めはなかなか意見が出ませんでした。
そこで私が個別にヒアリングを行い、11社の胸の内を聞いてまわりました。さらに各社持ち回りで理事会を開いて議論を重ねるなど、まずは自社の存在意義を見いだすことを徹底的に行いました。ここでは各産地や企業の歴史、こだわり、戦略などを学び合い、互いのことを深く知り合えました。
各社持ち回りで開催した理事会の様子
次の100年の持続可能性を高めるために必要なのは目の前の事業承継を円滑に進めること
「エシカル」に対する経営者の意識は高く、実は昔から時代に合わせながら各社が人や環境にやさしい事業を行ってきていました。
(左) レグナテックでは木材チップを粉砕して地元の牛農家に提供
(中央)川原食品は半世紀以上かけて無農薬無肥料の実生の柚子を栽培
(右) 先祖代々、原料となる梶の木を自家栽培生する名尾手すき和紙
うれしの茶・有田焼は400年以上、鍋島緞通・名尾和紙・神埼そうめんは300年以上と、組合員の企業や産業には100年以上の歴史があります。いずれの産業も自然環境と密接に関わっており、先人たちが時代の移り変わりにあわせて自然に寄り添って経済活動を行ってきたことで、100年を超えて事業が継承されてきました。
そこで私たちは、「次の100年の持続可能性を高めること。まずは目の前の事業承継を円滑に進めること」が目的であり、販路開拓はその一つの手段であると、目的と手段を再整理しました。そして「地域の力(自然、伝統、技術、コミュニティ)を次に繋げる」「安心して継承する舞台を整える」という使命と、「地域の環境を守り、未来の産業を守る」というビジョンを掲げました。
地域企業11社が連携し、カーボンニュートラルに挑戦する理由
近年は佐賀でも自然災害が多く、2019年8月の九州北部豪雨では天山酒造の酒蔵が浸水。2021年8月の佐賀豪雨では土砂災害が発生して名尾手すき和紙が被災。佐賀海苔は2022年に記録的な不漁となりました。このように気候変動の影響は遠い未来の誰かに襲いかかるものではなく、いま私たちを襲っています。
気候変動の一因とされる地球温暖化対策は世界共通の重要課題で、日本でも2050年のカーボンニュートラル実現に向けた動きが活性化しています。地域企業が単独で取り組むには難しい課題ですが、地域企業11社が連携し、率先してカーボンニュートラルに取り組むことに意義があるのではないかと考え、私たちは行動に移しました。
カーボンニュートラルへのステップ1「CO2排出量の把握」
まず11社それぞれのCO2排出量を把握することからはじめました。当組合では各社のガス、重油、ガソリン、電気などのエネルギー使用量を、エネルギー事業者からの請求書をベースに把握しています。これに環境省が公開する排出係数を用いてCO2排出量を算出しています。Scope1,2といわれる自社が排出している分をまずは把握し、サプライチェーンの上流や下流での排出量(Scope3)の把握についても着手しています。
CO2排出量算出の考え方
(出典)環境省、経済産業省「グリーン・バリューチェーンプラットフォーム」
算出において苦労したのは、11社分のガス、重油、ガソリン、電気などエネルギー使用量の証憑書類を過不足なく揃えることでした。CO2排出量を理論値ではなく可能な限り実態に即した数値で把握するため、金額ではなく使用量からCO2排出量を算出しました。請求書や領収書を1枚1枚照合して集計していくのですが、これがなかなか根気のいる作業でした。11社分の数値を事務局がダブルチェックし、証憑書類の抜け漏れやエクセルへの転記ミスがあった場合には再収集・再集計を依頼するなど、正確なCO2排出量を算出するには想像以上に時間を要しました。
カーボンニュートラルへのステップ2「CO2排出量の削減」
CO2排出量をエネルギー源毎に把握したことで、各社の削減すべきポイントが明らかとなりました。そこで日本政府の目標(NDC水準:2030 年に 2013 年比 46%削減)を上回る水準の目標を設定し、各社で削減活動を行いました。
諸富家具のレグナテックは、電気由来のCO2排出が大半を占めており、照明をLED化することで電力消費量の削減に成功。また電力量モニタリングシステムを導入し、使用量が閾値を超えた場合はアラームが発生し、直ちに消費電力量が多い機械を停止するなど、節電を重点的に行っています。
うれしの茶の徳永製茶は社用車をEV化したほか、再生可能エネルギー由来の電力に切り替えるなどの削減努力を行なっています。
日本酒の天山酒造は、重油由来のCO2排出量が多く、重油ボイラーの運用改善や、高効率な現行機種への入れ替えといった設備投資などを検討。6代目蔵元の七田謙介さんは「組合の中で自社のGHG排出量が最も多かったことに驚いたし、責任を感じた」と、間もなく迎える創業150周年に向け「持続可能な酒蔵の実現」をスローガンに掲げました。
11社で最もCO2排出量が少なかった吉島伸一鍋島緞通は、冷房をつけるタイミングの見直しや、誰もいない部屋の電気をこまめに消すといった自分たちにできる節電をコツコツと積み上げました。
組合の定例会では、こうした各社の取り組み事例を共有し、さらなる削減活動を促しています。
カーボンニュートラルへのステップ3「削減しきれなかったCO2排出量の相殺」
やむを得ず削減しきれなかったCO2排出量は、他の場所で実現したCO2排出削減量(クレジット)で相殺(カーボンオフセット)します。「把握・削減・相殺」の 3 ステップからなるカーボンニュートラルの取り組みですが、特に「カーボンオフセット」の考え方の理解には組合員一同が苦しみました。「自社が出したCO2をお金で解決しているだけだ」という反対意見も出ました。
カーボンニュートラルの取り組み
そこでクレジット選定の際に、私たちの事業環境に直結する「佐賀県県有林の間伐促進プロジェクト」によるJクレジットを候補に挙げ、現場の視察を行いました。実際に県有林に行き、自然環境の保全に取り組む方と意見交換できたことで、自分たちが出したCO2がこの場所に還元されることを実感できました。そして互いの取り組みに賛同した上で、カーボンオフセットを実施しました。
この経験から、私たちはカーボンオフセットの実施においては、お金を払うことで環境へ負担をかける言い訳にならないよう、「地元の自然由来のクレジットであること」「創る人たちと使う私たちが相思相愛であること」この2つの信念を守ることにしました。
こうして「把握、削減、相殺」を2022年10月にひと通りやり切りました。
佐賀県有林を視察したときの様子
活動の輪を広げて気候変動に歯止めをかけたい。政府が掲げる目標を超えた削減計画を策定
11社でCO2排出量の削減努力を続け、2022年度は前年比で重油やガソリン等による直接排出(Scope1)を2.5%、電力による間接排出(Scope2)を22.4%、全体で約15%のCO2eを削減しました。そしてこの実績にもとづき、「2030 年度にエネルギー使⽤量の削減効果のみでNDC⽔準(2013 年度⽐ 46%削減)を達成」「2048年度に再⽣可能エネルギーや J クレジット等を活⽤してカーボンニュートラル達成」という日本政府が掲げる目標(※)よりも野心的な削減計画を立てました。
※NDC水準:2030年に2013年比46%削減、2050年にカーボンニュートラル
そして自分たちの取り組みを強化し続けるとともに、少しずつこの活動の輪を広げるため、組合外の事業者に「カーボンニュートラルのワンストップサービス」として、私たちが検証し実装したカーボンニュートラルのノウハウの提供を始めました。
「サガン鳥栖」1試合のCO2排出量は?地域にカーボンニュートラルを実装
2023年9月に佐賀県鳥栖市のプロサッカークラブ「サガン鳥栖」のホームゲーム「SAGANゼロカーボンチャレンジマッチ」で観客の来場手段やゲーム終了後の廃棄物回収量からCO2排出量を計算しました。
まずチャレンジマッチ前の2試合で来場者の交通手段からCO2排出量を測定し、来場者の約6割が自動車で来場していることや、1試合あたりのスタジアム往復で1人約8~10kg-CO2排出されることを把握しました。
次にサガン鳥栖はチャレンジマッチ開催前に来場者に向けて、歩きや公共交通機関を活⽤した来場促進、⾃動⾞の⾛⾏距離低減(パーク&ライド等)の提案、リユーザブルカップの試験導⼊を行い、チャレンジマッチでCO2排出量の削減効果を検証しました。
検証の結果、来場者の交通手段でパークアンドライドの割合が増え、自動車の利用率が約1割減少しました。CO2排出量は車だと130g-CO2/km、電車だと17g-CO2/kmなので車から電車に変えるだけでCO2排出量は約8分の1になります。
このように地域の企業や自治体とともにCO2排出量を可視化し、これに関わる生活者の行動変容を促すことで、カーボンニュートラルの取り組みを普及させる役割を担っています。
(左)SAGANゼロカーボンチャレンジマッチでの取り組み(右)提供:サガン鳥栖
課題は財源確保。組合内企業の事業承継もサポート
エシカルな活動を継続するには、財源の確保が必要です。今まで国の補助金や組合員の会費などによって活動を行ってきましたが、カーボンオフセット商品の販売やエシカルに関するコンサルティング事業などを通じて、自己財源を確保したいと考えています。
また組合の6社(レグナテック、名尾手すき和紙、三福海苔、吉島伸一鍋島段通、井上製麺、李荘窯業所)には現経営者の子たちが入社しており、2025 年に1 社が事業承継を予定しています。組合には事業承継を経験した 40 代の現経営者、事務局には中⼩企業診断⼠がおり、実践的かつ専⾨的なサポートが可能な体制です。安⼼して事業承継ができる舞台を整え、承継後の事業もサポートしていきます。
代表と後継者 (左)吉島伸一鍋島緞通(右)レグナテック
地域企業11社で協力し、地域の環境と未来の産業を守っていきたい
協同組合として法人化して2年が経ち、設立当初は販路開拓を軸とする想定でしたが、11社で対話を重ねながら、「エシカル」や地球にやさしい「カーボンニュートラル」という新たな軸を見出すことができました。組合活動は始まったばかりです。これからもさまざまな壁に直面すると思いますが、11社で手を携え、地域の環境と未来の産業を守ります。
事務局長・山口真知
ジェトロ入構後の2017年に佐賀へ赴任し、県産品の輸出拡大に従事。後の組合メンバーと出会う。インドへ転勤後、新型コロナの感染拡大に伴う緊急帰国のタイミングで独立と移住を決断。組合設立を知り、自ら事務局長を志願。中小企業診断士の資格を持ち、補助事業等により活動予算を自ら確保しながら、運営に伴う実務・管理全般を担当。
私たちとできること
https://saga-collective.com/wp-content/uploads/2023/09/About_SAGACOLLECTIVE.jpg
SAGA COLLECTIVEサステナビリティレポート2023
https://saga-collective.com/wp-content/uploads/2023/09/sustainabilityreport2023.pdf
私たちについて:https://saga-collective.com/about
視察・見学受付:https://saga-collective.com/study-tour
エシカルな商品:https://store.saga-collective.com
日々の活動情報:https://www.instagram.com/saga_collective
参画企業 :レグナテック(諸富家具)、丸秀醤油(醤油・味噌)、三福海苔(佐賀海苔)、小野原製茶問屋(うれしの茶)、川原食品(ゆずこしょう・粕漬け)、天山酒造(日本酒)、徳永製茶(うれしの茶)、名尾手すき和紙(和紙)、李荘窯業所(有田焼)、井上製麺(神埼そうめん)、吉島伸一鍋島緞通(鍋島緞通)
本件のお問い合わせ先
事務局長:山口真知(Yamaguchi Masatomo)
Mail: info@saga-collective.com
Tel: 0952-47-6112
Address: 佐賀市諸富町山領266-1
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